表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/204

今は信じるしかない

今日こそ、一時の一笑いになれば幸いです。

「……は? メイド? どっかの貴族……には見えないから、どこぞの商会の坊っちゃんか? でも、冒険者ギルドカード……まあ、偽造とかではなさそうだし、いいか。入って良いぞ。次!」


 何やら困惑しているヘルーデンの門番からそう言われて、アイスラと共に中へと入る。


「……かなり困惑していたようだが大丈夫だろうか?」


「問題ありません。それに、この程度のことで狼狽えていては門番は務まりません。直ぐに元の調子に戻るでしょう」


「それもそうだな」


 納得して、門から続くヘルーデンの大通りを進んでいく。

 ヘルーデンの町並みを見て思うのは、王都に負けていない、ということだろうか。

 いや、活気はそれ以上。往来もそれ以上。そう感じた。

 勢いが目に見えてあるというか、王都はどことなく全体的に落ち着いている空気感――都として完成している感じがある。

 ……まあ、謀反の王の統治下でどうなるかはわからないが。


 ともかく、ヘルーデンは王都とは違ってどことなく忙しく変化している――今まさに発展していっているような雰囲気が感じられた。

 建物も全体的に高く、中には五階建てもある。

 外から覗けるお店の中を見る限り、やはり「魔の領域」から手に入る素材が並んでいるところが多い――のは、ここが原産地だからだろう。


 あと目に付くのは、大通りを進んだ先のヘルーデンの中心地にある城。

 おそらく、そこがヘルーデンを治める領主――辺境伯が居る場所。

 辺境伯城はさすがに王城とまではいかないが、十分に立派で、堅牢そうに見える。

 やはりここが「魔の領域」に対する最前線であるため、いざという時に籠城できるように、ということだと思う。


 まあ、その辺りについて今はどうでもいい。

 探すべきは一先ず拠点となる場だ。


「やはり、拠点とするなら宿か。けれど、ここには来たことがないし、良い宿が見つかればいいけれど……」


「そうですね。部屋の広さはきにしませんが、やはりベッドの大きさは気にしたいところ……いえ、狭いなら狭いで自然と密着できますので有りです」


 アイスラが条件のようなことを口にする。

 考えながら口にしているようで、無意識かもしれない。

 ただ、俺も部屋の広さは気にしない。

 ベッドは……寝られれば十分だと思うが、確かに大きい方が気持ち良く眠れる気がする。

 具体的には両手足を広げても出ないくらいあれば……密着? 枕でも抱くのだろうか?

 いや、枕を抱いて寝る……有りかもしれない。


「あとは、防音がしっかりとしているところだと尚良しです。我慢しても声が漏れることはありますし、できれば他の者に聞かれたくありませんし……ジオさまの……は私だけの……」


 防音か。確かに、現状を考えれば、密談ができる場所があるのは都合が良い。

 そこに気付くとは、さすがアイスラ。

 でも、宿屋で防音か……必要なんだろうか?

 声を潜められない状況なんて……ある?

 それと、俺の何?


 まあ、なんにしても、結論は一つ。


「宿泊してみないとわからない。とりあえず、どこかに宿泊してみて駄目そうなら変える。もしくはそこよりも良いところがあれば変える」


 と、した。

 かしこまりました、とアイスラも納得。

 でも、俺の中にも一つ条件がある。

 アイスラは美しい女性なので、下手なことが起こらない宿屋にした。


 とりあえず、大通り沿いで、周囲がそれなりに賑わっているのなら大丈夫だろうと、一つの宿屋を選ぶ。

 三階建てで、横幅もそれなりにある。

 ついでに言えば、そこの隣は町の警備兵の詰所なので、安全性は他よりも高いと思う。


 選んだ宿屋――「綺羅星亭」に入る。


「いらっしゃい! 初めて見る顔だね! 食堂かい? 宿泊かい?」


 入って直ぐの受付のような場所から、赤茶色の髪を後ろで一つにまとめた、恰幅が良い女性が声をかけてきた。

 なんというか、その声は聞いているだけで元気が出てくるような気持ちになる。

 どうやら、ここは一階が食堂になっているようだ。

 また、人気があると示すように席の大半が埋まり、賑わっている。


「宿泊で」


「あいよ! 食事付きでいいかい?」


 受付の女性――名を聞けば「私はローラローナ! 長いからローナでいいよ! みんなそう呼ぶからね! ここの女将だよ!」と名乗られた――から、宿泊についての問いに答えていく。

 朝晩の食堂での食事付きで、とりあえず一週間の様子見で。

 共同だが体を洗える水場が専用であるそうだ。

 金額は思ったよりも安い。

 俺の方は。

 アイスラの方はさらに多少上乗せされていた。


 もちろん、それには理由がある。


「これは、魔法鍵ですか? しかも二本も」


 アイスラの問いに、ローナさんが「そうだよ!」と答える。

 魔法鍵――まあ、簡単に言えば、魔法的な仕掛けが施された鍵で、普通の鍵では決して開けられない、魔法が施された錠を開けるために必要な物。

 つまり、防犯という意味で非常に優れた物である。


 ローナさんから話を聞けば、男性は二階、女性は三階に宿泊するそうで、三階に行くためには魔法錠がかけられた扉を開ける必要があるそうだ。

 さらに、三階の各部屋にも魔法錠がかけられているらしく、階段の扉と部屋の扉の二本の魔法鍵が必要ということである。

 それは確かに料金が違う訳だ。

 ただ、それだけに安全性は高くなっているので、多少料金が上がるのは納得である。


「ですが、これではジオさまと――」


 だが、アイスラは納得していないようだ。

 俺に課せられている制限を気にしているのかもしれない。

 別に一日中離れる訳ではないのだから気にする必要はない、と伝える前にローナさんが待ったをかける。


「まあ、あんたの気持ちは良くわかった。けれどね、これには理由があるんだよ」


「一体どのような理由が?」


「この町は『魔の領域』から得られるモノを求めて、冒険者なんかが多い。それで依頼達成とかで浮かれて羽目を外すのも多くてね。ウチも前までは気にしなかったんだけど、ウチの従業員の中には年端もいかない娘が居て、その娘がそういうことがあったあとの部屋を、感情を消して無心で掃除する姿を見てしまうと……もうね。わかるだろ?」


「………………」


 アイスラは少し黙したあと、頷いた。

 納得したようである。

 でも、俺は納得していないというか、わからない。

 そういうことって、どういうことだ?


 ただ、それを聞ける雰囲気ではないことはわかるので黙っておく。


「それで旦那とも話してね。こういう形を取ることにしたのさ。幸い稼ぎはそれなりにあるからね。ウチに泊まるのはそういう意思はないって示しやすいと、女性からは好評だよ。ははは!」


 ローナさんが笑う。

 何を示すのかわからないが、俺も笑った方がいいのだろうか?


「……致し方ありませんね。こちらの宿屋で問題ありません。まあ、それならそれで、ジオさまに悪影響を与えることはないと安堵しておきます」


 アイスラがここで構わないと口にする。

 これで一先ずの拠点は決まった。

 俺の悪影響とはなんなのか、と疑問は残るが……まあ、いいか。

 アイスラがそう判断したのなら大丈夫だ。


 そして、この宿屋を拠点として、次の行動へと移る。

 まずは数日かけてヘルーデンの中を散策した。

 もちろん、ただ散策した訳ではなく、大通りがどこにどう繋がっているか、居る場所が町中のどの辺りであるかと、多少なりともわかるように把握していったのだ。

 多少でも把握しておけば、何か起こった時に少しは動きやすくなるからである。


 それと並行して、賑わう店や冒険者ギルド内に併設された食堂などにも寄って人の話に耳を傾け、吟遊詩人や商人、行商人などに聞いたりして、少しばかり情報収集もしておく。

 それで家族について少しわかった。


 母上は実家に戻っているので問題ない。

 兄上については話が何も聞けなかった。

 でも、それでいい。

 何かあれば何かしらの話が出てくるだろうから、それがないということは無事である可能性が高い――というか、寧ろ兄上なら反撃のために行動していると思う。


 けれど、話が出てきた父上が問題だった。

 サーレンド大国に捕縛されてしまった、と。


 ………………初めて耳にした時は驚いたが、父上ならそれでもどうにかしそうな気がするので、今は大丈夫だと信じるしかない。

アイスラ「何故同室ではいけないのか……」

作者「いや、理解できないって顔されても困るというか、そういう関係でもないし、残り一室しかない状況でもない限り、普通は別でしょうよ」

アイスラ「………………つまり、そういう関係であれば問題ない訳ですね! では!(駆け出す)」

作者「いや、ではではないから!(追いかける)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ