「ルルム王国大戦」 17
きっと、相当な自信があるのだろう。
何しろ、遠距離から放つことができて、尚且つ放った玉は矢を弾き、魔法もほぼ通じないのだ。
できることと言えば、軌道を僅かに逸らす程度。
並大抵の者ではなす術がなく、放たれれば右往左往するしかないだろう。
いや、矢は弾かれたが、剣で斬るなり、こん棒で叩き返すなりすれば――駄目だな。そうした瞬間に大爆発を起こすことが容易に想像できる。
このままだと、一方的に蹂躙されて終わりだ。
だから、俺のギフト「ホット&クール」なら、どうにかできるのではないか、とやってみた。
視界内に超熱空間を作り出して、飛んでくる玉の軌道上に置く。
ただ、飛んでくるだけなので、当てやすい。
次が放たれて、運が良いのか一発だけだったので、その軌道上に超熱空間を置いた結果――音も立てずに焼失した。
『………………え?』
各所からそんな声が漏れた。
多分だが、ルルム・サーレンド連合軍の方でも同じような声が漏れているような気がする。
大爆発も起こさず、突然消えたのだからそれも仕方ない。
ただ、俺は別のことを考えていた。
今のは一発だったからいいが、複数だったらどうしよう。
それはルルム・サーレンド連合軍も考えたのか、今度は三発同時に放ってきた。
どうしよう……あっ、そうか。別に軌道上に置く――つまり、通過するのをわざわざ待つ必要はないのか。
超熱空間を動かして、左から順に玉へと当てて焼失させていく。
『………………え? は?』
戸惑いに一文字増えた。
ただ、うん。これで問題ない。
飛んでくる玉の脅威は去った、と考えてもいいと思う。
俺がどうにかする。
だから、ルルム・ウルト同盟軍には気にせずに動いて欲しいのだが……何故か動かない。
どうして……あっ、そうか。俺が焼失していると誰も知らないから、何故? と考える方が強く、理由がわからないから動いていいのかわからないのか。
どうしたものか。
「前に進みなさい! 爆発する玉はジオ・パワードさまがすべて消し去ります! 臆せず、前へ!」
アイスラが叫ぶ。
魔法でルルム・ウルト同盟軍全体に響かせている。
言わずとも俺が焼失させていると気付いてくれたようで、嬉しい。
ただ、いきなり言われても戸惑うだけな気がする――が、そうはならなかった。
いや、全体的には戸惑っていたが、直ぐに動いた人たちが居たのだ。
ハルートたちと、お祖父ちゃんたちに、ロレンさんである。
「ジオならどうにかすると思っていた!」
「わははははは! さすがはワシの孫よ!」
「私の孫でもあるんだけどね! 寧ろ、あんたより私に似ているよ!」
「……孫に会いたい」
「はいはい。これが終われば会えますよ」
「ぐぬう! このままだとジオの方が目立ってしまう! 自分がエルフの中心的人物に返り咲いた以上、遅れを取る訳にはいかない! 自分が一番乗りだ!」
ハルートたちはぐるちゃんたちに乗って空中へと飛び上がり、お祖父ちゃんたちとロレンさんはルルム・ウルト同盟軍やエルフたちを放って、単独で前へと駆け出す。
それに倣って前に出て行く人も居たが、僅かである。
全体的な流れではない。
そこに、再び玉が飛んでくる。
また三個。
多分、飛ばす魔道具が三つしかないのだろう。と見せかけてもあるかもしれないので、油断はしないが。
狙いはルルム・ウルト同盟軍ではなく、ハルートたちに、お祖父ちゃんたちとロレンさん。
当てさせる訳にはいかないと、今度も順に焼失させていく。
ちょっ! ハルート、左にずれて――さすがは天使さん。素晴らしい誘導です。
すべて焼失されると同時に、再びルルム・ウルト同盟軍から飛び出す人たちが居た。
ウェインさま、メーション侯爵、ランドス陸騎士団長である。
「はっはっはっ! いや、凄いな、ジオは! 娘の婿に来な――なんか急に寒気が」
「孫に誇れるじいちゃんに、私はなる! ほら、騎士に兵士に冒険者! 行くぞ! 付いて来い!」
「いやはや、何をどうしているのか知らないが、成人したばかりのような子がこれか。末恐ろしな、パワード家は」
それが決定的だった。
「う、おおおおおっ! 行くぜ! 行くぞ! 行くしかない! 全軍! 前進!」
「ここで行かなきゃ、生きて帰った時にやってやったと自慢できねえよなあ!」
「今こそ、受けた恩を返す時! エルフを、舐めるなよ!」
元々崩れていたが、陣形なんて関係ないと言わんばかりに、それぞれ思い思いに駆け出す。
それがルルム・ウルト同盟軍全体へと広がっていき、全軍が前へと進んでいく。
よく見れば、駆けながら陣形を組んでいっている。
器用だな、と思う。
また玉が三個同時に飛んでくるが、すべて焼失させる。
もう通じないと理解して止めても構わないのだが……。
まあ、焼失させるとルルム・ウルト同盟軍から歓声が上がるので、士気向上の役には立っていると思う。
逆に、ルルム・サーレンド連合軍の方は士気低下になっていると尚良い。
「よっしゃ! 空からの攻撃に気を付けなくていいのなら、あとは進んでルルム・サーレンド連合軍の奴らを倒しまくるだけだ!」
不意にそんな声が聞こえてきた。
魔法で拡声しているのは、自分を奮い立たせるためだろう。
だが、少し待って欲しい。
その言い方だと、爆発する玉だけではなく、ルルム・サーレンド連合軍から放たれる矢や魔法も俺がどうにかするように聞こえるのだが……。
どうしますか? 今言ったヤツ、締めますか? という顔でアイスラがこちらを見てくる。
……仕方ない。全部やってやるよ。
超熱空間を視界の大半まで拡張。
ルルム・ウルト同盟軍の上空に展開。
全部にすると、飛んでいるハルートたちに事故で当たりかねないので、その付近は除外。
……天使さんがどうにかするだろう。
あと、超熱だけでは防げないものもあるかもしれないので、同時展開で極冷空間も展開。
ともかく、接敵するまでだ。
事故で当たらないように、それと攻撃を通さないように気を張り続ける。
幸い、俺は前に出ていないので、ルルム・サーレンド連合軍からの攻撃は届かない。
ギフトを使うのに集中できる。
……いや、うん。わかるよ。そうした方がいいというか、そうする意味は。でも、今は広がりながら進んでいくのは勘弁して欲しいというか……ええい! パワード家を舐めるなよ! やってやらあ!
意識を研ぎ澄ませて、ルルム・サーレンド連合軍から放たれる矢や魔法、爆発する玉を焼失、あるいは凍結させていく。
上から氷の塊が落ちて危ない?
攻撃が直接当たらないだけマシだと思え。
そして、攻めに出たルルム・ウルト同盟軍が、ルルム・サーレンド連合軍と激突。
再び、直接戦闘が始まる。
それでも、まだ前線だけ。
後衛に向けて攻撃が飛んでくるので、防ぎ続ける。
でも、そろそろ俺も近付いてもいいと思うが、ギフトの集中が切れるというか、使用中に視線を下げるのはマズい。
ルルム・ウルト同盟軍・ルルム・サーレンド連合軍問わず、焼失か凍結で大多数が死んでしまう。
それはさすがに……。
なので――。
「アイスラ! 運んで!」
「かしこまりました!」
視線は空中に固定しているので見た訳ではない。
でも、感覚でわかった。
アイスラにお姫さま抱っこをされている。
しかも、しっかりと密着した形で。
いや、落とさないように、という配慮だと思うが、それだとこう色々と密着するというか、胸の感触が……。
「……他の運び方で」
「行きます!」
俺は別の運ぶ肩をお願いしようとしたが、その前にアイスラは飛び出してしまった。
若干の羞恥もあるが……耐えるしかないようだ。
作者「じゃあ、俺がジオくんを抱えて」
アイスラ「あ゛?(本気の殺意)」
作者「……(私は空気のポーズを取る)」