「ルルム王国大戦」 16
大天幕内で話し合ったことは、そっくりそのままルルム・ウルト同盟軍全体に通達された。
その結果――。
「うおおおおおっ! やってやる! 俺はやってやるぞ! 駆逐してやる!」
「そうだ! 守るんだ! 俺が、俺たちが、国を守るんだ! 英雄が欲しいなら、俺たちがなってやるよ!」
「故郷には結婚を約束した幼馴染が待っているんだ! 幼馴染に手は出させない! ついでに国も守ってやるよ!」
「はい! 結婚を約束したが出ました! こいつ、戦犯です!」
「そんなに独り身の俺たちを煽りたいのか? ギルティです!」
「つまり、俺たちの敵になりたいと? ルルム・サーレンド連合軍の前に、お前を修正する必要がありそうだな。有罪です」
「え? は? いや、ちょ――やってやるよ! ウルト帝国を守って、幼馴染と結婚して、幸せになってやるよ!」
「「「よくぞ言った! 拳で祝わせてもらう!」」」
ルルム王国を守るため。ウルト帝国を守るため。
ここでどうにかしなければ守れない、と奮起した。
士気は回復――いや、通常よりも上がり、沸いている。
一部、仲間内で殴り合う――見た感じかなり本気――といったことが起こるくらいには、気持ちの立て直しはできたようだ。
まあ、そういう一部には触れないようにしてというか、上官が止めて「ジオさま。上官も参加しています」……上官の上官が止めるだろうから、放っておいてもいいだろう。
ともかく、士気が上がったことで、先ほどまで意気消沈していたのが嘘のように、戦闘準備が急速にすすめられた。
俺も独立遊撃部隊の部隊長として、ハルートたちを鼓舞――。
「え? 別に意気消沈とかは……え? どうして? いや、他の人はどうか知らないけれど、二人は相手の数が多いからといって諦めるとは思えないし、だから、そもそもこうなるかな、と」
ハルートの返答を受けて、アイスラと顔を見合わせて。確かに諦めないなと頷き合う。
「――教え子のくせに生意気ですよ」
また鍛えてあげましょうか? とアイスラが笑みを浮かべる。
その笑みが少し酷薄に見えたのか、ハルートは直ぐに「大丈夫です!」と頭を下げた。
まあ、大丈夫と言われてもやるが。
シークとサーシャさんも、特に問題はなさそうである。
「なんと言えばいいか。殺るなり、隠れるなり」
「元々人が多い方がやりやすかったのよね、私たち」
多い方が得意、ということもあって、人数差は気にならないらしい。
やはり、暗殺者の血が騒いでいないか?
ロレンさんにはエルフの集団を任せている。
援軍として来てくれて嬉しいが、こんな状況なのは少し申し訳ない。
念のために、エルフの集団の状況をロレンさんに聞いてみたが「アイスドラゴンの相手をするよりマシ」と特に気にしていないそうだ。
意気消沈していないのなら、何よりである。
ともかく、ルルム・ウルト同盟軍全体から消沈とした雰囲気は消え去った。
これで戦える。
……それにしても、まだ母上が用意した策はあって、パワード家を信じてと言っていたのは……もしかして、父上と兄上が来るのだろうか?
だが、母上によると、父上は捕らえられているようだし、兄上は南の国に逃れたそうだが………………まあ、それでもどうにかしそうなのが父上と兄上である。
でも、今ここには居ないし、過度な期待はしないでおこう。
それで、気を抜いていられる状況ではないのだから。
―――
――気を抜かなかったのは正しかった。
違和感は、戦いが始まったところからあった。
何しろ、攻めてくると思っていたルルム・サーレンド連合軍が、まったく攻めて来なかったのである。
何かしらの目的があって、そうしているのは明白だが、その目的がわからない。
攻めに出るべきかどうか、悩んでいる内にルルム・サーレンド連合軍が動いた。
ルルム・サーレンド連合軍の方から、何かが飛んでくる。
最初は、黒い点だった。それが玉だとわかるくらいに見えたところで――「当たるな! 散開しろ!」――猛烈に嫌な予感がして、そう叫んでいた。
俺だけではない。
アイスラに、お祖父ちゃんたちやロレンさん、ウェインさまやランドス陸騎士団長といった、一定以上の強さを持つ人たちは同じように感じて叫んでいた。
飛んでくる玉が着弾しそうなところに居る人たちは、大急ぎで離れようとする。
しかし、こちらは陣形を組んでいたのである。
うん。急には無理。
それほど離れることはできずに、飛んでくる玉が着弾しそうになった瞬間――光った。そのあと大爆発が起こり、黒煙が視界を遮り、大爆発の衝撃で震えた大気と大地がルルム・ウルト同盟軍内を駆け抜ける。
大爆発があったのがルルム・ウルト同盟軍の前方であったため、直接の被害はない。
だが――。
「う、ああ……う、腕があ!」
「な、何が……あああ……」
「い、いだい……誰か、助けてくれ!」
黒煙が晴れれば被害は目に見える。
大地は焦げ、突然のことで逃げ遅れた者たち――その中でも死なずにまだ生きている者は呻き声を上げて助けを求めていた。
直ぐに助けが向かうが、こちらに与えた被害は精神的なものもある。
「……今のは?」
疑問を口にすると、アイスラが答えてくれる。
「おそらく、魔道具の一種かと。爆発する瞬間に、玉を中心にして魔法陣が展開されていました。普通に投擲しても向こうの陣地からこちらの陣地まで届きませんから、そこにも何かしらの仕掛けがあると思われます」
「……魔道具、か。大援軍が持ってきた、のだろうな。でなければ、最初から使っているはずだ」
だから、ルルム・サーレンド連合軍は攻めてこなかったのか。
大爆発を起こすのなら、敵だけではなく味方も大被害を受けることになる。
待てよ。魔道具ということは――。
「つ、次が来たぞ! 回避! 回避ぃ!」
誰がそう言い、全員の視線が空へと向けられる。
こちらに向かって飛んでくる玉は、三個。
やはり、あの一個だけではなかった。
三個の内二個は着弾しそうなところから人が離れていく。
もう陣形どころの話ではないが、こればかりは仕方ないだろう。
残る一個には、先に撃墜してしまえばいいと、矢や魔法が放たれた。
だが、玉は矢を弾き、魔法も貫通する。
精々が、軌道が少し逸れたくらいだ。
三個の玉はそのままルルム・ウルト同盟軍の陣形内に落ち、大爆発を起こす。
先の一個の影響で退避は早かったが、それでも大爆発を受けた者は居て、各所で呻き声が聞こえてくる。
このままではマズい。
一方的であり、折角上がった士気が再び落ちる。
今度落ちれば、もう上がらないだろう。
どうにかしなければならない。
だが、どうやって? 矢を弾き、魔法をものともしないものをどうやって防げば……矢でも魔法でもなく……他の手段は何か………………あれ? もしかして、俺のギフトなら焼失させられるのでは?
試してみることにした。
作者「よおし! やってしまえ! ジオくん!」
アイスラ「あなたは何もしないのですか?」
作者「何かできると思うの?」
アイスラ「いいえ、思いません」
作者「そうハッキリ言われると……紙とペンでどうにか……」
アイスラ「大人しくジオさまを応援していなさい」
作者「はい」