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「ルルム王国大戦」 15

 希望を打ち砕くには十分だった。

 上げて落とす、とは正に今だろう。

 エルフの集団が合流して、これなら勝てる? いや、勝ってみせる! と高揚して一晩明けてみると、ルルム・サーレンド連合軍はさらなる援軍が合流していた。

 しかも、さすがに正確な数はわからないが、数千どころの話ではなく、一万は増えているのではないか? と思えるくらいに増員していたのである。

 こちらの士気は、落ちに落ちていた。

 このままでは戦うどころではなく、一方的に蹂躙されて終わるのは目に見えている。

 敗走……いや、戦略的撤退も視野に入れるべき事態となった。


 だが、こちらが負けた場合、ベリグ王ではサーレンド大国を抑えることはできないだろうから、ルルム王国はそのまま吸収されて属国どころか、サーレンド大国の一領土と化すと思う。

 それだけではなく、ここで戦力を大きく失うということは、ウルト帝国がサーレンド大国の侵攻に対抗できるだけの戦力を失うことも意味している。

 後々のことまで考えて、どうするべきか決断の時だ。


 ……フレミアムさまが。

 少なくとも、俺が決めるべきことではない。

 ルルム・ウルト同盟軍の総大将はフレミアムさまなのだから。

 なので、まずは大天幕へと向かう。


「……どうなるのでしょうか」


 アイスラも不安そうだ。


「決めるのはフレミアムさまだ。……ちなみに、アイスラならどうする?」


「私ですか? ……敵が私だけに襲いかかってくるという前提があるのなら、一人一人確実に殺していき、戦う者が居なくなるまで続けます。向こうが三度くらい泣いて謝れば……まあ、止めてもいいかも? とは考えるかもしれませんが」


 止める、ではなく、考えるだけか。

 つまり、続けると。

 ……まあ、アイスラならできそうなので否定しづらい。いや、間違いなくできる。

 ただ、この状況なら、そうはならない。

 アイスラが口にした前提がなければ、敵はアイスラを避けて、他へと襲いかかるだろう。

 被害は抑えられない。

 だから、戦略的撤退をするかどうか、決断しなければならないのだ。


     ―――


 大天幕の近くまで来ると、大天幕の中には大勢が集まっているようで、中の声が外にまで漏れ聞こえてきた。

 内容としては、このまま戦うか、それとも退くか、でかなり言い争っているようだ。

 顔を覚えられているので、止められることなく中に入ると、母上は既に来ていて、お祖父ちゃんたち、ロレンさんに、フレミアムさま、ウェインさま、メーション侯爵(じいちゃん)、ランドス陸騎士団長の他に、ほぼ初見の人たちが多数居た。

 ほぼ初見の人たちは、これまでに合流したルルム王国の貴族や、ウルト帝国軍で立場がある人といったところだ。


 ルルム王国の貴族は、ここで撤退すれば貴族としても終わって色々と失う――だけではなく、ルルム王国が終わるとわかっているのだろう。

 戦うべきだと主張している。


 ウルト帝国軍で立場がある人たちは、ここでもし全滅してしまえばウルト帝国を守る力が大きく減じてしまう。

 退くべきだと主張している。


 話は平行線だ。

 そこで、母上がこちらに来い、と手招きしていたので、母上の側へ。

 母上からの事前情報として教えられたのは、哨戒部隊が帰還していないそうで、やられた可能性が高いらしい。

 一度は敢えて見逃して、不完全な情報を伝えさせることで、こちらの油断や慢心を誘ったのではないか、と結論を出したそうだ。

 多分、間違っていないと思う。


 そうして母上からの事前情報を聞いていると、どちらの言葉も聞いて悩み、答えを探していたフレミアムさまの視線がこちらに向けられる。

 正確には母上を見た。


「ここに至るまでに、私はカルーナの叡智を見させてもらった。道を決めるのは私だが、道標は多くあった方がいい。意見を聞かせてもらえないだろうか?」


「……私的なことを申していいのであれば、ルルム・サーレンド連合軍の大援軍には驚かされました。一度の援軍は読んでいましたが、まさか他にも戦いを終わらせたところがあったとは、サーレンド大国の力は高く見積もっていたつもりでしたが、それよりも高かったようです。ですが、私が打った手はまだ残っています。それが間に合えば、この状況でも互角に渡り合うことはできるかと」


『おおおっ!』


 各所で喜色の声が上がる。

 なくなった希望に繋がるかもしれないことだからだろう。

 母上はそれで終わりではないと続けて口を開く。


「私からフレミアム陛下に言えることは一つだけです。パワード家を信じて頂けないでしょうか? ジオがフレミアム陛下を救出したように、私の予想すら飛び越えていく者ばかりですので」


「………………」


 フレミアムさまが目を閉じて、少し考えたあと――結論を出す。


「……決めた。戦おう。しかし、これは私がルルム王国の者だから、という部分がある。だから、ウルト帝国の者がウルト帝国を守るために撤退したい、ということわかる。だが、考えてみて欲しい。ここで退けば、サーレンド大国の勢いはさらに大きくなる。それを防ぐことができるかどうかを。気持ちの問題ではなく、理知的に考えて」


『………………』


 ランドス陸騎士団長を始めとして、ウルト帝国軍で立場がある人たちは黙った。

 いや、本当はわかっているのだ。

 ここでサーレンド大国を止めなければ、自分たちが戻ろうとも、ウルト帝国が侵略されるのは時間の問題だということを。

 ランドス陸騎士団長が口を開く。


「……そうだな。ここで退けば、ルルム王国だけではなくウルト帝国も終わりを迎えるかもしれない。確かに敵の数は多いが、それがどうした。戦うべきは今。退くのは今ではない。違うか?」


 ランドス陸騎士団長の問いに、ウルト帝国軍で立場にある人は顔を上げ、戦意を滾らせた。

 その姿を満足そうに見たあと、ランドス陸騎士団長はフレミアムさまへお願いする。


「フレミアム陛下。総大将として激を」


「わかった。これは――ルルム王国を取り戻すだけではなく、ウルト帝国を守る戦いでもある! 勝利するのは、我々だ!」


『おおおおおっ!』


 大天幕内を興奮と戦意が満たした。

カルーナ「私が打った手はまだ残っています」

作者「………………(まさか、まったく思い当たらないが、自分のことか?)」

カルーナ「まったく違います」

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