「ルルム王国大戦」 12
アイスラ、ロレンさんと共に、最前線へと向かう。
中央はお祖父ちゃんたちが居て、ナイマンとジェドを相手に拮抗しているようなので、そのまま中央は任せることにして、俺たちが向かうは左右のどちらか。
「どちらに行く?」
「「右」」
「揃ったな。何かあるのか?」
「私はただの勘ですが」
「自分は来るなら、右側からかな? と」
何が? とロレンさんに聞けば、「もし外れていたら恥ずかしくて引きこもりそうだから言わない」と言われる。
まあ、確かに意気揚々と口にしたことが外れていたら、確かに恥ずかしい。
気持ちはわかるので追及はしない。
そうして、こちら側から見て右側の戦場の最前線へと向かう。
直接的な戦闘は既に始まっていた。
敵味方入り乱れての戦闘。
思い思いに戦っている。
一応、判別が付くようにと、ルルム・ウルト同盟軍は青色のバンドを身に付けているのだが、それだけで判断するのはもちろん危険だ。
何かしらの拍子に取れていたり、おしゃれで付けている人だって居るかもしれない。
また、こちらがそういう物を身に付けていると察して、惑わして油断させるために身に付けてくる可能性だって十分にあるのだ。
あくまでも、判断材料の一つである。
「おりゃあ! 斬り裂いてやる!」
「わあっ! 待て待て! これこれ! 味方だから!」
「むっ! 青いバンド! 味方か」
「そうそう味方――な訳ないだろ! 隙あり!」
「うおっ! あぶなっ! どこかで見た顔だと思って油断した……あっ、思い出した。アレだ。お前の顔、彼氏の浮気癖についての相談に乗っている内に俺と結ばれた女性の、その元彼氏にそっくりだ」
「……それは俺だよ」
「え?」
「そうか、てめえか……ぶっ殺してやる!」
「自業自得では?」
目の前で急に激しい戦闘が始まったが、青いバンドはあくまでも判断材料の一つであり、やはり最終的な判断は自分で決めるべきだと思う。
……まあ、青いバンドがなければ、一先ず敵くらいの感覚でいいかもしれない。
ともかく、このまま見ているだけで終わるつもりはないので、俺たちも敵味方入り乱れる戦場へと足を踏み入れて戦いを始めた。
「おらあ! 死ねえ!」
ルルム・サーレンド連合軍の兵士が叫びながら槍を突いてくる。
俺は剣を構え――。
「ジオさまを殺害するだと? 私がそれをやらせるとでも!」
アイスラが俺の背後から飛び出し、突き出された槍を蹴り飛ばして、体をぐるっと回転させながら勢いを付けて頭部を蹴り飛ばす。
飛んでいった先の人を巻き込んでいったのだが、蹴り飛ばされた兵士の兜がべっこりと凹んでいたように見えたのは……まあ、アイスラならそれくらいできるので、何も不思議ではない。
父上も言っていた。
女の脚は凶器だと。
いや、違ったかな? でも、ついつい目が向いてしまうから危険だと言っていたような……。
しかし、アイスラは鋭利な風纏いの剣を手に持っているのに、何故蹴りを?
感情のままに動いた、という風に俺には見えたが……足が凶器なら、そちらの方がいいと判断する何かがあったということか。
「何を呆けていやがる! ここは戦場で、そういうヤツから死ぬんだよぉ!」
父上がどう言っていたかを思い出したいところではあったが、状況がそれを許さないと、剣を構えたルルム・サーレンド連合軍の騎士が斬りかかってくる。
ただ、別に呆けていた訳ではない。
騎士が斬りかかってくるのはしっかりと感知していたので、剣を構えて――。
「おっと! そう簡単に斬らせると思っていたか? 残念! 自分が居たのだった!」
ロレンさんが騎士の横から飛び出してきて、勢いそのままに跳び上がりながら両足を揃えた蹴りを食らわせる。
騎士はそれに反応できずに蹴り飛ばされて、その先に居た人を巻き込んでいた。
盾を持っていたが、その盾を貫いていたので、ロレンさんの両足蹴りは凄まじい威力だと言える。
男の脚は凶器――と、父上は言っていない。
ただ、お祖父ちゃんたちの仲間であるし、それくらいはできても不思議ではないというか、できて当然と思える。
もちろん、俺もただ見ているだけではない。
「た、助けてくれ~!」
こちらに逃げてくる兵士と、それを追っている兵士が現れた。
追っている兵士に青いバンドはない。
なので、追っている兵士を横から割り込む形で強襲して倒す。
すると、逃げていた兵士がこちらに来て一息吐いた。
「ふう~、助かったよ。ありがとう。こんな状況だから味方を見つけるのも一苦労………………あれ? 追ってきたこいつ、仲間だ」
「仲間?」
「そう。俺と同じルルム・サーレンド連合軍のヤツだ。見た覚えがある、こいつ」
「へぇ~………………お前敵か!」
驚きながら剣を振るって倒す。
相手が反応する前だったので余裕だった。
危ない。危ない。
しかし、敵味方が入り乱れているからこそ、こういうことは普通にある訳だし、青いバンドはあくまで判断材料の一つに留めて、しっかりと自分の意思で見極めていかないといけない。
とりあえず、アイスラとロレンさんは味方なので、二人と共に戦っていく。
今はルルム・サーレンド連合軍に勢いがあるため、放っておいても向こうから襲いかかってくる。
それを、アイスラとロレンさんと共に迎撃。
俺はどちらかと言えば防御主体なので、早々倒すということはできないが、アイスラとロレンさんは違う。
アイスラとロレンさんは早々に次々と倒していくのだが……やはり、数が多い。
倒しても新たに現れてきて、このままだと数に負けて押し込まれてもおかしくない。
実際、俺たち以外――周囲のルルム・ウルト同盟軍の方は、徐々に押し込まれ始めている。
戦線が下がり、俺たちが突出している形になろうとしていた。
このままだと、周囲は完全にルルム・サーレンド連合軍に囲まれることになる。
いや、囲まれてもどうにかできると思うが、他で何か起こった時に囲まれたままだと出遅れるかもしれない。
それは避けた……待てよ。囲まれている? つまり、周囲はすべて敵。
敵味方が入り乱れている状態だとギフト「ホット&クール」は味方に当たるかもしれないので使えないが、周囲がすべて敵なら――。
「来たっ!」
突然、ロレンさんがそう言うので視線を向ければ、喜色が浮かんでいた。
どういうこと? と思えば――。
『――わあああああっ!』
威勢のいい声が上がる。
前方ではなく後方から。
どういうことだ? 何が起こった? と近くに居るルルム・サーレンド連合軍の兵士を踏み台にして「お、俺を踏み台に」少し高く飛び上がって後方を確認すると――エルフの集団が居た。
作者「あ、青いバンド! 俺の青いバンドはどこに?」
アイスラ「……(ゆらり)」
作者「や、やられる! 誰か! 俺の青いバンドをーーあった! セーフ! セーフ!」
アイスラ「味方でしたか(にっこり)」
作者「うん。その笑顔が怖い」