「ルルム王国大戦」 11
ぐるちゃんたちが成長したことで、早々にワイバーンライダー四騎を落とすことができた。
残るワイバーンライダー四騎は撤退して、戻ってくる気配はない。
諦めた訳ではないだろうが、機会を待って、再び襲いかかってくる可能性は十分にある。
数の上では、まだ向こうに分があるし。
その時は何かしらの手を考えているだろうから、油断はできない。
それに、時間を稼がれたのは事実だ。
遂に、ルルム・サーレンド連合軍の援軍が到着する。
―――
まだ陽は出ている。
直ぐに落ちそうにはない。
時間があるということで、ルルム・サーレンド連合軍の援軍はそのまま戦場へと入っていく――という様子が、空からなら一目瞭然だった。
空ほど全体の動きは見えないが、地上からも援軍が合流したのは見えていたので、ルルム・ウルト同盟軍の動きも慌ただしい。
緊張感が一気に増したように見える。
それも仕方ない。
下手をすれば、押し切られて終わりである。
不安だろう。
だから、ランドス陸騎士団長が魔法で声を大きくして、激励というか鼓舞するような言葉をかけ始めた。
……「数しか頼みのない相手」とか、「上空は制した」や「サーレンド大国のジェドより私の方が強い」などはいいと思うのだが、「ベリグ王は将来絶対禿げる」とか「ナイマンのナイマンはナイマン」など、後半部分はそういうのばかり――途中で何故かアイスラに両耳を防がれた――で、それは必要だろうか?
いや、緊迫した空気が少し落ち着いたというか、余計な力が抜けたとは思うのだが……まあ、それで臆することなく戦えるようになっていたので、いいか。
さすがは、ウルト帝国のランドス騎士団長である。
ルルム・ウルト同盟軍の士気は上がった。
その様子を見て――。
「……アイスラ。もう空の方はハルートを中心にして任せても大丈夫だと思うか?」
「そうですね。ぐるちゃんたちの成長した強さを目の当たりにしましたし、油断や調子に乗るといったことしなければ、任せても問題ないと思います」
空中はハルートたちに任せることにした。
既に俺が指示しなくても独自で動いていたし、大丈夫だろう。
ハルートにそのことを伝えると「え? いや、え? そんな急に……部隊長も任せようか? いいえ、大丈夫です。……いや、この大丈夫は受けるという意味ではなく否定という意味だから……絶対やらないから!」――まあ、さすがに部隊長は無理だったが、俺とアイスラが抜けても良さそうだった。
ロレンさんは、「もう少しだろうから、地上に行く」と。
行動を共にするそうだ。
……もう少し、とは?
まあ、何にしても、このあとの行動の方向性は決まった。
戦場の上空はハルートたちに任せて、俺とアイスラ、ロレンさんは地上の方に回る。
一度大天幕へと戻り、つーちゃんから下りると、その空いた背には天使さんがスッと座った。
……空飛べるのだから、背に座る必要は……いえ、なんでもありません。
ハルートたちのこと、よろしくお願いします。
―――
ルルム・サーレンド連合軍は、援軍が合流すると直ぐに編成を行い、前進してくる。
距離を詰めてきた。
まるで、この時を待っていたかのように、その動きには迷いがない。
いや、実際にこの時を待っていたのだろう。
数で押し込んでいける、この時を。
ルルム・ウルト同盟軍も、ルルム・サーレンド連合軍が前進してくるのを、ただ見ているだけではない。
そっちが近付いてくるのなら、と待ち構えて魔法や矢を放ち続ける。
その効果は……薄い。
まったく、という訳ではないが、ルルム・サーレンド連合軍に与える被害は小さく、近付く歩みを止めることもできていなかった。
ルルム・サーレンド連合軍が取った方法は、数の多さを利用して、前面に立ってこちらからの攻撃を受ける者は全力で魔法なり動きなりで防御しつつ前進していき、疲労で動けない、あるいは魔力が尽きれば下がって、後方から代わりの者が現れて同じように全力で防ぎながら前進する。
その繰り返しで、ルルム・サーレンド連合軍が近付いてきた。
「私と共に居る、ルルム王国の者たちよ! 武器を取れ! 逆賊と化した者たちに示そうではないか! 正統足るルルム王国軍は私たちの方である、と!」
「「「う、おおおおおっ!」」」
フレミアムさまが魔法で声を大きくして、旧ルルム王国軍を鼓舞する。
「迎撃準備! 相手が来るというのであれば、こちらも出るぞ! サーレンド大国の者共に教えてやれ! ウルト帝国ある限り、貴国は決してこれ以上先には進めない、と!」
「「「おおおおおっ!」」」
ランドス陸騎士団長が魔法で声を大きくして、ウルト帝国軍の士気を上げる。
そして、ルルム・ウルト同盟軍の前線が武器を構えて飛び出すように前に出て――激突。
中央は元より、左右でも直接戦闘が始まった。
「行くぞっ! 行くぞっ! 行くぞっ!」
「フレミアムさまの言う通りだ! 相手は逆賊! 簒奪した者に与したことを、後悔させてやる!」
「おおおおお! 見せてやる! 見せつけてやる! ウルト帝国の強さを!」
ルルム・ウルト同盟軍が全体的に高揚している。
それだけ、フレミアムさまとランドス陸騎士団長の言葉が効いた、ということだろう。
こちらには相手よりも多くの戦闘狂が集まっている、という訳ではないよな?
そうであって欲しい。
――ともかく、直接やり合う戦闘が始まった。
地上からだと全体的な動きはよくわからないが……中央はそのままお祖父ちゃんたちが戦っていて、それが左右に――全体に広がっていっている感じだろうか。
直後ということもあって、まだ戦況を決めるような状態にはなっていない。
時間の問題という気もするが。
上空へと視線を向ければ、ルルム・サーレンド連合軍が前進したのに合わせて、残るワイバーンライダー四騎も前に出て来たようで、ハルートたちが戦っている。
……うん。上空の方は大丈夫そうだ。
「……俺たちも行こう。アイスラ。ロレンさん」
「はい。参ります」
「さて、イクシーたちも暴れているようだし、自分も暴れさせてもらおうか」
アイスラ、ロレンさんと共に最前線へと向かう。
つーちゃん「つつつ……(背中から圧が)」
天使さん「何か?」
つーちゃん「つ、つつ……(なんでもありません)」