「ルルム王国大戦」 10
見間違いかもしれない。
念のため、一度視線を外して、もう一度確認。
……うん。来ているな。ワイバーンライダーが数騎……四、五、六騎に、その後方にまだ距離はあるが、ルルム・サーレンド連合軍の援軍が。
いや、待てよ。ルルム・サーレンド連合軍の援軍ではなく、ルルム・ウルト同盟軍の賛同者で、背後を突いたという可能性は……まあ、ないか。
そもそもワイバーンライダーはサーレンド大国の戦力として有名である。
それが追加で六騎。まだ二騎残っているが、この戦いに合計十二騎を投入したのは……それだけサーレンド大国は今回の戦いに本気ということか。
……あれ? つまり、ワイバーンライダーが八騎になる?
数が倍以上になるだけではなく、独立遊撃部隊への警戒が強くなっているだろうから、そう簡単には落とせなくなった。
……もしかして、俺が考えている以上にこの援軍はヤバいかもしれない。
「ジオさま」
アイスラの声に真剣さが加わっている。
俺と同じく気付いたようだ。
「ああ。敵の援軍がもう間もなく現れる」
「そのようですね。ワイバーンライダーも追加……一度戻りましょう。今の内に報告と休息が必要です」
「そうだな。そうしよう」
ハルートたちに声をかけて、報告と休息のために大天幕へと戻った。
―――
ハルートたちは一旦休ませ、俺とアイスラで大天幕に向かって報告を行う。
報告後、フレミアムさまに問われたことは一つ。
「おおよそで構わない。どれくらいで到着しそうに見えた?」
「……陽が落ちる前に戦いに加わるのは間違いないかと」
「……そうか」
眉間に皺を寄せるフレミアムさま。
総大将として、色々と考えないといけない状況だからだろう。
もしもの時は逃走も視野に入れていかないといけない。
それが頭を過ぎったのだと思う。
そこに助け舟が一つ。
「コンフォードさまたちはナイマンとジェドによって足止めか。なら、全体の指揮は私が取ろうと思うが構わないか?」
ランドス陸騎士団長がフレミアムさまに尋ね、フレミアムさまは許可を出す。
ルルム・ウルト同盟軍の大半はウルト帝国軍であるし、上手く指揮してくれるだろう。
まあ、俺がどうこう言うことではない。
それに、俺――というか、独立遊撃部隊として、これからやることは決まっている。
ワイバーンライダーの頭数が増えたことで、戦場の上空を支配するために動き出すのは間違いない。
支配されてしまうと、大きな被害が出る。
そうならないように、ワイバーンライダーの相手ができるのは、独立遊撃部隊だけだ。
まずはそこから。
休憩を取ったあと、再び戦場の上空へと上がる。
―――
どうやら、報告と休憩の間に、相手は合流したようだ。
ワイバーンライダーの数が、八騎になっている。
援軍自体はまだ遠くに見えるので、先行してきたのだろう。
こちらが上空に上がったと同時に動き出し、こちらへと向かっていた。
つまり、再びワイバーンライダーとの戦いである。
俺たちの情報の共有は済んでいるようで、新しくきたワイバーンライダーの方に油断は一切感じられない。
ぐるちゃんに四騎、ちーちゃん、つーちゃんにはそれぞれ二騎が、襲いかかってくる。
ただ、以前とは違い、ちーちゃん、ちーちゃん、それぞれに襲いかかってきている二騎に積極性はなく、牽制の意味合いが強く出ていて、自分たちがやられないことを前提としているように振る舞っていた。
何かしらの狙いがあって、それが何かは明白である。
その狙いの邪魔をさせないようにしているのだ。
――狙いは、ぐるちゃん。
ぐるちゃん、ちーちゃん、つーちゃんの中でもっとも強いぐるちゃんを、先に落とそうとしているのだ。
だから、四騎が襲いかかっている。
あちらは本気だ。
常にぐるちゃんの四方を囲み、一気に決めるのは危険と判断して、四騎で協力して一騎でもやられないように立ち振る舞いつつ、防がれても気にせずに攻撃を続けて、少しずつでも消耗させようとしている。
決め時が来たら一気に決めるつもりなのは間違いない。
それは、ちーちゃん、つーちゃん、それぞれに襲いかかっている二騎も同じ。
これは厳しい戦いになりそうだ。
………………。
………………。
ならなかった。うん。厳しくなる前に終わったと言うか。
何が起こったかを簡単に言えば……成長、だろうか?
まず動いたのは、ぐるちゃん。
「ぐるるるるる、るるるるるっ!」
いつもより長い咆哮が発せられたので、何事かと視線を向ければ、ぐるちゃんの上空にあった雲が黒く染まり、そこから雷がいくつも落ちる。
狙っては、いるのだろう。
それで雷の直撃を受けたワイバーンライダー二騎が落ちた。
相当な威力だったというのもありそうだが、突然のことで回避できなかったのだろうということと、搭乗している者にも雷が伝わったことで、同時にやられてどうしようもなかった、という感じである。
それに「ぐるっ! ぐるっ!」とぐるちゃんが声を出す度に新たな雷が落ちている。
無事だったワイバーンライダー二騎は避けるだけで精一杯という感じなので、もうどうしようもない状態となった。
次は、つーちゃん。
「つつつ、つつつつつっ!」
突然長く鳴いたかと思えば、自身の周囲に五つの魔法陣を展開。
その魔法陣から人の頭くらいは余裕で貫けそうな氷の槍が現われ、自身に襲いかかるワイバーンライダー二騎に向けて高速で飛び出していく。
避けるワイバーンライダー二騎。
だが、甘かった。
通り過ぎていった氷の槍が弧を描き、再度ワイバーンライダー二騎に向けて飛んでいく。
どうやら追尾するようだ。
それに気付いた一騎はどうにか避けられたが、気付くのに遅れた一騎はもろに食らい、ワイバーンの翼や鱗を貫いて――氷の槍の一つは搭乗している者に当たった――そのまま落ちていった。
その次は、ちーちゃん。
「ちち、ちちち、ちちちちちっ!」
いつもとは違う鳴き声をしたかと思えば、ちーちゃんの背後に、それなりに幅のある光の帯で作られた大きな光の輪が出現。
その光の帯部分から、いくつもの光弾が凄まじい速度で連続照射される。
ワイバーンライダーの一騎を狙った――のだが、もう一騎が庇ったことで落ちることはなかったが、代わりに庇った一騎が落ちていった。
連続照射の光弾はそのまま庇われた方の一騎を狙うが、逃げられてしまう。
それはつーちゃんとぐるちゃんの方も同じ。
つーちゃんの方で残った一騎と、ぐるちゃんの方で残った二騎は逃げ出した。
つまり、再び俺たちは勝利した――のだが、ぐるちゃんはともかく、ちーちゃんとつーちゃんってこんなに強かっただろうか? と疑問だったので、ハルートに確認。
ハルートは「………………え?」と事態を飲み込んでいる最中だった。
ということは、これだけ強かったということを知らなかった、ということでいいのかもしれない。
でも、ここでさらに疑問というか、隠す必要はないし、それなら最初のワイバーンライダー戦で使えば? と思うのだが……と思っていると、天使さんがぐるちゃんたちと相対していき、うんうんと頷いてから、こちらにくる。
「どうやら、先のワイバーンライダー戦で大きな経験値を得てレベルアップ……要は先のワイバーンライダー戦があればこそ、こうして新たな力を得るに至った、と」
ということらしい。
まあ、強くなったということだ……いや、それでも強くなり過ぎではないか? と思うが、まあ、ここでこの強さは非常に助かるので、何も言わずに受け入れることにした。
ぐるちゃん「ぐるるっ!(雷が落ちる)」
作者「ぎゃあああ!」
ちーちゃん「ちちちっ!(光弾を放つ)」
作者「ぐわあああ!」
つーちゃん「つつつっ!(氷の槍を放つ)」
作者「にゃあああ!」
作者「……ふう。ギリギリで生きている」
ジオ「これも成長だろうか」