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「ルルム王国大戦」 8 サイド 3

 ――大気を揺るがす衝撃音が響く。

 発生源は、セントル大平原の中心近く。ルルム・ウルト同盟軍とルルム・サーレンド連合軍の間。戦場の最前線と言える場所。

 大剣同士がかち合い、弾かれるようにして離れた際にも衝撃が発生した。

 それだけの力が込められていたのである。

 結果は互角。

 イクシーの大剣はナイマンの大剣に弾かれ、ナイマンの大剣はイクシーの大剣に弾かれる。

 両者の表情は、笑みだった。


 笑みを浮かべたまま、イクシーもナイマンも大剣をより強くに握り、何度も振るい、かち合わせる。

 どちらも一歩も引かない。

 己の方が上だと証明するために。


「――なるほど! 見た目通り、力はあるようだな! だが、それだけで騎士団長にまでなった訳ではあるまい!」


「ハッハッハッ! 当然だ! 私は! ここであなたを超え! オールを倒し! 私がルルム王国でもっとも強い者であると示すのだ!」


「それは残念だな! ここでワシにやられて、示すことは叶わぬぞ!」


「ハッハッハッ! 私も残念だ! 私が最強であると示したところで、あなたはここで私にやられて居なくなってしまうのだから!」


 大剣同士がぶつかり、激しい甲高い音が何度も鳴り響き、間違いなく耳をつんざくほど煩いはずなのに、何故か二人の会話は成立していた。

 そして、成立しているからこそ、タイミングを計ることもできる。


 先に動いたのは、イクシー。

 大剣をかち合わせるのをやめて、構える。

 突然かち合うのがなくなったため、ナイマンが振るった大剣は空振り、勢いがあったために少し前のめりで転びそうになった。


「そのような姿を晒して、最強を名乗るつもりか? その資格があるか試してやろう! ――『パワード流大剣術・一型・剛理斬り』」


 剛力の理を以って斬る。

 要は、筋肉に任せた、ただの全力斬りである。

 しかし、鎧を身に付けていようとも両断できるだけの力が大剣に込められていた。

 ナイマンはそれを敏感に感じ取る。

 体勢が悪く、大剣を振るおうとも、先ほどまでとは違ってかち合うことはなく、そのまま大剣ごと両断されるということを本能で理解した。

 ナイマンからすれば、絶体絶命である。

 死を意識するナイマンの視界に映り込んだのは――。


(あっ、そうだ。私には大盾があった)


 大盾である。

 受ければ、そのまま両断されていただろう。

 ナイマンは本能でそれを理解して、イクシーの振るった全力の大剣を、大盾で見事に受け流す。

 それだけで、イクシーはナイマンが攻撃よりも防御に優れているということを見抜く。


「ハッハッハッ! 私を殺し損ねたな!」


「そんなに死に急ぎたいのであれば、殺してやろう! 『パワード流大剣術・二型・死月』」


 相手を死なすつもりで放つ突きである。


「私にも、技はあるのだよ! 『ルルム王国流豪大剣・壊』」


 それは、何物をも破壊し尽くしみせるという豪気を伴った剣筋。

 なんてことはない。

 全力斬りである。


 イクシーの突きとナイマンの全力斬りがかち合い、これまでで一番の衝撃が周囲へと走った。

 ただ、決着は着いておらず、拮抗状態となる。


「……わっはっはっはっ! 『パワード流大剣術』」


「……ハッハッハッ! 『ルルム王国流豪大剣』」


 どちらともなく笑い出し、イクシーとナイマンは互いに技名を口にしながら、大剣を振るって戦い続けた。


     ―――


 イクシーとナイマンが戦っている場の近くでは、コンフォードとジェドが戦っている。

 コンフォードは双剣による乱舞のような多連撃の攻撃と、年齢に見合わない素早い動きによる回避で、ジェドを相手に翻弄していた。

 ジェドは大槍を重さが感じられないくらいに軽快に、巧みに使うことで攻撃と防御の両面を兼ね備えていて、さらに盾も持つことで万全の状態を維持している。

 一見すると、コンフォードの方が攻めているので有利に見えるが、ジェドはまだ傷を負ってすらいない。

 コンフォードの攻撃を完全に防いでいた。

 だからといって、ジェドに余裕は一切ない。

 少しでもミスれば、一気に攻撃を食らいかねないからである。

 コンフォードの攻撃は、それだけ苛烈で高い密度であった。


「……ジェドと言ったか。中々やるな! さすがはサーレンド大国の騎士団長だと言える!」


「お褒め頂きありがとうございます」


 こちらもまた、激しい攻防を繰り広げつつも、両者には会話する余裕がまだあった。

 本気ではなく、相手にはまだまだ余力がある、と互いに感じている。

 だからこそ、ジェドは会話できる今の内に聞きたいがあった。いや、できた。

 コンフォードからの攻撃を防ぎつつ、口を開く。


「一つ、お伺いしても?」


「なんだ? 答えられる範囲であれば答えよう。もちろん、こちらの動向などについては答えられないが」


「いえ、そうではなく……」


 ジェドは言いにくそうにして、一度視線をイクシーとナイマンが戦っている方に向けてから、思い切るように口を開く。


「ルルム王国には、本当にあのような大剣の流派があるのですか? オールも時にあのようなことを口にしている時がありましたので」


 コンフォードも一度、イクシーとナイマンが、喜々として技名を口にしながら戦っている姿を見る。


「ない。と言いたいが、今後はどうだろうな? この戦いで注目を集めれば、案外そういう流派が生まれるかもな。そうなれば、あいつらが開祖か………………いや、無理だな。人に教えられるとは思えない」


 それにはジェドも同意を示すように頷きを返した。

 そんな会話をしていても両者は手を止めず、戦いを繰り広げていく。


     ―――


 イクシーがナイマンと、コンフォードがジェドと戦っている間、シーリスとウェルナは共に来たルルム・ウルト同盟軍を率いて、ナイマンとジェドと共に来たルルム・サーレンド連合軍の相手をしていた。

 ここも簡単ではない。

 ルルム・サーレンド連合軍の方が数は多く、また、ナイマンとジェドの邪魔をしないようにという意識が強いのか、攻撃ではなく防御に主体を置いている。

 そのため――。


「まったく、面倒だね! こうも相手に攻め気がないというのは!」


「本当に。しかも、私たちの魔法をしっかりと防いでいる。手練れなら、攻めに来ればいいものを」


 シーリスとウェルナが卓越した魔法使いであったとしても、相手は人数が多いということで、複数人で魔法を防いでいた。

 共に来たルルム・ウルト同盟軍も攻撃を放っているが、この場に来ているルルム・サーレンド連合軍を崩すのは難しい。

 ここを突破しようと思うのなら、それ相応の時間がかかるだろう。


 つまり、ルルム・ウルト同盟軍は中央突破を試みたが、途中で足を止められたのである。

 ルルム・サーレンド連合軍の援軍が来る前に大打撃を与えようという目論見は――失敗した。

イクシー「ーーパワード流大剣術ぅ!」

ナイマン「ーールルム王国流豪大剣ん!」


作者「ここで必殺技ごっこをしないで!」


イクシー「ーーごっこではあ!」

ナイマン「ーーナイマンン!」

イクシーとナイマンが、それ! と指を指し合う。


作者「もう駄目だ、これ」

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