「ルルム王国大戦」 6
陽の光を感じて――目を覚ます。
呼び出しがなかったということは、夜襲はなかったということになる。
いや、呼び出されなかっただけかな? それとも、呼ばれたけれど眠りが深くて気付かず寝ていた?
いやいや、それこそあり得ない。
夜襲で呼び出しがあるかもしれないというのに、ぐっすりと寝る訳がない。
何が起こっても直ぐ起きられるように、仮眠というか、深く眠ってはいなかったはずだ。
となると、やはり夜襲はなかった、はず。
確認してみよう。
アイスラが既に起きていたので確認する。
「夜襲はあったか?」
「いいえ、ありませんでし――(寧ろ、私がジオさまを襲いたかったくらいです。もちろん、襲うような真似は致しませんでしたが……ここにカルーナさまが居なければ、『これだけ大きな戦いでは私もどうなるかわかりません。ですので、ジオさまからのお情けを』と大義名分を得て、そのままちょちょっと……もちろん、死ぬつもりはありませんので、そのままジオさまと結ばれて甘く濃厚濃密で自堕落な毎日を過ごして)――た」
やはり夜襲はなかったようだ。
ただ、アイスラは何か含んでいるような感じだったが……いや、気のせいか。起きたばかりであるし、まだ寝ぼけているのかもしれない。
水を用意して、ギフト「ホット&クール」で冷たい水にしてから顔を洗ってリフレッシュ。
うむ。思考がスッキリしてきた。
それからアイスラに現状を確認。
戦いは、まだ始まっていない。
現在準備中というか、食事や治療中だそうだ。
まあ、物資に関しては通ってきたルルム王国の領地からだけではなく、ウルト帝国からも届いているので不足するようなことは一切ない。
母上とロレンさんは大天幕の方に行っているそうなので、まだ眠っていたハルートたちを起こして朝食――戦闘食というか携帯食が多く、あんまり美味しくなかったので肩掛け鞄の中から少し出した――を頂いてから、独立遊撃部隊として、ロレンさんを迎えに大天幕の方へと向かった。
―――
大天幕で母上と朝の挨拶を交わし、ロレンさんと合流した。
フレミアムさまは……昨日詰め寄られた影響からか、少し憔悴しているように見える。
……大丈夫だろうか?
「あらあら、フレミアム陛下。そのような姿ではジオが心配するでしょう? しっかりなさいませ」
「はいっ!」
母上に言われて、フレミアムさまがしゃんとする。
やはり、昨日の影響がまだ残っているようだ。
……まあ、戦いが始まればそれどころではなくなるので元に戻るだろう。
それから、ルルム・ウルト同盟軍の大隊長格が集められて、昨日の戦いを経て本日はどう動いていくかの話し合いが始められた。
独立遊撃部隊ではあるが、味方の動きの把握は必要であるため、聞き逃さないように注意する。
そうして、ある程度の方針が決められて、戦闘準備に入ろうか――というところで急報が届けられた。
報告は、母上の考察を元にして、セントル大平原の向こう側を哨戒させていた部隊から。
――サーレンド大国軍の援軍、約五千人がセントル大平原に向かっている、と。
到着予定は、本日の陽が落ちるかどうかといったところ。
母上の考察が正しければ、サーレンド大国がルルム王国ではないどこか別のところに攻め入っていたのが終わり、それが援軍として向かって来ている、ということである。
また、哨戒部隊が見た限り、完全武装であり、怪我を負っているような者も見られなかったそうなので、無事だった者だけで構成されているのだろう。
なるほど。援軍が向かって来ているとわかっているからこそ、ルルム・サーレンド連合軍は夜襲を仕掛けてこなかったのか。
いや。まったく喜べない。
ここでの援軍の追加――それも約五千人。
正直に言えば、戦局を決めかねない。
非常にマズい状況である。
だが、まだ着いた訳ではない。
着くまでに、まだ時間がある。
先ほどまで話し合っていた内容は破棄。
昨日よりも、さらに強く攻勢に出ることになった。
できれば援軍が来る前に勝敗を決したところではあるが、それは非常に難しい。
少なくとも、向こうに焦りはないだろうから、もし守りに徹せられでもしたら無理だと思う。
だから、せめてもの抵抗というか――いや、これは弱気か。
これから、援軍が来たとしても、もう状況は覆せないまでの大打撃を与えるために攻める、という方針に変更された。
―――
昨日とは違い、ルルム・ウルト同盟軍は昨日よりも左右に人を集めて厚みを持たせて、戦いは再び始まった。
ワイバーンライダーはまだ二騎残っているし、現れればいつでも向かえるように、独立遊撃部隊は昨日と同じ布陣で空中に上がって待機しつつ、上空から戦場の様子を窺う。
まずは壊れた土壁や新たな土壁が形成されて、遠距離攻撃による応酬が行われる。
ワイバーンライダーは……出て来ない。
飛んでいない訳ではなく、ルルム・サーレンド連合軍の後方上空で待機している。
動く気配がないのは……俺たち独立遊撃部隊が攻めてくるかもしれないと警戒しているのだろう。
……今ならワイバーンライダーの数よりも多いし、独立遊撃部隊も攻め時だろうか?
いや、今日で終わるかもしれない戦いの主役は俺たちではない。
主攻は別だ。
それは厚みを持たせた左右ではない。
左右の厚みは、押し込まれないため、耐えるためだ。
主攻は中央。
フレミアムさまとランドス陸騎士団長が全体を見ることに変わりはないが、単独で他とは一線を画した強さを誇るお祖父ちゃんたちを集めて、中央突破を試みるのだ。
そのお祖父ちゃんたちが、ある程度の数の騎士や兵士、冒険者を率いて前に出る。
お祖父ちゃんたちが率いている人たちが、進路上に土壁や炎の壁、水の盾といったものを展開して、ルルム・サーレンド連合軍からの遠距離攻撃を防いでいた。
ルルム・サーレンド連合軍に向けて一気に進んでいく。
その動きに合わせて、ルルム・ウルト同盟軍は戦線を上げていった。
ただ、ルルム・サーレンド連合軍はそのままこちらが着くまで大人しく待つつもりはないようで、中央からお祖父ちゃんたちに向けて出撃する一団が現れる。
その一団の先頭に居るのは――ナイマン。
それと、離れた位置から見ても一目でわかるくらいに只者ではない感がある、青い短髪の五十代くらいの男性がナイマンと共に居た。
イクシー「では、中央突破といくぞ!」
作者「うん。それはわかったけれど、さも当然のように連れていかないで。ジオくん! ジオくーん! 助けてー! このままだと肉壁にされちゃう!」