「ルルム王国大戦」 3 サイド 1
――のちに、「ルルム王国大戦」と呼ばれる、大きな戦いが始まった。
旧ルルム王国軍・約六千人と、ウルト帝国軍・約二万人で構成されたルルム・ウルト同盟軍は、中央に旧ルルム王国軍とウルト帝国軍の一部を置いて厚みを持たせ、左右に残るウルト帝国軍を展開した布陣を取る。
対して、新ルルム王国軍・約一万二千人と、サーレンド大国軍・約二万三千人で構成されたルルム・サーレンド連合軍は、中央には対抗するようにして新ルルム王国軍の八千とサーレンド大国軍の一部を置いて、残りとサーレンド大国軍を左右に展開させているが、どこかに厚みを持たせるのではなく、数の多さに任せて全体的に厚みがある布陣を取っていた。
戦いは、どちらもまずは魔法によって土の壁を作り出して防壁を作り出してから、実際に矢を射るだけではなく、火の矢、水の槍、風の刃と遠距離からの魔法攻撃の応酬を行い、近付けるところは近付いて直接戦闘を始まり、中央だけではなく、左右にも戦闘が広がっていく。
一見すると、数で勝っているルルム・サーレンド連合軍の方が有利なのだが、実際はそこまで有利という訳ではなく、数で圧し潰されてもおかしくないところを、ルルム・ウルト同盟軍は耐えていた。
ルルム・ウルト同盟軍の方が有利に戦いを進めている場所もあるくらいだ。
もちろん、これには理由がある。
ウルト帝国軍とサーレンド大国軍の数の差は約三千。
序盤ということもあって、まだまだ互いに余力を持っているために、数が少なくともウルト帝国軍は互角に渡り合うことができていた。
対して、新旧のルルム王国軍の数の差は約六千――という単純な数字なだけではなく、倍の差となっている。
そのため、本来であれば倍の差があるというのは戦いにおいて非常に大きな要因であり、一気に決着が着いてもおかしくない。
それでも、旧ルルム王国軍は新ルルム王国軍に対して互角――以上の戦いをしていた。
何故、数で劣る旧ルルム王国軍がそこまで戦えるのか。
それは、全体の質――特に騎士と兵士の質が違い過ぎるからである。
旧ルルム王国軍の騎士と兵士は、元々サーレンド大国の侵攻に対してウルト帝国軍と共に戦っていた者たちがほとんどなのだ。
わかりやすく言えば、戦場経験豊富なオールの部下たちが集まっているのである。
新ルルム王国軍の騎士と兵士は、貴族の私兵として領地でぬくぬくと過ごしていて、戦場に出たことがある者はほとんど居ない。
戦場経験不足なのである。
ちなみに、参加している冒険者の質はそこまでそこまでの差はない。
なので、新旧のルルム王国軍の騎士と兵士の質の差が、如実に現れた結果である。
―――
新旧のルルム王国軍の騎士と兵士の質の差を感じ取ったのか、先に大きく動いたのはサーレンド大国軍。
空からの攻撃という、戦局を一気に傾けることができる手段を早々に使用する。
ルルム・ウルト同盟軍から隠すように後方に待機させていたワイバーンライダー六騎。
すべてを出撃させる。
これで一気に戦局を自分たちの方に傾けるつもりであった。
それに待ったをかけたのが、ジオたち――独立遊撃部隊である。
早々にワイバーンライダーの一騎を落としたという、快挙と言っても過言ではないことを実行した。
ルルム・ウルト同盟軍の総大将となったフレミアムは、本陣でその様子を見ていたのだが、その表情は自然と笑みが浮かぶ。
「一騎落としたのは、ジオとアイスラか。さすがはパワード家だな。もしここにオールが居れば、褒め称えていただろうな」
フレミアムがそう声をかけたのは、カルーナ。
本陣が一番安全であるため、カルーナはここに居たのだ。
また、フレミアムとオールの仲は良く、その繋がりでカルーナとも面識がある。
だから、フレミアムは気軽に話しかけることができるし、カルーナも気軽に返すことができた。
「オールが戻って来たら、教えておきますよ。まあ、ジオは元々できる子だと知っていますが。それはそれ。これはこれ。陛下の言う通り、褒め称えることは間違いありません。陛下を助け出したことも付け加えられますし」
「はっはっはっ! 確かにその通りだ! この戦いを乗り越えたら、何かしらの褒美を用意しないとな! ……その時は手加減してくれると助かる」
本音である。
カルーナが関わればどこまで搾り取られることになるか。
フレミアムはよくわかっていた。
「これでも、無茶は言ってこなかったと思いますが?」
「う、うん……まあ、そうだな」
でも、要求されるレベルは高かったよな? と思ったが、フレミアムは口にしなかった。
賢明である。
代わりに、フレミアムは戦場に意識を向けた。
空中では、ジオたちがワイバーンライダー五騎を相手に立ち回っている。
ワイバーンライダーの数を減らせていないのは、一騎落とされたことでジオたちに対して警戒を強くしてしまったため、そう簡単には落とせなくなったからだ。
それでも、フレミアムが見た限りだとジオたちが優勢で、小回りを利かせて、上手く立ち回っているように見えた。
ジオたちは大丈夫だろう、とフレミアムは戦場の全体へと視線を向ける。
左右の攻防に関しては、問題なかった。
当初の勢いと、主にサーレンド大国軍の力によってそのまま押し込まれてもおかしくなかったが、そうなる前にイクシー、シーリス、コンフォード、ウェルナが兵を率いて直ぐに対応したことで押し留め、今では押し返そうという雰囲気すらある。
突出した存在は頼もしい限りだ、とフレミアムは思う。
また、それはルルム・ウルト同盟軍の強みの一つであると理解していた。
数では負けているが、質で考えれば、ルルム・ウルト同盟軍の方が傑物は揃っている、と。
もちろん、ジオたちもその中に入っている。
だから、左右はこのまま任せて大丈夫だと判断して、フレミアムは中央を意識した。
中央は、完全に膠着状態となっている。
後ろには行かせないが、前にも出られない。
もちろん、その状況を打破する方法はあるが、それは相手も同じだ。
ルルム・ウルト同盟軍には、まだウェイン、それとランドス陸騎士団長が居る。
ルルム・サーレンド連合軍には、まだナイマン騎士団長、それとサーレンド大国のジェド騎士団長が居るのだ。
突出した存在を介入させれば、相手も介入させてくる。
条件は同じ。
それでなくとも、ルルム・ウルト同盟軍は数の上では負けていて、ルルム・サーレンド連合軍にはワイバーンライダーの他にも秘策があるかもしれないのだ。
タイミングを間違えれば、追い込まれるのは自分たちの方である、とフレミアムは考える。
それに、今はまだその時ではない、とわかっていた。
セントル大平原に着いて両軍が戦闘準備を始めた頃は高かった陽も今は傾き、落ち切るまでもう間もなくとなっている。
(戦いは始まったばかり。それに、そろそろ陽が落ちる。今から決めにいったとしても時間がなく、決めきれないだろう。さすがに暗闇の中で戦うのは向こうも遠慮したいはずだ。今日はこのまま一旦終わりだな。………………夜襲の警戒は怠らないようにしよう)
だから、焦る必要はない、とフレミアムは自身を一旦落ち着かせ――それでも、次の瞬間には何が起こるかわからない以上、その時を見逃してはならないと、気を張って戦場を見続ける。
フレミアム「……あちらは大丈夫だろうか? そちらは……問題なさそうだ」
カルーナ「頑張れ頑張れ、ジーオ! ファイトファイト、ジーオ! やれ! そこ! ーー良し! ワイバーンライダーを落としました! さすがジオ!」