「ルルム王国大戦」 2
飛べない ―― 俺、アイスラ、ハルート、シーク、サーシャさん、ロレンさん
飛べる ―― ぐるちゃん、ちーちゃん、つーちゃん、天使さん
俺とアイスラはつーちゃんの背に乗り、ハルートとロレンさんはぐるちゃんの背に乗り、シークとサーシャさんはちーちゃんの背に乗って、天使さんは独力で空へと舞い上がる。
目指すは戦場の上空。
ワイバーンライダー六騎と戦い、落とすためだ。
この配置は時間がない中で考えた結果である。
当初は、ぐるちゃんたちだけで行くのがいいかな? と思った。
天使さんは戦えなくとも、ぐるちゃんだけでも十分にいけると思うし、俺たちが乗ってしまうと重しになってしまい、速度や動きに制限が付いて良くないと考えたからだ。
指示出しをするハルートが大変になるが、できなくはないと判断した。
飛べない組からは、それでいいのでは? と概ね了承が返ってくる。
しかし、飛べる組――ぐるちゃんたちから待ったが入った。
いや、正確にはちーちゃんとつーちゃんが、いやいや、単独でワイバーンの相手とか無理だから、と繋がりを通じてハルートに必死に伝えてきて、そのハルートから聞いたのである。
「……無理?」
と尋ねると、ちーちゃんとつーちゃんから力強い頷きが返された。
そうか。確かに、普通に考えれば燕よりワイバーンが上か。
「……本当に無理か?」
無理だそうだ。
器用に翼を交差させて、絶対無理! と意思表示している。
となると、ぐるちゃんは……やってみせますよ! と胸を張っているが、さすがに六騎相手は無茶無謀だろう。
……一応、アイスドラゴン戦の時のように、天使さんの力によって空中に足場を作って独自で空を駆ける方法もあるにはあるが……お祖父ちゃんやコンフォードさまみたいに、いきなりできるだろうか?
自信がない、と返される。
いや、アイスラはやってみせますと返してきたが、スカート以外の服装は? ……メイドとしての矜持が許さない、と言うので却下。
下から覗かせるつもりはない。
そこで、ちーちゃんとつーちゃんが、背に乗せるのが二人くらいであれば、速さでは負けるけれど、小回りを利かせるから大丈夫! と伝えてきた。
まあ、それなら、一人は攻撃を警戒して、もう一人は攻撃に集中できるから……悪くない、と判断する。
皆もいける、と判断。
それで、それぞれに乗って飛び立ったのである。
―――
当然だが、空中には視界を遮るものがない。
いや、雲は視界を遮るか……高度的に視界を遮るものはない。
こちらが飛び立って向かえば、向こうもこちらに気付く。
ワイバーンライダー六騎は、ルルム・ウルト同盟軍を空から襲撃しようとしていたが、こちらに狙いを変えてきた。
まずは――といった感じである。
ルルム・ウルト同盟軍は、前衛の被害を覚悟の上でワイバーンライダー六騎に攻撃しようとしていた動きを止めた。
そうして、ワイバーンライダー六騎にある程度近付くと、ワイバーンに騎乗している者たちが警戒の視線を向けてくる。
警戒は当然だろう。
何しろ、こちらにはグリフォンが居るのだから――と思ったが、違った。
視線の向き先は――ちーちゃんとつーちゃん?
「「「「「「……陛下に糞落としたのだ」」」」」」
聞こえた訳ではないが、そういう口の動きだった。
騎乗している者はそんな感じだったが、ワイバーンの方はしっかりとしていて、敵が来た! と口元から陽が漏れ出たと思えば、大きく口を開き、大きな火の玉をこちらに向けて勢い良く吐き出す。
「下に落とすなよ!」
ぐるちゃんたちが既に回避行動を取っているので避けられそうだが、それだけでは意味がない。
ルルム・ウルト同盟軍に大きな火の玉が落ちるのでは、俺たちがこうして出てきた意味がない。
どうにかして落ちないように――。
「それくらいなら問題ありません。私が露払いをしておきますので気にせずに戦いなさい」
天使さんがどうにかしてくれるようだ。
これで、ワイバーンライダー六騎に集中できる。
一気に距離を詰めると、そこで漸く騎乗している者がワイバーンに命令を出して動き出す。
……命令? それ、さっき勝手に動いていたようだけど、本当に言うことを聞くのだろうか?
「ワイバーン! 火の玉!」
「ゴアッ!」
騎乗している者の命令で、ワイバーンが再び火の玉を吐き出す。
狙いはもちろんこちらだ。
命令通りに動くようである。
回避して、一気に近付いたところでアイスラが立ち上がったので、落ちないようにアイスラの腰を掴む。
「もっと強くお願いします」
「も、もっと?」
抱き着くような形になってしまうが……まあ、不安定だと力を存分に振るえないし、しっかりと支える必要があるのは確かだ。
縋って抱き着くような形で、しっかりと支える。
「うぅん!」
「どうした? アイスラ? 強かったか?」
「いえ、問題ありま――す。もう少し身を寄せて強くお願いします」
「わかった。こうか?」
「おっ――」
「お?」
「これで問題ありません。このままでお願いします」
「わかった」
――「お」はなんだったのだろうか?
疑問に思う前に、もうつーちゃんはワイバーンライダーの一騎に迫っていた。
アイスラが何かするか、あるいは俺とアイスラを乗せたつーちゃんがそのまま体当たりをしてくると考えたようで、騎乗している者が命令して、ワイバーンがその翼でつーちゃんを打とうとしてくる。
先に攻撃が当たるのはワイバーンの方だが、つーちゃんは小回りを利かせてワイバーンの翼を上手く回避した。
そこに、アイスラが収納魔法の中から鋭利な風纏いの剣を取り出して――ワイバーンの翼を斬り払う。
「――グギャウッ!」
「う、わあああああ!」
ワイバーンが翼を斬られた痛みで叫び、落下するのに合わせて騎乗している者も叫ぶ。
意表を突いた形で、相手も油断したところがあったから、容易に落とすことができた。
これで、ワイバーンライダーはあと五騎。
相手に油断は、もう感じられない。
すべて倒すのに、少し時間がかかりそうだ。
作者「ジオくん。あの『おっ』のあとには『F』」
アイスラ「せいっ!(腰の入った正拳突き)」
ジオ「いいのが入って気絶してしまったようだ。何を伝えたかったのだろうか……」