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お楽しみにはなりません

本日から一話投稿です。

ストックがまた溜まれば、一日二話とか投稿したいですね。


本日の夜のお供に、どうぞ。

 特に何も起こることなく、町へと戻ることができた。

 一連の説明というか報告については回収した門番二人に――それと討伐隊に参加していた壮年の男性に任せる。

 立ち寄って手伝っただけの俺やアイスラが言うよりも信憑性があるからだ。

 町が無事。オークの方も全滅で討伐隊に死者は居ない。という報告に、門番を含めた周囲の人たちは大いに沸く。

 その内の何人かが町の中へと駆けていく。

 他のところにも伝えるためなのと、多分シスターとシスター見習いを呼びに行ったのだろう。


 その間、少年は傍観――とはならなかった。

 門番たちから少し説教されたのは可愛い方だ。

 報告を受けて急いで来たと思われるシスターとシスター見習いが現れると、シスター見習いがもの凄い剣幕で少年に詰め寄り、叱るように声を上げてまくし立てるように色々口にしていたが、最後には少年を抱き締めて泣き始めたのである。


 少年はオロオロした。

 どうすればいい? と壮年の男性に視線を向けるが、壮年の男性の方は泣いているシスターに抱き締められて身動きが取れないというか、それどころではない感じだ。

 なので、少年の手助けはできない。


 少年は周囲に助けを求めるが、周囲の人たちは微笑ましい表情を浮かべて優しく見守っているだけ。

 いや、違った。

 一人――門番たちの隊長だけは、壮年の男性とシスターを見て呆然としている。

 門番たちが慰めるように声をかけていたのが印象的だった。


 すると、少年は俺とアイスラに助けを求める視線を向けてくる。

 さて、どうしたものか。


 考える前に、アイスラは行動を起こしていた。

 声をかけるのは雰囲気的に躊躇ったようで、仕草だけで伝えようとしている。

 両手を前に出して何かを優しく包み込むような仕草……おそらく、抱き締め返せ、と伝えているのだろう。


 しかし、少年は首を傾げて、わからないと伝えてきた。

 アイスラはもう一度同じ仕草を取るが……駄目なようだ。

 ……ふむ。

 少年の視線を俺に向けさせ――。


「失礼」


 アイスラを優しく抱き締める。


「……ふわわわわわっ!」


 なんかアイスラから聞いたことのない声が聞こえてきたが、気にせずにアイスラが伝えようとしていたことを実践して少年に見せる。

 それで少年は理解したのか、たどたどしくではあるが、シスター見習いを優しく抱き締め返した。

 無事に伝わったようだ、とアイスラを抱き締めていた腕を解いて、そのまま頭を下げる。


「いくら少年に伝えるとはいえ、無断だったのは悪かった」


「いえ! ご褒美です! ありがとうございます!」


 アイスラからは何故か感謝の言葉をもらった。

 まあ、不快に思っていないのなら良しとしておこう。


 それにしても、いつまでここ――町の門付近に居ればいいのだろうか?

 もう陽も落ちているし、いい加減休みたいというか、そもそも一泊するために寄ったのだが、未だ宿すら取れていない状況である。

 ……状況的に一泊できるかもわからないし。


 どうしたものか、と思っていると声をかけられる。

 この町に来た時にオークジェネラルに追われていた人たちだ。

 その時のことと町のこと、少年と壮年の男性、それと討伐隊が無事であったことについて感謝される。

 主にアイスラが。

 ……うん。まあ、俺は基本的に何もしていないので仕方ない。


「すべてジオさまの賜物です」


 だから、アイスラ。勝手に俺のおかげにしないように。

 行ったのはアイスラだ。

 自分ではない手柄を取るつもりはない。


 ともかく、これは良い機会だと、この町に宿泊するつもりで来たことを伝えると、運良くというか宿屋を営む男性が居て、そこに泊めてくれることになった。

 他の人たちによるとそれなりの高級宿らしいのだが、無料で泊めてくれるそうだ。

 金には今のところ困っていないのだが、命の恩人だからと押し切られる。

 厚意を無下にするのもなんなので、その言葉に甘えておく。


「でしたら、ジオさまと私が一緒に――同室に泊まるというのはどうでしょうか? 二部屋で泊まるよりは宿の者に負担をかけませんし」


「ああ、なるほ」


「二部屋も一部屋もかかる手間はそう変わりませんので、その辺りはお気になさらずに。それに、今回のことで今はできるだけ宿泊客を減らしていまして、今部屋を取っているのは今回のことで来た高ランクの一部冒険者だけですので、従業員の手は空いています。ですので、部屋は余っていますので二部屋で問題ありません」


 宿を営む男性がそう説明してくる。


「なら、二部屋で大丈夫そうだ」


 と口にしてアイスラを見れば、アイスラは宿を営む男性を射殺さんとばかりに睨んでいた。


「ほう。面白いことを言いますね……いえ、実際は面白くもなんともなく、ただの事実でしかありませんが。それでも、私は一部屋で良いと言っているのに、それを覆すとは……まさか、町と討伐隊を救った者に対してそのような真似をするなんて」


「いいえ、それは勘違いです。寧ろ、私はお客さまのためを思っての発言です」


「思っているのなら一部屋で用意するのが」


「宿を長年営む者としての勘が告げているのです!」


 宿を営む男性が少しだけ声を張り上げた。

 そこには気迫のようなモノがある。

 アイスラは少しだけ考えたあとに口を開く。


「何を、告げているというのですか?」


「はい。たとえ一部屋にしようとも、翌朝――『昨夜はお楽しみだったようで』とは言えない、と」


「くっ」


 アイスラが苦々しい表情を浮かべ、崩れ落ちそうになる――寸前で踏みとどまった。

 肉体的というか精神的に傷を受けたような印象だ。


 しかし、どういう意味だ?

 アイスラがこれだけの反応をするのなら、重要な言葉なのかもしれない。

 ――昨夜はお楽しみだったようで。

 どういう意味だ? さっぱりわからない。


 宿屋に関することだろうという推測はできるが……お楽しみと言うくらいだから、宿屋で楽しむ何かがあるということになる。

 今まで宿屋で楽しむような体験をしたことはないが……待てよ。もしかして、これは何かを匂わせるような発言ではないだろうか?


 たとえば、宿屋を利用するにあたって一番の目的は宿泊――つまり、眠ること。睡眠。

 ということは、お楽しみ――快適な睡眠を得られて良かったですね、ということを伝えている……うん。意味がわからない。

 睡眠ではないのかもしれ……はっ! もしかして、良い夢を見たことをお楽しみだったと……いや、どちらにしても匂わせる必要性がまったくない。


 ……どういうことだ?


「……ジオさまは本当にわかっていないようですね。わかりました。このままでは私の心に傷を負いかねません。宿の主であるあなたの提案を受け入れ、二部屋でお願いします」


「ありがとうございます。町と討伐隊の恩人。精一杯のおもてなしをさせていただきます」


 ――俺が答えを出せないまま、いつの間にか話は終わっていた。

 二部屋で泊まるようだ。

 それは別に構わないのだが、お楽しみとは一体……。


 アイスラに聞いてみたが、いつかわかる日が来るかもしれませんので、その時を楽しみにお待ちください、と返された。

 その時を楽しみにしておこうと思う。


 そのあとは、宿を営む男性に案内してもらい、宿でゆっくりと休んだ。

 良い夢が見れた……気がする。覚えていないけれど。


     ―――


 翌日。快適な目覚めで起きた。

 念のため確認してみたが、町の周辺に魔物の気配はないので安全だと判断。

 そうしている内に討伐隊が戻ってくる姿が見えた。

 一晩で後始末が終わるとは思えないし、報告のための一部だろう。

 けれど、一部とはいえこれで町の安全はより大丈夫になったのは確かだ。

 こちらにはこちらの目的があるので、出発することにした。


 その前に孤児院に寄ってみると、壮年の男性とは軽く話すことはできたのだが、少年の方は昨日の疲れでも出たのかまだ眠っていたので、師匠面だったアイスラの表情がいつもの表情に戻る。

 まあ、目的地としている場所はここからそう遠くはない。

 会おうと思えば会える。

 壮年の男性から、いつでも立ち寄ってください、と見送られながら町を出た。


 二日後。目的地に辿り着いた。

アイスラ「何故、お楽しみが……」

作者「まあ、そこはさすがに」

アイスラ「なるほど。あなたのせいですか。では、少しお・は・な・しをしたいのでーーちょっと宿屋の裏に来なさい」

作者「拒否権は?」

アイスラ「あるとでも?」

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