到着
ブロンディア辺境伯の騎士兵団と冒険者たちが来た。
天幕に居た全員で様子を見に行くと、かなりの歓声で出迎えられている。
まあ、それも理解できるというか、こちらの旧ルルム王国軍にとって、一大勢力となるのは間違いない。
何故なら、「魔の領域」最前線で鍛えられていて、人数も多いからだ。
本当に頼もしい。
「きゃあああああっ!」
「うわあああああっ!」
「いやあああああっ!」
と思っていたら、何故か突如方々から悲鳴が上がった。
何事かと思えば……なるほど。最初から見せていく方向でいくようだ。
ぐるちゃんがちーちゃんとつーちゃんを従えるようにして、ブロンディア辺境伯の騎士兵団と冒険者たちの上を飛んでいた。
それを見て、悲鳴を上げているようである。
ぐるちゃんたち、優しいのに。
それなりの騒動になっているが……まあ、この事態はウェインさまがどうにかするのだろう。
それに、味方とわかれば、誰もが頼もしいと思うはずだ。
―――
騒動は直ぐに収まった。
ウェインさまもそうだが、フレミアムさまが現れて、救出された時のことを大々的に話して味方であると宣言し、害す者は決して許さないとハッキリと告げたのだ。
それで大局が決したと思われる。
まあ、だからといって、直ぐに受け入れられるというか、近付くのは難しいようで、今は遠巻きになって様子を見ている状態となった。
敵対するよりはマシだ。
なので、ハルートたちをこちらに来させることが簡単にできた。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃん、じいちゃんは、今後についての話があるウェインさまの下と向い、こちらは先に軽く挨拶を済ませたあと、母上が使っている天幕へと戻る。
さすがにぐるちゃん、ちーちゃん、つーちゃんは中に入れないので、天幕の外で待機することになってしまう。
ただ、その前に母上はご満悦な表情を浮かべて、ぐるちゃんたちを撫でた。
ちーちゃん、つーちゃんは実際に会っているからわかるが、初見のぐるちゃんに対してもまったく臆していない。
さすが母上だ。
そのあとに天幕へと入り、まずはハルートたちを紹介する。
「――それで、こちらから、ハルート、天使さん、シーク、サーシャさんで、これまで色々と手伝って助けてくれた……なんだろうか? 師弟? 仲間? 協力者? 友達? ……う~ん」
どれだろうか? と確認の視線をハルートに向けた。
ハルートに確認したのは、代表者は間違いなくハルートだからである。
少しだけ悩んだあと、ハルートは「全部では?」と返したので、そういう色々な関係となった。
母上は、まずハルートに感謝の言葉を伝えた。
ちーちゃん、つーちゃんが居たおかげで本当に色々と助かりました、と。
ハルートは気恥ずかしそうにしていたが、嬉しさは隠し切れていなかった。
母上はそのまま天使さん、シークとサーシャさんにも声をかけていく。
その間に、ハルートから色々と聞いた。
まず、ウェインさまは、あのあとフレミアムさまのところへ向かったそうだ。
こちらに来るかは……多分、こちらから向かった方が話は早そうなので、あとで向かうことにした。
ルルアさまは来ていない。
自分には直接戦う力がないと、ヘルーデンに残っている。
ウェインさまとルルアさまの娘である、ラウールアも執事のアトレと共にヘルーデンに戻って来ていて、ルルアさまの側に居るそうだ。
安心して任せられる。
ハルートから、手紙を二通渡された。
一通はラウールアから俺に向けて。
中を確認すると――本当は大きな戦いに参加したかったけれど、ルルアさまを残すのは心配だからヘルーデンに残る。その代わりに、自分の分まで暴れてこい、と……激励かな?
十分、励ましになった。
もう一通はルルアさまから母上に宛てたもの。
そうか。ここにちーちゃんとつーちゃんが居るから配達することが――。
「……いや、俺ではなく母上宛なら母上に渡せよ」
俺に渡してどうする……直接は恐れ多い? さっき挨拶したから、初対面でもないし、寧ろ母上はお前に恩を感じているから優しく接して――そういうことではない、と?
……まあ、別に渡すくらい構わないが……今回だけだからな。
母上にルルアさまからの手紙を渡し、母上がそれを読んでいる間、ハルートたちと話していると、出発の合図が届いた。
思っていたよりも合流が早かったため、今日はもう少し進むようだ。
―――
順調に進んでいく。
時折合流してくる一団はあるが……まあ、勢力としては小さい。
大きいところは、メーション侯爵家とブロンディア辺境伯家のところで終わりだろう。
……いや、俺が知る中でもう一つある。
エルフだ。
来ると思っていたが、来ていない。
近いし、ブロンディア辺境伯家のところと共に来ると思っていたが、来なかった。
もしかして、来ない? いやいや、きっと来る。
まあ、個人ならまだしも集団で「魔の領域」の森から出るのは大変だろうから、仕方ない。
今でもかなり大きな軍勢となっている――が、向こうはそれ以上だろう。
母上もそういう予測を立てている。
少なくとも、数の上では向こうに軍配が上がる、と。
それでも負けるつもりはない。
進んでいく中で、俺は母上、アイスラだけではなく、ハルートたちも共に居る。
やはりというか、騎士、兵士、冒険者問わず、ぐるちゃんたちが敵ではないとわかっていても、そう簡単に近付ける訳がなかった。
そのため、少しでもぐるちゃんたちの居心地が良くなるように、と俺たちの側に居させることにしたのだ。
母上は乗ったり撫でたりとご満悦である。
途中で、ウェインさまと挨拶を交わした。
「いよいよ大きな戦いが始まる」と言えば、「存分に暴れさせてもらう」と頼もしい発言が返ってくる。
頼りにさせてもらう。
そこで、気付いた。
ウェインさまはレオを伴っていたのだ。
「見どころがあるからな。私の側で戦場の経験を積ませるつもりだ」
大丈夫だろうか? と思うが、ウェインさまが大丈夫だと判断したからこそ、この場に居るのだろう。
その判断を信じる。
それに、レオからやる気は感じられるが、大人しいというか、落ち着いているというか……どうした? やってやるぜ! みたいなことは言わないのか?
「俺をどういう目で……いや、前までの俺は確かにそんな感じだった。考えなしに突っ走っていた。でも、それだけじゃ駄目なんだと教えられた。それに、ここで負けるとヤバいんだろ? なら、俺は俺にできることをやるだけだ。それが結果的に……守ることになるんだろ?」
成長しているようで何よりである。
「突っ走り気味だった少年が……」とアイスラは空を眺めていた。
「何を守りたいのかしら、ね?」と母上は何故かウキウキしている。
……レオよ。何故そこで助けを求めるように俺を見るのか。アイスラが空を見ている理由も、母上がウキウキしている理由も、俺にはわからないというのに……。
とりあえず、「頑張れ。でも、死んだら何も守れないから、死ぬなよ」とレオを激励しておいた。
そうではなく、アイスラと母上から守って欲しい? 無理だ。
―――
そして、セントル大平原に辿り着く。
平地で、見渡しのいい大平原。
ここが戦場となる場であったが、それは敵が居ればの話。
居ないのなら、そのまま先へと進むだけだが――セントル大平原の向こう側に、こちらよりも規模が大きな軍勢が居た。
どうやら、向こうも着いたばかりのようで、慌てて戦闘準備を始めている。
それならこちらも――と戦闘準備を始めた。
作者「ジオくん。俺はどんな関係?」
ジオ「う〜ん………………」
作者「そんなに考えないといけない感じ? 泣くよ?」
ジオ「年に一度か二度、顔を合わせる親戚の人のような……」
作者「うん。もう少し会っているよね? もう自分、涙が零れないように空を見ているよ」