聞かなかったことにした
お祖父ちゃんの案内で帝都の中を進んでいく。
パッと見た感じで言えば、栄えている。いや、かなり栄えている。
それこそ、ルルム王国の王都よりも上。
もう陽が沈みそうだというのに、往来は多く、人々の顔には笑顔が多く、活気が非常にある。
海の男と言える恰好の人が多く見られるのは、やはり港があるからだろうか。
あと、今はもう食料品店は閉まっているようだが、港がある訳だし、普段は魚介類が多く並んでいると思う。
ルルム王国にもウルト帝国から届けられることはあるが、魚介類は痛みが早いと聞くし、やはり新鮮なままで美味しく食べられるのは、この帝都の一つの名物になっているはずだ。
普段食べられないからこそ、こういう場に来た時は食べたくなる。
……まあ、今そんな時間はないが。
今後もどうなるかわからないし……今は忘れよう。
あとで、改めて来よう、と思った。
それと、多くの人がすれ違いざまにお祖父ちゃんに向けて、頭を下げたり、手を振ったり、声をかけてくる。
お祖父ちゃんは軽く受け応えて先に進むことを優先しているが、やはりこれはお祖父ちゃんたちがクラーケンを倒した影響だろう。
それだけ感謝している人が多い、ということだ。
そんなお祖父ちゃんの孫である、と誇らしく思う。
「……いいなあ。自分もああなりたかったなあ……」
ロレンさん。心の中の声が漏れているよ。
特に寄り道などもしなかったので、陽が落ち切る前に帝城に辿り着いて、しっかりと見ることができた。
……実際に測った訳ではないので確かなことは言えないが……いや、もう見ただけでわかる。
ルルム王国の王城よりも大きい。
造りも立派で、威風堂々とした雰囲気だ。
「……いつか、王城もこれくらい……いや、これ以上の……」
フレミアムさまのそんな呟きが耳に届いたが、聞かなかったことにした。
立地的に無理だと思う。
破壊されたのならまだしも、何もないのなら無理に建て替える必要は――。
「……待てよ。このあとの戦いでベリグを王城まで追い詰めて戦闘……そこで意図的に破壊――ではなく、運悪くどこかしらが破壊されれば……」
これも聞かなかったことにした。
言い方を変えれば王の家であるし、好きにすればいいというか、関わらない方がいい気がする。
そこら辺を秘密裏に破壊しておいて、とか言われても困るし。
……そんなことはしないはずだ、と思いつつも疑いの目をフレミアムさまに向けている間に、お祖父ちゃんは帝城の門番に俺たちについて問題ないことを説明していたようで、止められることもなく、帝城に入ることができた。
―――
帝城の中は――豪華という訳ではない。
いや、これだと大したことがないという意味にもなるか。
見た目が豪華ではないというか、置かれている調度品の数が視界の邪魔にならない程度なのだ。
ただ、その分置かれているのは非常に高価なものに見える。
一見すると普通の品にしか見えないが、それだけに、普通の品を帝城に置くか? とも考えられる訳で………………好奇心に負けてお祖父ちゃんに聞いてみた。
「はっはっはっ! すまん! わからん! お祖父ちゃんはその辺り疎くてな! ただ、シーリスとウェルナからは迂闊に触るな、いや、絶対に少しも触れるな! とネタでも振りでもなく厳命されている!」
……うん。これは下手に触れない方がいいくらいに高価だな、間違いなく。
あと、その辺りには少しうるさいから、我に聞いてくれてもいいのだぞ? とフレミアムさまが視線を向けてきているのは……話が長くなりそうな予感がするので――大丈夫です。結構です。と頭を下げておいた。
そうして、お祖父ちゃんの案内で辿り着いたのはとても広い部屋。
お祖父ちゃんが前に立っているので見える範囲が限られているが、それでも置かれている調度品は見ただけでわかる高価そうで品質が良く、ここが客室だとして、間違いなく帝城内で一番の客室だと思う。
そんな客室の中――お祖父ちゃんの奥に三人の気配を感じる。
お祖母ちゃん、コンフォードさま、ウェルナさまだろう。
「ジオには会えたかい?」
お祖母ちゃんがそう声をかけるのが聞こえた。
「ああ、会えたぞ。帝都の門番の詰所の牢に居たのには驚いた」
「はあ? 牢の中? どういうことだい?」
「まあ、その辺りの話はあとでするとして、まずは会わさないといけないのが居るからな。コンフォード、ウェルナ」
「ん? なんだ?」
「何かしら?」
お祖父ちゃんが横にずれて、フレミアムさまを前に出す。
「ジオは約束を守ったぞ!」
後頭部しか見えないが、お祖父ちゃんは自慢げに、ニッと笑っていると思う。
「――フ、フレミアム!」
「ああ! 無事だったのね!」
「それはこちらの台詞です。父さまも母さまも、生きていて良かった……本当に良かった! また、こうして会えたことを嬉しく思います!」
コンフォードさまとウェルナさまが駆け寄り、フレミアムさまと再会を喜び合い始める。
その光景を見ていると、本当に助けられて良かったと思う。
本当にいい気分だ。
だから、お祖父ちゃん。ワシらも喜び合おうと両手を広げて俺が飛び込むのを待つのは止めて欲しい。
そういうのは最初にしておくべきことであって、今はもうそういう時期は過ぎていると思うから。
代わりにロレンさんはどうだろう?
落ち込んでいる? ようなので慰めてあげて欲しいのだが……。
「「何が悲しくてこいつと抱き合わないといけないのか。どんな理由があっても断る」」
お祖父ちゃんとロレンさんが揃って同じことを言った。
そうか。いい案だと思ったのだが……。
「……私もそんな光景は見たくないね。あっちは会うのが本当に久々だし、コンフォードもウェルナももう会えない覚悟でエルフの国に向かったから、少しの間邪魔をせずにそっとしておこうじゃないか。だから、待っている間、どうして詰所の牢に居たのか、その辺りのこと――いや、どうせなら、私たちを別れてからのことを聞かせてくれるかい?」
お祖母ちゃんがこちらに来てそう言ってきた。
もちろん。断らない。
あちらの家族は家族で話すことがたくさんあるだろうし、こちらの家族も家族としてたくさん話すことにする。
もちろん、アイスラも家族の枠組みには入っている――というか、いつの間にか紅茶と茶菓子が用意されたカートを手にしていた。
……予め準備が終わっている段階で、収納魔法の中に入れておいたのかな?
ロレンさんも――ほら。あちらではなくこちらで一緒に話そう。
お祖母ちゃんが望むまま、エルフの国・エルフィニティで別れたあとから話し始めた。
作者「………………ほっ。入れた」
自分だけ帝城の門番に止められると思っていた。
ジオ「その時はきちんと迎えに行くから」
作者「うん。それ、一回牢に入れられてない?」