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本当に失念していた

「転移樹」で飛んだ先は――当然のように森の中だった。

 本当にウルト帝国に飛んだのか、実感がない。


「おお! ここがウルト帝国の……森か! 他のところの森と……うん! 変わらないな!」


 エルフの国・エルフィニティで一晩しっかりと休んだフレミアムさまが、元気一杯に周囲の様子を見て、そう口にした。

 とりあえず、無理にコメントをする必要はないと思う。

 ただ、同意見ではある。


「間違いなくウルト帝国内にある森の中で、具体的な位置としては帝都に近い広大な森の中。その奥の方がここ。ここから帝都までは……どれくらいだろう? 半日くらいあれば着くと思う。まあ、ヘルーデンから『転移樹』に向かうよりも長いのは間違いない。といっても、自分の記憶通りの場所に帝都が今もあれば、だが……あれ? そう考えると不安になってくるな……いやいや、一国の中心地なのだから、そう簡単に変わることはないはず。信じろ。自分を」


 ロレンが自分の手のひらを見ながら、そんなことを言う。

 ウルト帝国の帝都の位置が変われば、それは世に広まる情報なのは間違いない。

 少なくとも、ルルム王国とサーレンド大国は把握するはずだ。

 それを聞いたことがないということは、帝都の位置は変わっていない。

 でも、不安だったので、フレミアムさまに視線で確認すると――。


「帝都? 変わっていないはずだ」


 そんな記憶はない、と断言する。

 なら、間違いないだろう。

 ロレンさんもホッと安堵したあと、早速向かう。

 案内としてロレンさんが先行して、森の中を進んでいく。


 ………………。

 ………………。

 うん。なんというか、普通の森だ。

「魔の領域」である森とは雰囲気がまったく違い、出てくる魔物も比べるとかなり弱い。

 だからだろうか。魔物よりも動物の姿をよく見かける。

 魔物との戦闘が起こっても直ぐ片付けられるので、思っていたよりも素早く森の中を進むことができた。

 ……ただ、素早く進むということは、それだけ体力も消耗するということだ。

 森を抜け切る前にフレミアムさまの限界がきたので、ロレンさんは案内があるし、俺が背負っていく。

 途中で何度か休憩を挟みはしたが、森は思っていたよりも早く抜けることができた。

 ロレンさんの記憶通り、らしい。


 抜けた先は広大な平原が広がっていた。


「………………あっち、だな」


 ロレンさん。首を傾げながら方角を指し示さないで欲しい。

 森も記憶の通りだった訳だし、きっと方角も間違っていないから、自信を持って欲しいと思う。

 それに、他に指し示せる人が……俺はウルト帝国には明るくないし、アイスラは無理ですと両人差し指を交差させて×印を作ってみせて、フレミアムさまは「ルルム王国側から入っていればわかった」と口にしたので居ない。

 ロレンさんの記憶だけが頼りである。

 また、平原は森と違って見通しが良く、進む方角さえしっかりと決めていれば早々迷いもしないので、ここからはロレンさんと交互にフレミアムさまを背負って進んでいく。


「すまないな」


 フレミアムさまが少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 そこまで気にしなくてもいい。

 魔物が出て来てもアイスラがどうにかしてくれるし、ロレンさんと交互になったので負担はそこまででもないからだ。


 それでも何度か休憩を挟んで進んでいくと――大きな建造物の先端が見えたかと思えば、空気の感じも変わる。

 なんというか……あおくさい?


「……潮の香りだ。海が近い証拠。それを示すように、見えている建造物は帝城だ。つまり、そこに帝都がある。ロレン殿の記憶は間違っていなかったということだ」


 フレミアムさまがそう言うと、フレミアムさまを背負っているロレンさんは合っていて良かった、と安堵する。

 そうして、近付くことで見えてきた帝城、帝都は――パッと見た限りだとルルム王国の王城、王都よりも大きく、広いように見えた。

 まあ、国力はウルト帝国の方が上なので、それも当然と言えば当然だろう。

 ともかく、陽が落ちる前には着けそうだ。


 それよりも、帝城、帝都のさらに奥――向こう岸がまったく見えず、見渡す限りすべてと広大で、まだ陽があるために海面はキラキラと輝いている海に、どうしようもなく俺の目は惹き付けられる。

 初めて海を見るからだ。

 もっと近くで見たい。行きたい。触れたい。

 そんな欲求が生まれるが……多分、無理だ。行けない。

 そんな暇はないだろう。


 ……そうか。フレミアムさまがエルフの国・エルフィニティで抱いた思いはおこれか。

 フレミアムさまが、優しい笑みを俺に向けていた。

 どうやら、気持ちが表に出ていたようだ。

 同じ思いを抱いた仲間ですね、と笑みを返しておく。

 ロレンさんは……記憶通りに着いたということは、既に経験済みなのだろう。

 海を見て、特に思うことはないようだ。

 そういえば、アイスラは海に来たことがあるのだろうか? と視線を向ければ――。


「……水着……いえ、大胆な水着……羞恥………………しかし、それで初めて意識する性……岩場でちょちょっと……そして、情熱の夜……勝った!」


 何やら真剣に悩んでいると思えば、急に勝利宣言した。

 ……なるほど。俺にはわかった。きっと、ここから大きな戦いを経て、勝利で終わるまでの道筋がアイスラの頭の中で描かれたのだ。間違いない。

 そうか。そうだよな。まずは、大きな戦いを乗り越えよう。そのために専念するべきだ。

 初めて海を見たからと、浮かれている場合ではなかった。

 海は、それらが片付いてからまた来ればいいのだ。

 そうした方が、きっと海を楽しめる。


 気持ちを新たに、帝都へと向かった。


     ―――


 帝都――入れなかった。

 いや、入ったことは入った、と言えなくもない。

 ただ、初手で失敗したとも言える。

 失敗したのは、フレミアムさま。

 いや、フレミアムさまだけを責めるのは違う。

 俺も、アイスラも、ロレンさんも、ことがここに至るまで失念していたのだから、同罪でもいいのではないだろうか?

 何を失敗したかといえば、フレミアムさまの身元の証明。

 もちろん、ルルム王国の国王……今は元国王だが、しっかりと身元があるのは確か。しかし、それはフレミアムさまがフレミアムさまだと認識している者からすれば、である。

 他国ともなれば、それはより難しいだろう。

 ヘルーデンのように、俺とアイスラ――主にアイスラ――でゴリ押すことはできないのだから、しっかりとした身元を保証する物を用意しておけば良かった。まあ、これに関してはロレンさんもそうだが、用意するのを忘れていたのだ。

 もちろん、向こうとしてもこういうことは多々あるだろうから、仮で証明となる物を発行するとかの救済措置はある。


 だが、その前にフレミアムさまが「我か? 我はルルム王国の王、フレミアム・メイン・ルルムである! 皇帝に取り次ぎを頼む!」と言ってしまった。

 その姿はまさに王として堂々としたものだったが、ここは他国で、それを証明する物もないため――「他国のとはいえ、王を名乗るとは不届き千万! それに、現在のルルム王国の王は別の者になったと聞く! それで騙されると思ったか! 情報不足だったな! 怪しい者共め! であえであえ!」


 あっという間に門番たちに囲まれて、さすがに抵抗というか攻撃する訳にもいかずに、捕まるしかなかった。

 逃げて闇夜に紛れて――は最後の手段だ。

 ロレンさんがエルフであることを明かし、フレミアムさまのことはエルフの国・エルフィニティが証明すると口にしたが――「ああ、はいはい」と軽く流される。

 信じてくれなかったことにロレンさんが落ち込み――門近くの詰所の中にある牢に入れられた。

帝都の門番「怪しい奴らめ! リーダーは誰だ!」


ジオ「……」

アイスラ「……」

ロレン「……」

フレミアム「……」


作者「……いや、ちょ! なんでそこで自分を見る!」

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