しっかりとした睡眠は大事
ヘルーデンの門前に下りていく。
普通であれば大騒ぎであるが、もうここの人たちにはぐるちゃんが認知されているし、ちーちゃんとつーちゃんが共に居ても問題ないだろう。
「ぎゃあああああ! グ、グリフォンーーー!」
門前の列の中でそう叫ぶ人が居た。
ヘルーデン初来訪かな?
とりあえず、実際にぐるちゃんではないグリフォンを見かけたとして、そんな大声は上げない方がいいと思う。
既に察知されていると思うが、それでもわざわざ相手を刺激するような行動は避けるべきだ。
それでも、狙われたいのだろうか? 自分を囮にして仲間を助けるため、とか?
もしそうなら、なんて高尚な行動なのだろう。
……まあ、その叫んだ人は一人で逃げようとして、周囲の人たちに「あれは大丈夫だから」と諭されているけれど。
もちろん、ここで割り込みはしない。
助かったのは、前後の人たちがぐるちゃんを認知していることで、驚かれることがなかったということだ。
ほどなくして順番となり――。
「おかえりなさいませ……あっ、前と一緒で問題ないですよね? ……問題ない。はい。どうぞ、お通りください」
門番は学習していて、お察し、とこちらが何かを言う前に判断して通してくれた。
……まあ、間違っていないし、楽だから……いいか。
そうして、ヘルーデンの中に入る。
向かうは宿屋「綺羅星亭」――ではなく、辺境伯の城。
俺たちは宿屋で十分だが、フレミアムさまとコンテント宰相を宿屋に泊めるのはさすがにマズいと思う。
だから、フレミアムさまとコンテント宰相をウェインさまに丸投げ……託すためだ。
「……えっと、俺たちは宿屋の方にもう行っても?」
ハルートがそんなことを言い出す。
緊張するとか、そんな感じだろうか?
でも、ハルートが肩を貸していたのは宰相なのだが……それはそれで、これはこれで? そもそも出会い方が違うから? ……なるほど。でも、今回の功労者を挙げるなら、間違いなくハルートである。それは変わらない。ハルートがしっかりと従魔を呼んでいたからこそ、だ。……だから、一緒に行こうではないか。ウェインさまに、しっかりとその辺りのことも話さないとな。
逃がさないように、ハルートの肩をがっしりと掴んで向かう。
そうして、辺境伯の城へと辿り着いて門番に話を通すと、最早いつも通りである老齢の執事が出迎えてくれる。
老齢の執事はフレミアムさまとコンテント宰相を見ると大きく目を開いて、臣下の礼を取った。
「案内を頼む」
フレミアムさまが端的にそう告げる。
……その姿は、正しく王さまだった。
そう。王さまなのだ。最初の弱った状態を見ているからか、そちらの印象が強く残っていたため、ピンときていなかった。
それが漸くきた感じである。
「はっ。かしこまりました。フレミアム・メイン・ルルム陛下をこの城にお迎えできることを、主もお喜びです」
老齢の執事に案内されて、辺境伯の城の中へ。
案内されたのはいつもの部屋――ではなく、広い応接室のような部屋だった。
室内はふかふかの絨毯が敷かれ、高価そうなソファーセットや調度品がいくつも置かれていて……いや、応接室で合っているな、これは。
こちらでお待ちください、と言われたので大人しく待つことにしたのだが、直ぐ来た。
ウェインさまとルルアさまが慌てて室内に入って来て、フレミアムさまとコンテント宰相の姿を確認すると、二人共揃って臣下の礼を取る。
「陛下と宰相殿の無事なお姿を見ることができ、喜びしかございません」
「それはこちらも同じだ。コンテント共々、そなたに会えて嬉しく思う。それも、彼らが私とコンテントを地下牢から救出してくれたおかげだ」
「そうですな。本当に助かりました。それで、ブロンディア辺境伯殿。陛下と私は長らく地下牢に閉じ込められていました。その間にルルム王国がどうなったのか、また現状もわからないのです。何故、オールでもリアンでもなく、兵役に就いていないジオ・パワードが救出に来たのか。教えていただけませんか?」
「はっ! それはもちろんでございます。私が知り得る限りのことをお教えします――が、ここに来るまでにジオからお聞きしておられないのですか?」
ウェインさまが不思議そうに尋ねると、フレミアムさまとコンテント宰相は顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
なので、俺がウェインさまにこそっと教える。
「お二人は地下牢でかなり消耗していて、王都を脱出してからヘルーデンに着くまでの間は回復に専念していたので、話はまだ」
「そうだったのか。そういえば、お二人が着ている服も歳に合わない若々しい……い、いえ、似合わないという訳ではなく……あっ! なるほど! 回復したことで気持ちまで若くなったということですか!」
ウェインさま。違う違う。それは俺のお古の衣服だからで……とこそっと教えると、「し、失礼しました」と頭を下げて、「まだまだ若いつもりだぞ」とフレミアムさまが気にしていないと軽い感じで答えた。
王さまと宰相がしていい恰好ではないことは認める。
あとで用意して欲しい。
とりあえず、先に話である。
俺も協力して、ウェインさまと共に、これまでのことを簡単に話した。
………………いやいや、それは。
………………俺ではなくてハルートで……ん? ハルート。恐れ多いとか、そういうのはいいから。
そうして、話し終わる頃にはいい時間になっていたので一旦解散して、今後については明日話すことになった。
フレミアムさまとコンテント宰相も回復したとはいえ万全ではないため、その辺りも考慮されている。
もちろん、フレミアムさまとコンテント宰相は辺境伯の城に宿泊して、ロレンさんもさすがに宿屋だと何かあるかわからないので、同じく辺境伯の城に宿泊することになった。
俺とアイスラ、ハルートたちは宿屋に宿泊するつもりなので、ここで辺境伯の城をあとにする。
宿屋で宿泊する方が、気は休まりそうなので。
向かうは、定宿と言ってもいい宿屋「綺羅星亭」。
女将さんに笑顔で迎えられ、時間的に駄目かな? と思ったがいけた。
久し振りにしっかりと眠る。
―――
翌日。
今後についての話のために辺境伯の城へと向かうと――。
「フレミアムさまがウルト帝国に行ってコンフォードさまと合流したいそうだ。それに同行してくれないか?」
ウェインさまからそう言われた。
女将さん「………………」
作者「………………」
女将さん「申し訳ございません。もう当宿は一杯でして」
作者「ちくしょ〜!」
別の宿屋へと奔走した。