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間に合った

今日の二話目です。

明日から一話投稿に切り替えます。

 ――間に合った。

 思った通りに件の少年がここに居て直ぐ発見できて良かったが、怪我しているし、なんか片腕だったオークが攻撃しようとしていたので、危機的状況だったのは間違いない。

 それなりに急いで駆けて良かった、とホッと安堵する。

 門番二人が馬に乗って急いでいるのを見て進む方向がわかったので追い抜き、森の入口付近に討伐隊の馬番みたいな人たちが居たが、問答の時間が惜しいと判断して駆け抜けたのが正しかった。

 これで少しでも遅れていたら、少年は死んでいたかもしれない。

 もし何か言われたら、問答がなかったことで少年救助に間に合った、と言っておこう。


 そんな少年の下に法衣のような服を着た壮年の男性が駆け抜け、怒る……いや、叱るような声を上げたあと、どことなく嬉しいけれど困ったような、そんななんとも言えない表情を浮かべて、少年に対して魔法を使い始める。

 少年の傷が治っていっているので、回復魔法のようだ。

 速度も速く、傷跡も綺麗に消えていっているので、壮年の男性は相当腕が良い。


 孤児院関係者にシスターが居たから、あの壮年の男性も孤児院関係者なのだろう。

 少年は壮年の男性に嬉しそうな表情を向けたあと、アイスラの方をジッと見る。

 少年を殺そうとした片腕のオークを斬り刻んだアイスラは、そのまま近場のオークを同じく斬り刻んでいた。

 少年の方に近付けさせないため――ではなく、オークの方からアイスラの方に寄っていっているのだ。


 その様はなんと言うか……その――。


「ブュヒヒ!」


「デュフフ!」


 アイスラに対して何かしら思うところがあって、思うままに行動しているように見える。


「私に対してそのような視線を向けて許容できるのはジオさまだけです。それ以外は論外! 万死! 万死! 万死!」


 アイスラから激しい怒りを感じる。

 絶対許すまじ! 処すべし! という揺るぎない意志を持って、苛烈に剣を振るって斬り刻んでいるようだ。

 ……でも、俺なら許される、というのはどういう視線なのだろうか?

 少なくとも、アイスラが嫌悪するような視線なら向けないと思う。

 ただ、どういう視線なのかわからないとどうしようもないというか、気を付けることもできない訳だから……本人(アイスラ)に聞くか?


 ……聞くのが怖い気がしないでもない。

 なんか別に突かなくてもいいモノを突こうとしている感覚を得る。

 やめておこう。

 とりあえず、もし不快ならアイスラも態度に出るだろうから、その時に聞こう。


 そう判断している間も、アイスラはオークを斬り刻んでいた。

 というか、オークを斬り刻みながら、さらに奥へ奥へと進んでいく。

 この際というか、さっさと終わらせるために元凶を断ちに行くのだろう。


 まあ、ざっと見た限り、アイスラに勝てそうなのは居ないので好きにさせることにした。

 とめる必要もない。

 早く終われば、それだけ被害も少なくて済む。

 ただ、オークと戦っている冒険者や兵士たちが、アイスラを視界に捉えると驚くのはどうにかした方がいい。

 明確な隙だ。

 でも、オークがその隙を突くことはない。

 オークはオークでアイスラを視界に捉えるとアイスラに襲いかかるから。

 なんにしても、どっちも目の前の戦いに集中して欲しいモノである。

 それでも、ここは戦場。

 何かあるかもしれないので楽観視はせず、念のために周囲の警戒だけは続けておく。


 ――それで、気付いた。

 少年の視線の先が壮年の男性ではなく、アイスラに向けられている。

 それもかなり熱心に。

 何故アイスラを? と考え――まあ、アイスラがこの場で一番目立っているのは間違いないのでそれでか、と思ったが、それならどうして熱心に見ているのか不思議だ。


 目立つからではなさそうな気がして、少しばかり少年を観察。

 ………………わかった。

 少年はアイスラを見ているのではない。いや、アイスラを見ているのだが、それは全体的にであって、中心として見ているのはアイスラが持つ剣である。

 剣を中心に見つつ、アイスラがどう動いているのかを目で追っていた。


 ………………。

 ………………。

 なんで剣を中心に?

 というか、アイスラはあんな剣を持っていただろうか?

 いや、持っていない。

 見たことない。


 まあ、別にアイスラが収納魔法の中にあった可能性はゼロではないが、それでもアイスラが持つにしては、正直に言って格が足りない。

 見た限りだと、精々予備武器に使えるかどうかってところだ。

 そんな剣をいつ手にして……ここに来るまでは持っていなくて、片腕のオークを斬り刻んだ時には持っていたから……そこに少年の眼差しを加えて……あっ、少年の剣か。

 だから、少年はアイスラの持っている剣を見ている訳か。

 その剣は自分のだ、と。


 多分、アイスラは直ぐ返すつもりだったけど、オークが襲いかかってくるから使っていると思う。

 アイスラなら壊すこともないと思うので、オーク討伐が終われば返ってくるので待って欲しい。

 ……いや、なんか違う気がする。

 それなら何故熱心に……いやいや、待て待て。


 いくら本気ではないとはいえ、アイスラの剣の動きが見えているのか? 少年が?

 言ってはなんだが、アイスラの剣の腕前はパワード家で最上位に近く、それは国内でも上から数えた方が早いのは間違いないと思っている。

 それが見えているって……もしこれでまともな剣技なり武技を身に付けたら……まっ、それはさすがに考え過ぎか。


 でも、こういう強くなるかも、と考えて、どのように強くなっていくのかを考えるのは楽しい――なんて思っていると終わった。

 オーク全滅である。

 まあ、元々冒険者と兵士たちが粗方倒していて、そこにアイスラが加わったのだから、早々に片付いても不思議はない。


 あとは、これからどうしたものか。

 少年は無事だったし、オークも全滅した。

 色々な後始末が残っているが、そこまで手を出す必要性を感じない。

 でも、アイスラがそれなりにオークを斬り刻んだのでまったく関わりがないとも言えないのは事実だ。

 ……けれど、それで報酬的なモノが欲しいという訳でもないので、その辺りを放棄というか譲渡することで免除してもらう方がいいかもしれない。

 それに、関わり過ぎて俺とアイスラの存在が謀反の王側にバレるのは困る。

 少なくとも今は。


 なので、口止めでもした方がいいかもしれない――と考えていると、アイスラが少年の下へと行き、剣を返していた。

 すると、剣を受け取った少年が、アイスラに向けて何かを話し出す。

 アイスラは少し考えたあと、返答を口にしてから俺の下へと戻ってきた。


「本気ではなかったとはいえ、相変わらず見事な剣技だったよ、アイスラ」


「ありがとうございます。ジオさまのお目汚しになっていないのなら何よりです」


「なっていないよ。ところで、何やら少年と話していたようだけど?」


「はっ! もしや、嫉妬ですか?」


「嫉妬?」


 何に? と首を傾げる。


「それはもちろん俺の女に手を――いえ、なんでもありません。あの少年からは、弟子にしてくださいと懇願されました」


 でし?

 煮出しした汁……いや、それは出汁。それだと少年が出汁にしてくださいと言ってきたという意味のわからないモノになる。

 少年の出汁って。

 ……なんだろう。犯罪臭を感じる響きだ。


 いや、そんな訳はないから、出汁ではなくて……でし……弟子か。


「つまり、アイスラに剣技を学びたいと? そういうのに口出ししたくはないけれど、今の状況では」


「わかっております。現状で足手纏いとなる者を連れていく訳にはいきませんので、お断りしましました。ですが」


「何かしら思うところがある訳か」


「はい。ジオさまも気付いていると思いますが、あの少年は私の動きが見えていました。鍛えれば何かしらの才能を開花するかもしれません。ですので、条件を出しました」


「条件?」


「先ほどの私と同じ動きができるようになった上で、それでも私に教えを願いたいのであれば弟子にしますと」


「そうか。まあ、アイスラがそう判断したのなら、俺はそれを支持するよ」


「ありがとうございます」


「となると、あとはこの場の後始末について、か」


「それでしたら、既に話を終えています」


「え?」


 どういうことか聞いてみると、俺が色々と考えている間に、この討伐隊を取り纏めている者とその辺りについて話し終えたそうだ。

 やることが早い。

 いや、助かるけれど。


 内容として、報酬云々はなし。その代わり、この場の後始末も含めて、この件にもう関わらなくても良くて、俺とアイスラについては口止めもする、と。

 俺が望んだ結果そのままで話はついていた。

 上手くいき過ぎでは? と思ったが、なんでもアイスラがオークの注目を集めて次々とサクサク倒したおかげで、討伐隊の被害がグッと減った――具体的には怪我人は出ても死者は出なかったそうだ。

 その感謝による結果である。

 寧ろ、これでは気が済まないと、他にも何かないかと問われたそうだが、アイスラは特にないと返し、俺も特に思い浮かばないので、これで良い。


 けれど、逆に一つお願いされた。

 それは護衛依頼。

 少年と壮年の男性を町まで送り届けて欲しい、と。

 別に構わない、と了承。


 アイスラに剣技について尋ねる少年と、そんな少年の行動に申し訳なさそうな表情を浮かべる壮年の男性と共に、町へと戻――途中で門番二人も回収してから戻った。

 ちなみに、アイスラは少年からの質問に普通に答えていたのだが、その表情はどこか師匠面に見えなくもなかった。

作者「少年。俺にも聞いていいぞ(師匠面)」

レオ「………………剣使えるのか?」

作者「いいや、使えない」

レオ「………………はあ」

作者「ジオくん! 少年が冷たいよ! ジオくんならそんなことはないよね! ジオくんもなんでも聞いていいよ!」

ジオ「なら、ロールプレイについて詳しく」

作者「よしきた! 詳しく教えて」

アイスラ「少年。剣をどう振るえば良いか、今見本を見せてあげましょう」

作者「(全力逃走)」

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