しっかりと休ませつつ
ハルートがぐるちゃんだけではなく、ちーちゃんとつーちゃんも呼んでくれていたおかげで、全員揃って王城、王都から脱出することができた。
向かうは――ヘルーデン。
母上が居るメーション侯爵家に向かうのも一つの手だが、そこは王都から近いため、そこに行ったことが向こうに伝わると、相手側が挙兵してきてもおかしくない。
特に、王都周辺の領土を治める貴族の多くは、新王派だ。
状況的によろしくない。
だから、ヘルーデンに向かう。
ただ、王都からヘルーデンに向かう間にある領土を治める貴族もまた、新王派である。
なので、ヘルーデンに向かうまでは野宿となってしまう。
幸い、ぐるちゃん、ちーちゃん、つーちゃんによって全員揃って空から向かうことができるので、道程は非常に楽で早いのは間違いない。
「……大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「問題ありません」
ただ、背に乗せられる人数に上限があるので、二名はぐるちゃんの足に掴まる必要がでてくる。
今は脱出時と変わらずにシークとサーシャさんだ。
「……えっと、辛かったらいつでも代わるから、言ってくれ」
「私も足に掴まるのは問題ありませんので、いつでも仰ってください」
ハルートはコンテント宰相、ロレンさんはフレミアムさまを支えているので、そこの交代はなしと考えているので、俺とアイスラがそう言うと、その時はお願いする、と答えてくれる。
天使さんは……まあ、護衛、かな?
空だし。天使さんは自由に移動できるし。空だからと魔物が襲ってこないとは限らないので、その時は頼りにしよう。
まあ、それはいいのだが……。
「……待ってくれ。アイスラは駄目だろう」
「え? 何故ですか?」
「いや、サーシャさんは軽装――ズボン姿だから問題ないけど、アイスラはメイド服――スカートだから、もし下から覗かれると見えてしまう」
「ああ、そのことですか。問題ありません。メイドのスカートの中は見えなくなっています。どのような角度から見ようとも、決して見えないのです。そう。決して」
「いや、そんなことはないと思うのだが……」
角度的な話はあるかもしれないが、少なくとも真下からは……おっと、考えてはいけない。
紳士としてあるまじき行為だ。
「いいえ、ジオさま。事実です。たとえば、飛び跳ねようが、突然の風でふわりと舞い上がろうが、決して見えないのです。それが世の理です」
「は、はあ」
まあ、アイスラがそう言うのなら、きっとそうなのだろう。
……そういう魔法でも使用しているのかもしれない。
「ですが、御心配して頂きありがとうございます。もちろん、ジオさまはお望みとあれば、私はいつでもお見せしますので」
「いや、見せて欲しいとかではなくて」
「なるほど。見るではなく手にしたい派ですか。手に取って、そっと自分のポケットに入れておきたいのですね。ええ、わかります」
何がわかったのだろうか?
アイスラは理解を示すように深く頷いている。
あらぬ疑いをかけられている気がするが、これ以上この話を続けるは危険な気がしたので止めておく。
そうして、時折シークとサーシャさんと交代しつつ、ヘルーデンへと向かうのだが、当初は急げなかった。
フレミアムさまとコンテント宰相の消耗具合が、動かない空移動でも大変だったのである。
なので、要所で休憩を挟んでの移動となったのだ。
ただ、こちらの献身的な世話によって、回復も早かった。
まず、牢に捕らえられていたということもあってボロボロの衣服であったため、俺のお古で悪いとは思ったのだが肩掛け鞄の中から普通のシャツとズボンを取り出して着替えてもらったあとに、食事が必要だ、と肩掛け鞄とアイスラの収納魔法の中に入れていた食料をここぞとばかりに放出したのだが、フレミアムさまとコンテント宰相は休憩時間毎にかなりの量を要求してくる。
元々大量に入っているので要求されても問題ないのだが、いきなりそんなに食べて大丈夫なのだろうか? と心配したのに反して、フレミアムさまとコンテント宰相は要求した分はすべて平らげた。
二人共、随分と健啖家のようだ。
他にも、普通、野宿であれば就寝環境は良くない。
俺、アイスラ、ハルートたち、ロレンさんは問題なく、天使さんも気にしていないというか「大自然でのキャンプ……癒されるわぁ……あっ、虫はNGなので虫避けの魔法を……」と何か魔法を使っていたが、快適というか満足そうな表情を浮かべていたので問題なさそうだが、フレミアムさまとコンテント宰相は気を遣わないといけないだろう。
消耗しているというのもそうだが、元国王と元宰相である。
さすがに野宿の経験はあると思うが、それでも慣れ親しんだものでないのは確かだ。
……まあ、地下牢の中よりはマシだろうが。
ただ、しっかりと休ませないといけないので、野宿でどうやってしっかり休ませるか……と考えた時に、アイスラが「メイドとしてこれくらいは当然の用意です」と言って、収納魔法の中から天蓋付きベッドを二つ取り出したのだ。
「……景観に合わないな」
自然の中にぽつんとある天蓋付きベッドを見た俺の感想。
あと、これは俺にもわかるというか、普通のメイドは収納魔法は使えないと思う。
「「「………………」」」
ハルートたちは黙った――というか、動じていない。
まあ、俺とアイスラと共に居たらこういうこともあるよね、という感じだ。
ハルートの従魔だからか、ぐるちゃん、ちーちゃん、つーちゃんも同様。
「このベッドのふかふか具合……悪くありませんね」
天使さんは満足そうにベッドの具合を確認している。
ただ、「ふかふかほんわりあったか寝袋はないのですか? 折角ですから、そちらを体験したいのですが」とアイスラにお願いして「ございます」と寝袋が出されて喜んでいたので、何かしらのこだわりがあるのかもしれない。
「……済まない」
「……助かります」
フレミアムさまとコンテント宰相は……多分、考える力が落ちているのだろう。
……これでしっかりと休めるのならいいか、と思った。
そうして、フレミアムさまとコンテント宰相はよく食べ、よく寝たことで――。
「……み、水を……ははは……空、飛んで、る……」
「……きゅ、休憩して……くださ、い……」
王都を脱出したあとくらいはまだまだ弱っていたのだが――。
「……あ~……風が気持ちいい……」
「……何もせず、手厚く世話されるのもいいですな……」
直ぐに元気を取り戻していき――。
「うおおおおっ! 叔父、許すまじ! 王権を取り返して牢にぶち込んでやる!」
「ふふふ。ムスターが宰相? あいつに私の代わりが務まる訳がない」
あっという間に完全に復調して、その頃にヘルーデンへと辿り着いた。
作者「………………この場合、自分はどこに?」
ジオ「まあ、ぐるちゃんの後ろ足に掴まるのが妥当かな」
作者「あ、握力が……」
ハルート「じゃあ、ぐるちゃんに掴んでもらえば」
作者「餌扱い?」