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王城潜入 8 脱出

 アイスラと共に階段を駆け上がっていく。

 兵士たちも追って来ているが、かなりの距離があるので階段で追い付かれることはない。

 ただ、その兵士たちの前を進み、かなりの速度でナイマンが階段を駆け上がってくる……ズボンを履かずにパンツを晒したままで。

 声が張り上げれば届きそうな位置まで来ているので、思わず言いたくなった。


「ナイマン! それは人としてはともかく、貴族として、騎士団長としての姿としてどうなんだ!」


「ナハハハハッ! どうでも良かろう! 己の姿を気にして賊を逃す方が悪い! 今大事なのは、お前たちを逃がさずに殺すことだ!」


 まったくもってその通り。

 少しは動揺して駆け上がる足が遅くなるかも? と声をかけてはみたが、ナイマンには通じなかった。

 身体能力の差が如実に現れていて、徐々に距離が縮まっている。

 城壁の上に着く頃には追い付かれていそうだ。

 上手くタイミングが合えばいいのだが。


 ――そうして、止まることなく一気に階段を駆け上がって城壁の上に辿り着いたのだが、ハルートたちとロレンさんもまだ城壁の上に居た。


「まだか!」


「あと少し! もうそこまで」


「よおし! 追い付いた!」


 ハルートが答えているところで、後方から大きな声が響く。

 確認するまでもないが視線を向けると、既に大剣と大盾を構えたナイマンが居た。

 ナイマンの背後には、同じく駆け上がってきた兵士たちも控えている。


「思ったよりも早いお着きで……そのまま大盾は構えたままで頼む」


 そうすれば、ナイマンの下着を見なくても済む。

 だから、だろうか。

 ナイマンの後方に居る兵士たちからはもろに見えているようで、全員微妙な表情を浮かべていた。

 当のナイマンは、俺の言葉に首を傾げる。


「意味はわからないが、どのみちお前たちでは私の大盾をどうこうはできない! つまり、お前たちでは私に傷一つ与えることもできないということだ!」


 そういう訳ではないのだが……。

 それに、やろうと思えば傷を与えることもできる。今はそれができるだけの時間がないだけで、時間さえあれば、その大盾をどろどろどころか消してやるのに……ではなく。


「なら、一つ聞かせてくれ。そんな姿で恥ずかしくないのか?」


「………………別に?」


 ナイマンが首を傾げる。

 その様子を見る限り、本当にわかっていないようだ。まったく気にしていない。

 そこまでの態度を見せられると、逆に器が大きく見えるから不思議だ。

 ……いや、ナイマンはただ気にしないだけだと思うが。

 しかし、再びナイマンと戦うことになるのは間違いない。

 しかも、城壁の上で。

 落ちたら……怪我で済めばいい方だろう。


「では、いくぞ!」


 ナイマンが飛び出し、大剣を横薙ぎに振るう。

 アイスラと協力して、どうにか受け流す――が、衝撃が凄まじく、城壁の端まで体が押し流されて落ちるところだった。

 それに安堵している場合ではない。

 ナイマンは大剣を切り返してきている。

 それもアイスラと共にどうにか受け流して――ハルートたちとロレンさんに向けて声を出す。


「さがれ!」


 ハルートたちとロレンさんが下がるのに合わせて、俺とアイスラもナイマンからの攻撃を受け流しながら下がっていく。

 幸いといっていいのか、ナイマンの邪魔になる、大剣の餌食となると判断したと思われる兵士たちの方は前に出てこない。

 数で押されると本当に落ちそうなので助かっている。

 まあ、ナイマンの攻撃を受け流せなくなったら終わりだが……そうなるのも時間の問題だろう。

 ナイマンの一撃は重く、受け流しても衝撃も強いので、いつ手が痺れてもおかしくない。

 そうなる前に来て欲しいところだが……先に大きく動きがあったのは、兵士たちの方。

 城壁は王城を囲う形で輪を描いている。

 だから、兵士たちはナイマンの前には出ようとしない代わりに、反対側から回り込もうとしているのが見えた。

 ……まあ、いつまでもナイマンの下着を視界内に捉えているのも辛いか。

 ギフト「ホット&クール」でどうにかしたいが、ナイマンの大剣を受け流す度に体が流されて視界がブレるために集中できない。


「アイスラ。何かいい案はあるか?」


「……仕方ありません。こうなれば、私も本気を出す必要があるようです」


「………………なんか、これから負ける人が言いそうなことだから、止めて欲しい」


「……そうですね。そんな気がしてきました。では、程々の力で、かる~く倒してしまいましょう。馬鹿を倒せばあとは雑兵でしかありません」


 それもどうなのだろうか?

 同じく負ける人が言いそうな気がしないでもない。

 それくらい状況が悪いということだ。

 せめて、ナイマンが居なければどうとでも――と考えたところで待ちに待った光明が現れる。


「来た!」


 ハルートの言葉を受けて、その存在を感知した。

 ぐるちゃんがこちらに向かって飛んできている。


「脱出準備を!」


「ああ!」


 ハルートが返事をする。


「脱出準備? どこに脱出するというのだ!」


 ナイマンが振るう剣には先ほどよりも強い力が込められている。

 絶対に逃がさない、という強い意思を感じるが、そうやって俺とアイスラに意識を向けているから、気付くのに遅れたのだ。

 ぐるちゃんが高速で城壁へと迫り、そのまま通り過ぎていく。


「な、なんだぁ!」


 それでぐるちゃんに気付いたナイマンが視線を向けた。

 ぐるちゃんは回り込もうとしていた兵士の前面に炎を吐いて足止めしたあとに戻ってくる。

 俺とアイスラはナイマンの視線がぐるちゃんに向けられた瞬間に動き出していた。

 一気に距離を詰める。

 倒さなくていい。転ばせるだけで十分だ。

 攻撃力は俺よりアイスラの方が上なので、俺は剣だと折れると判断して勢い付けて体ごと大盾に体当たりをかます。

 意識がぐるちゃんに向いていたため、ナイマンは完全に対処できず、少しだけだが体をぐらつかせた。

 そこにアイスラが大盾を越えて迫り、鋭利な風纏いの剣オールスィングス・イージーカットでナイマンの素足を斬り付けた――それでも、僅かな斬り傷しか付かなかった――あとに、体を回転させて勢いを付けた蹴りを傷付けた素足の方に横から放つ。


「うっ! おっ!」


 素足を斬られて痛みを感じているのかわからないが、それでバランスを崩してナイマンが転ぶ。

 さらに、ロレンさんが援護として魔法で城壁から蔓を生やしてナイマンの体を縛り始めた。

 僅かだが、これで拘束できるはずだ。

 その一連の流れを、俺は城壁の外――空中で見ていた。

 ナイマンが転んだ時に大盾で弾き飛ばされたのである。


 気付いたアイスラが手を伸ばしてくるが、間に合わない。

 ロレンさんが蔓を絡ませようと伸ばすが、空振った。


「構わず逃げろ!」


 俺は気にするな、と叫ぶ――叫んだのにアイスラは城壁から勢い良く飛んで俺にしがみついた。


「ジオさま! 私は常に共に!」


 城壁の高さから落ちれば痛いどころの話ではないというのに。

 アイスラを強く抱き締めようとした、その時――。


「つつつつつー!」


 つーちゃんが現われ、俺とアイスラが地面に落ちる前に下からすくい上げるようにして、その背に乗せて上昇する。


「良かった! 間に合って良かった!」


 つーちゃんが城壁の上まで一気に上昇すると、ハルートの嬉しそうな声が耳に届いた。

 声が聞こえた方へと視線を向ければ、コンテント宰相を背負ったままハルートはぐるちゃんの背に乗っていて、ぐるちゃんの前足にはシークとサーシャさんが掴まり、フレミアムさまを背負ったロレンさんはちーちゃんの背に乗っていて、どちらも城壁から飛び立ったところで――守るように天使さんが飛んでいる。

 ……そうか。ぐるちゃんだけではなく、ちーちゃんとつーちゃんも呼んでいたか。


「助けられた! ありがとう!」


「ありがとうございます!」


 俺とアイスラが感謝の言葉を叫ぶと、ハルートは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 さあ、あとはこの場から去るだけだが、その前に――。


「ナイマン! 俺たちはこれで去るが、もし戦場で会うようなことがあれば、その時はしっかりと倒してやるよ!」


 威勢良く言っておく。

 城壁の上の兵士たちはまだ戸惑っていたが、ナイマンは直ぐに正気を取り戻した。


「ナハハハハッ! だったら、精々戦場で私と出会わないことを祈っておけ! もし出会えば、その時はお前の最期だ! ジオ・パワード!」


 殺意ではないが、強者の強大な圧を感じながら、俺たちは王城を脱出し、王都を飛び越えていった。

ナイマン「逃げられたか。中々やるな。さすがはパワード家の者だと、お前たちも思わないか?」


兵士たち「「「その前にズボン履いてください」」」

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