王城潜入 7 退避
アイスラと共にナイマンを押し出して、扉を壊して王城の廊下へと飛び出す。
結構派手な音がしたので、兵士が集まってくると思う。
囲まれると面倒だ。
これからは迅速な行動が求められる。
チラリと後方を確認すれば、ハルートたちとロレンさんが俺とアイスラのあとに続いて部屋を出ようとしているのが見えた。
あとは、空が見えるところまで行ければ……。
「ぬ、ぬう! このような状態ではまともに戦うことはできない! それではお前たちも楽しい頃しいはできないだろう! 少し待て! 今、どうにかするから!」
扉を壊した衝撃をその身に受けたはずなのに、まったく堪えていないナイマンが待ったをかけて、ずり落ちているズボンをどうにかしようと――。
「……んん! 邪魔だな! これ!」
大剣と大盾を廊下の脇に立てかけてから、ズボンを上に上げてどうにかできないかと頑張り始めた。
いや、それはどうなのだろうか。
そうしたいのはわかる。
ズボンがずり落ちたままで戦うのは……俺もどうだろう? と思うが、敵の前で直す――それも武具から手を放して、というのはどうなのだろうか? それでも問題ない、と思われている? 舐められている?
まあ、それだけの力量差があるかもしれない、とは肌で感じている。
ただ、大きな隙で明確な絶好の機会でもある。
どうする? とアイスラと顔を見合わせると――今の内に殺ってしまいましょう、とナイマンを指差した。
命のやり取りの中であれば俺も躊躇はしないが、なんかこう、あそこまで堂々とされると潔いというか、武具から手を放した状態で無抵抗に近い相手となると、さすがに……。
なので、放っておくことにした。
今はナイマンを倒すことが目的ではない。
フレミアムさまとコンテント宰相を連れて、両者無事に――俺たちも全員、無事に王城、王都を脱出することが最優先である。
「それでは、えっと、見られていると恥ずかしいだろうから、俺たちは向こうに行っているから」
「そ、そうか? わ、悪いな。まさか、こんなことになるとは……気合を入れるために新品にしたのが悪かったのだろうか?」
何やらぶつぶつと言いながら、ナイマンはズボンをどういうに集中している。
通り過ぎても大丈夫なようなので「それでは、失礼します」と脇を抜けると、アイスラ、ハルートたち、ロレンさんがあとに続く。
ナイマンはズボンに集中しているので気付いていない。
「……やはり、馬鹿ですね」
アイスラは容赦がない。
―――
――王城一階。廊下。
王城の門の方は兵士も多いだろうし、向かうは王城に潜入した際に踏み込んだ荒れた庭。
速度優先なので、二階に上がるといった回り道はせずに直接向かう。
隊列としては、俺とアイスラが前に出て、ハルートとコンテント宰相、ロレンさんとフレミアムさま、天使さんが中に居て、シークとサーシャさんが後ろを警戒している形となっている。
急ぎたいところではあるが、フレミアムさまとコンテント宰相は長い牢獄生活であっただけではなく、ギリギリ生かされているような状態であったために満足に動くことが難しいので、ハルートとロレンさんが肩を貸しているとはいえ、その進みは遅い。
頑張ってくれているとは思う。
しかし、ナイマンとやり合った際の音は王城内に響いていただろうから、こちらの存在が発覚して兵士に囲まれるまでは時間の問題だ。
どうにか、それまでに王城を脱出する目途は立てておきたい。
だから、庭を目指す。
「フレミアムさま。コンテント宰相。もう少しですので頑張ってください」
「あ、ああ」
「う、うむ」
フレミアムさまとコンテント宰相がなけなしの力を振り絞って足を前に踏み出していた。
ハルートとロレンさんも「頑張れ」と声をかけている。
それも足を前に踏み出す力となっているはずだ。
そこで、サーシャさんが首を傾げながら呟く。
「背負えばいいのに」
ピタッ、と全員の足が止まった。
顔を見合わせる。
『……は、はは……ねえ……あはは……』
自然と苦笑が漏れた。
勢いで来たから、かな。
フレミアムさまはロレンさんが背負い、コンテント宰相はハルートが背負い――速度は劇的に上がった。
―――
やはり、ナイマンとの戦闘音は大きく響いていたようだ。
ところどころから慌ただしく人が動く音が聞こえてきて、実際に兵士に見つかって立ちはだかれたり、追いかけられたりする。
もちろん、立ちはだかるのなら俺とアイスラが、追いかけられるのならシークとサーシャさんが対処して倒していく。
そして、王城一階の廊下を駆け抜けていき――目的地としていた、荒れ果てた庭に辿り着く。
空に視線を向けるが……夜空に光る月と星しか見えない。
……まだ、か。
「ハルート! どれくらいかかる?」
「もう近くまで来ているが、あと少しかかる!」
それなら――。
「「「うおおおおおっ! 賊だ! 賊が居たぞ! 複数だ! 囲め! 囲め!」」」
かなり人数の増えた兵士たちが追ってきているので、少しでも空へ近付けるように城壁へと向かうことにした。
それにしても、こちらにはフレミアムさまとコンテント宰相が居るのだから見逃してくれてもいいのに……まあ、元々王城に勤めていた兵士ではなく、新王に仕えている兵士に替えられた、といったところだろう。
城壁の上に行く階段を、ハルートたちに先に行かせる。
俺とアイスラは残って、追ってくる兵士たちの相手をしていく。
ただ、兵士の数はあまり減らない。
王城に勤めているだけあって普通の兵士より強く、中々倒れないというのもあるが、次々と現れているからである。
まともに相手をしてはいられない。
折を見て俺とアイスラも上がらないといけない、と思ったところで――。
「ナハハハハッ! 何も深く考えることはなかった! ズボンがどうしてもずり落ちて邪魔になってしまうのなら、履かなければいいだけだ!」
ズボンを履いていないナイマンが現れた。
「「「ギ、ギャー!」」」
兵士たちが叫びながら近寄りたくはないと左右に避けたことで、ナイマンの前に道ができる。
いや、兵士たち! まずはお前たちが俺とアイスラの相手をするべきだろ!
折角のナイマンが近付いてこれないための盾が――と思う。
「先ほどの戦いの続きだ! そこで待っていろ!」
「こちらも上がるぞ、アイスラ!」
「かしこまりました。アレに近付きたくありませんので、早々に上がりましょう」
アイスラが辛辣な気がするが気持ちはわかる。
ナイマンを待つことはせずに、俺とアイスラも階段を上がっていった。
作者「……大人になると、背負われることってそうそうないよね?(ちらっ)」
ジオ「何もないなら自分の足で歩け」
ハルート「ごめんなさい」
シーク「………………(両手で✕印)」
作者「まあ、そうだよね」