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王城潜入 6 はっ

 叩き付けられて背部に感じた痛みが全身に広がる。

 かなり強い力で叩き付けてくれたようだ。


「ナハハハハッ! どうした? オールの息子だというのに、まさか、たったの一撃で終わる、なんてことはないよな?」


 ナイマンが大剣を振り被るのが見える。

 アイスラが阻止しようと攻勢を仕掛けるが、ナイマンは大盾と体捌きだけですべて防ぎ、かわして、俺に大剣を振るおうとするのを止めない。


「ナハハハハッ! 貴様もただのメイドではないようだ! 腕前もその剣も中々である! パワード家のメイドか? なら、オールの息子は大事だろう? しっかりと守らないとな!」


 大剣が振り下ろされる。


「そう簡単に! やられるかよ!」


 痛みは無視して、体を回転させて大剣を避ける――が、大剣の衝撃によって床が砕け、飛び散った破片で背部にさらに痛みが走る。


「ぐっ! 痛い、だろうが!」


 止まってはいられない、と痛みは我慢して起き上がりながら剣を振るう。

 ギャリィンッ! と甲高い音が響く。

 ナイマンの鎧に少し傷を付けただけだった。


「この鎧に傷を付けられたのなら、それはお前の腕と剣の出来がいいからだ! 誇るといい!」


「知っている」


 剣の出来がいいことくらいは。

 自分の剣の腕は……まあ、普通よりはいいと思うが、凄腕でないことくらいはわかっている。

 直ぐに体勢を立て直し、ナイマンから距離を取って一息吐く。

 見れば、アイスラもナイマンから距離を取っていて、一息吐いていた。

 アイスラと目を合わせ――同時に攻めにいき、俺とアイスラが攻め続け、時にナイマンがカウンターを放ってくる、といった状況が続く。

 体が温まってきたことで俺とアイスラの動きはさらに良くなった――にも関わらず、ナイマンには、未だまともな一撃は一度も入っていない。

 すべて防がれ、避けられている。

 父上が、自分が居なければルルム王国最強はナイマンだ、と言っていたのを、正に肌で感じ取っていた。

 ナイマンが騎士団長という職に就いたのは、何も新王側だから、という訳ではなさそうだ。

 勝機が見出せない。

 また、一発逆転、あるいは状況の好転を狙って、ギフト「ホット&クール」の準備を始めたいところではあるのだがその余裕はなく、距離を取れば詰められるし、攻防においては視界の一部に意識を向け続けるのは非常に危険な状態となっていた。


 もちろん、ここでやられる訳にはいかない以上、どうにかしなければいけない――のだが、何かことを起こす前に、ここで予期せぬことが起こる。

 いや、冷静になって考えてみれば、当たり前のことだ。


「……う、うぅ……」


「なんだ? ……寝てた?」


 室内で寝ていた兵士二人が起きた。

 それはそうだ。

 ナイマンとやり合う度に甲高い金属音が鳴り響くし、床や壁の破壊音と衝撃が広がって伝わっている。

 眠っているだけなら、起きて当然だ。

 ……縛っておけば良かった。


「え? あれ? ナイマン騎士団長と……誰? 戦闘中?」


「は? 賊? メイド? どういう状況だ、これ?」


「賊だ! さっさと起きろ! この馬鹿者共が!」


「「は、はい! ナイマン騎士団長!」」


 ナイマンが叱責するような声を上げると、兵士二人が動き出す。

 腰から提げていた鞘から剣を抜き、こちらに斬りかかってくる――ようなことはしない。

 近付き過ぎるとナイマンの邪魔のなると考えたのだ。

 だから、俺かアイスラがナイマンから距離を取れば、そこに詰めかけてくるに違いない。

 それなら先に兵士二人の方を倒せばいいのだが、その行動を取れば、隙を見せたとナイマンが襲いかかってくるだろうから迂闊な行動が取れない。

 狭い室内なのに、さらに動きが制限された気分だ。

 ………………ナイマンに近付き過ぎると巻き込まれて面倒だから、とかではないよな?


 ともかく、状況は悪くなる一方だ。

 後ろの兵士二人ならまだしも、ナイマンをどうこうは――難しい。

 ナイマンもそうだが、俺もアイスラもまだ大きな傷は負っていないのは、多分力が拮抗しているから――と思いたいが、それも時間の問題だろう。

 疲労を感じ始めたら、終わりだ。

 ナイマンが先に疲労する――のはどうしても考えにくい。

 ……疲労を疲労と感じるよな? こいつ。

 このままではじわじわと追い詰められていくだけなので、何かしらの策を求めて、アイスラと視線を合わせる。


 ――私がナイマンをどうにか押さえますので、その間に兵士二人の方をお願いできますか?


 と言われた気がした。

 いや、それ、少しでも時間がかかってしまえば、アイスラが――となりかねない。

 しかし、今はそれが最善か――と思ったところで、地下へと続く階段の方から動く気配を感じた。

 ハルートたちなのは間違いない。

 動き始めた、ということは準備ができたということか。

 ナイマンはどうかわからない――多分、気付いているだろうが――兵士二人は俺とアイスラを意識するあまり、ハルートたちには気付いていないと思われる。


 となると、シークとサーシャさんに兵士二人は任せて――とナイマンとやり合いながら、どうにか考えが纏まると同時に動き出す。


「アイスラ! 少し頼む!」


 ナイマンの相手はアイスラに一時的にお願いして、俺は距離を取って兵士二人も近寄らせないように牽制しておく。

 その間に、ギフト「ホット&クール」で超熱は無理でも豪熱空間くらいはできるだずだと、ナイフ型で温度を上げていく。

 やはり、こういう時に見えない、というのは便利だ。

 ナイフ型の豪熱空間を作り出すと同時に、声を張り上げる。


「隙を作って一気に駆け抜ける! しっかりと付いて来い!」


 いきなり何を言っている? とナイマンと兵士二人が首を傾げるが、お前らに対して言ったのではなく、ハルートたちとロレンさんに対して、だ。

 フレミアムさまとコンテント宰相を上手く連れて行ってくれよ、と願いながら行動に移す。


 アイスラが緩急を上手く使い、ナイマンに小さな隙を作る。

 そこに、ナイフ型の豪熱空間を射出。

 ナイマンの鎧の腰部分を僅かに切り裂く。

 体までは切り裂いていないようだが――問題ない。寧ろ、狙い通りだ。


「んん? 今、何かし――ぬおおっ!」


 ナイマンが驚きの声を上げる。

 それもそうだろう。

 俺が切り裂いたのは、鎧と、履いているズボンの腰紐部分である。

 支えをなくしたズボンがずり落ちたのだ。


「いかあん! これではナイマンのナイマンが露出してしまう!」


 そう言いながらナイマンが内股になる。


「……はっ」


 アイスラが鼻で笑うのと同時に、事態は動き出した。

 地下へと続く階段からシークとサーシャさんが出て来て、兵士二人をあっという間に倒す。

 次いで、コンテント宰相に肩を貸したハルート、フレミアムさまに肩を貸したロレンさん、その護衛として天使さんが上がってくるのが見えたところで、俺とアイスラはナイマンに向けて突っ込み、ナイマンの左右から飛びついて、押す。

 ナイマンは当然抵抗しようとするが、ズボンがずり落ちていることが気になるのか、体に力が入っていない。

 俺とアイスラは勢い良く押し続け、そのまま扉を突き破って部屋の外へと出る。

アイスラ「……はっ」


作者「こっち見て鼻で笑わないでもらえますか」

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