王城潜入 5 戦闘
階段を上がった先――王城一階の部屋から非常に強い人の気配を感じる。
それは他の皆も同じようで、全員階段前で足を止めた。
どうにも、嫌な予感がする。
これまでならシークとサーシャさんに様子を見て来てもらうところなのだが、俺が行った方がいい気がする。
戦闘になる――そんな予感がするからだ。
なので、コンテント宰相をハルートに任せて、俺とアイスラで見に行くことにした。
一気に階段を上がらず、ゆっくりと上がる。
まず見えたのは、気絶して縛られたままの兵士が二人。
それとは別にもう一人。
部屋の中央に居て、腕を組み、待ち構えるように立っている男性が居た。
――赤の短髪に、厳つい顔立ち、大柄で、鍛え抜かれた体の上に鎧を身に付けた四十代くらいの男性。
大剣と大盾を背負っている。
直接の面識はないが、何度か見かけたことがあるので……間違いない。
ナイマンだ。確か、今は新王の下で騎士団長になっているはずだ……が、それがどうしてここに居る?
疑問に思うが、それよりも、こちらから見えるということは、向こうからも見えているということだ。
曲がり階段ではないし、遮蔽物もないのだから仕方ない。
目が合うと、ナイマンはニヤリと笑みを浮かべた。
「ナハハハハッ! 漸く賊が出て来たか! しかし、その顔! 見覚えがあるぞ! 確か、オールのところの下の子だったな! 名は、ザ……ジ……ズ……ゼ……ゾオ! 違う気がするな……まあ、いいか! ナハハハハッ!」
意外と記憶力はある方なのかもしれない。
いや、名は間違えているが。それでも、俺が父上の子であると認識しているとは思わなかった。
名指しされた訳だし、このまま隠れ見ていても仕方ない。
ただ、出る前に――ハルートたちには出てくるな、とナイマンから見えないように手振りで伝えるのと、一度だけチラリとハルートに視線を向ける。
目が合ったので、意図は察してくれる、と思う。
アイスラと共に階段を上がり、そのまま部屋の中に入ってナイマンと対峙する。
「誰がゾオだ。ジオだ。ジオ・パワード」
「ジオ! そうだったか! ナハハハハッ! 私を前にして名乗る気概があるとは! さすがはオールの子だと言っておこう!」
「それはどうも」
「しかし、丁度いい! 以前、お前を殺しにヘルーデンへと行こうとしたが、雑魚だから放っておいてもいいとベリグ陛下に止められたが、そちらから殺されに来るとは丁度いい! この場で殺して……」
「………………」
「なんでここに居るのだ? お前」
疑問だ、と首を傾げて素直に聞いてくるナイマン。
「……ジオさま。私はこの方とお会いしたことはありませんが、もしかして、この方は馬鹿ではありませんか?」
「いや、それは」
「ナハハッ! そう褒めるな!」
「褒めてないから」
「褒めておりません」
笑うナイマンに、俺とアイスラは呆れた目を向ける。
けれど、油断してはいけない。
ナイマンの一挙手一投足――ほんの僅かな動きでも見逃してはならない。
アイスラも、直に対峙して感じているはずだ。
「ナハハハハッ! まあ、なんでもいいさ! 勘、とでも言えばいいのか、妙な胸騒ぎがして城内を見回ってみれば、兵士が眠りこけていて、地下へ向かう階段からは宿敵の息子が出てくるという状況だ! どうやら、天は私にお前を殺せと言っているようだな! ジオ・パワード!」
「……逆では? ここで、俺にやられておけということだと思うが?」
「ナハハハハッ! やれるものならやってみるといい! 確か、お前はリアン・パワードと違って出来損ないと言われていたが、それで私が手を抜くとは思わないことだな! 寧ろ、呆気なく死んでくれるなよ? オールの息子なら、少しは私を楽しませて欲しいからな!」
ナイマンが背負っていた大剣と大盾を手に取って構える。
大柄なので大剣と大盾でも普通の大きさに見えてしまうので、距離感に注意しないといけない。
ただ、強者特有の迫力は十分にある。
それもそうだろう。
脳裏に、父上の言葉が過ぎる。
父上は――個人の戦闘能力だけで判断すると、もし自分が居なければ、ルルム王国最強はナイマンである。と断言した。
ナイマンは、父上にその強さを認められている。
それが、目の前で立ち塞がっているのだ。
フレミアムさまとコンテント宰相を逃がすためには……ナイマンをどうにかするしかない。
「……アイスラ。父上と対峙しているつもりで動くように」
「……かしこまりました」
腰から提げている鞘から剣を抜く。
アイスラと同時に駆け出し、途中で交差して左右に分かれる。
交差した瞬間にアイスラも収納魔法の中から鋭利な風纏いの剣を取り出し、構えていた。
左右からアイスラと同時に斬りかかり――甲高い金属音が室内に響く。
俺の振るった剣は大盾に止められて、アイスラの振るった剣は大剣によって止められた。
「悪くない! だが、まだまだだなぁ!」
ナイマンが両腕を振るう。
それだけで俺とアイスラは弾き飛ばされる。
見た感じ、ナイマンは軽く腕を振るっただけなのだが、剣から伝わる衝撃は非常に重く、どれだけの膂力持ちなんだと言いたくなった。
壁まで弾き飛ばされたが、そのまま壁を蹴って勢いを付け、再び斬りかかる。
素早く何度も剣を振るうが、大剣で防がれ、大盾で防がれ、時には体捌きでもかわされた。
かすり傷すら与えていない。
見た目と違って、素早い動きもできるようだ。
また、これは俺だけではない。
反対側からアイスラも斬りかかっているのだが、俺と同じ状況である。
もちろん、まだ本気ではないというか、漸く体が温まってきたところだ。
アイスラもきっとそうで、これからもっと早く動けるようになって、さらに強く剣を振るうこともできる――が、それはナイマンも同様だろう。
今のところ、俺とアイスラが攻めて、ナイマンが防ぐ、という構図となっているが……これはいつでも逆転されそうな――それくらいの強さをナイマンから感じる。
これは、手段を選んでいる場合ではない。
ギフト「ホット&クール」の準備をしておこう、と思ったところで――。
「ふむ! まだ力を隠し持っているようであるし、中々の実力者なのは認めよう! だが、まだまだだな!」
こちらが攻めている最中だというのに、ナイマンが攻めに転じて絶妙なカウンターで大剣を振り下ろしてくる。
それは鋭い斬撃であり、突如攻めに転じてきたことで不意を突かれた形だが、どうにか反応はできた。
ただ、反応できた、だけ。
まともに受けると剣ごと斬られそうだ。かといって、避けるのも間に合わない。
それでも、どうにか受け流そうと剣を当てる――だけで精一杯。
剣が斬られることはなかったが、その代わりに床に叩き付けられて、背部に強い痛みと衝撃を受ける。
ナイマン「ナハハハハッ! 私が来たからには、ここからシリアスパートだ!」
作者、ジオ、アイスラ「「「それはない」」」