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しっかりと話し合うように

 前王の居場所を聞いたあと、今代聖女――いや、今はキャットレディとしてか――キャットレディは精白のシスター服の中から折り畳まれた紙を取り出して、テーブルの上に広げる。

 広げられた紙は、王城の一階と地下の見取り図だった。

 ご丁寧に地下牢最奥まで描かれている。

 一応、俺も父上や兄上に付いて登城したことはあるが、行ったことがある場所は一部でしかない。

 地下牢最奥どころか地下牢にすら行ったことがないので非常に助かる。

 これがあるとないのとでは、まったくといってもいいほど違うだろう。


「よく手に入ったな」


「キャットレディに盗めないものはないわ……と言い切りたいところだけれど、さすがに無理。一部だけで限界。思っていたよりもガードが固かったわ。まあ、今代聖女として何度も行っているから、私自身は大体把握しているけれどね。でも、ここだけでも十分でしょ?」


「十分だ。助かる。ありがとう」


「別にいいわよ、これくらい。新王にこの国は任せられないもの……念のために確認しておくけれど、私はこれ以上手伝わない……あなたたちには同行しないけれど、構わないわよね?」


「ああ、それでいい。そこまで協力しろとは言わない。さっきも言っただろ。見取り図だけでも十分だ」


 今代聖女はキャットレディでもあることを隠している。

 下手に連れていって、それが明るみになるようなことがあってはいけない。

 だから、連れて行かない……まあ、そもそも潜入に関してはシークとサーシャさんが居るし、戦力に関しても俺とアイスラ、ハルートたち、ロレンさんが居れば十分なのだ。

 人手は足りている。


「そう。なら、サービスでもう少し教えてあげる」


 同行するのかもしれない、という考えが頭の中で過ぎっていたのだろう。

 キャットレディは安堵したように息を吐いたあと、今度は見取り図を用いて、王城の警備がどのような布陣で行われているのかを教えてくれた。

 そこまで調べているとは、さすがである。

 聞き逃しがないように、キャットレディの話にしっかりと耳を傾けた。

 俺だけではなくアイスラも共に聞いているので、聞き逃しはないと思う。


「――という感じだけど、最後に一つ。こういう潜入は初めてでしょ? だから、言っておく。どれだけ用意をしていようとも、不測の事態が起こる時は起こる。起こらないことはない。大事なのは、起こった時は慌てずに対処すること。常に冷静に。それを忘れないことね」


「わかった。常に冷静に、だな。色々と助かった」


 キャットレディとの話が終わったので、共に聖堂へと戻る。


「……共に?」


「いや、なんか神託が届いているんだけど、意味がわからないから確認しておこうと思って」


「神託? 意味?」


「ええ。『教皇を取り戻せ!』て。何度も届いているんだけど、どういうこと、これ?」


「ああ……なるほど。うん。なるほど」


「その反応……理由を知っているようね。教えてもらえるかしら?」


「……理由、か」


 どう言ったものか。


「直接会わせた方が早いと思います」


 アイスラがそう言うので、そうすることにした。

 確かに、説明しても信じられないだろうから、直接話した方が色々と早いと思う。

 もう手遅れだということが。


 そうして、聖堂に戻ると、ハルートたち、ロレンさんが待っていた。

 教皇も居る。


「待たせて悪かった。今代聖女とは面識があったから、これを手に入れてもらうのに協力してもらったんだ」


 ハルートたち、ロレンさんに王城の見取り図を見せて、これが何かを教えると驚きの表情を浮かべる。

 普通は手に入らないものなので、驚くのも仕方ない。

 それと前王が捕らえられている場所についても今代聖女に調べてもらっていて、今まで時間がかかったのは、アイスラと共に王城の警備がどうだったかを思い出していたから、ということにしておいた。

 今代聖女からの情報ばかりだと、一体何者だと妙な目を向けられかねないからである。

 隠しておけるところは隠しておくべきだ――と、これはキャットレディ――いや、今見せている顔は今代聖女か――今代聖女も納得済みだ。

 ただ、天使さんはすべてお見通しです、という笑みを浮かべている。

 ……まあ、黙っていてくれるようなので、心の中で感謝しておこう。


 その今代聖女は、教皇に詰め寄っている。


「教皇さま。神託であなたを取り戻せと言われているのですが?」


「おお! 聖女よ! 私は新たな教えを賜りました。その教えの下で生きていくためには、私は教皇を辞さないといけません。つまり、次の教皇を選定しなければならないのですが……」


 教皇が、狙いを定めたかのように今代聖女を見る。

 今代聖女は何を察したようで逃げ出そうとしたが、その前に教皇が今代聖女の肩を掴んで引き留めた。


「今代聖女――いや、聖女教皇よ」


「嫌です」


 今代聖女は聖女らしい笑みを浮かべて即座に断りを入れた。

 そんな面倒なことは絶対にやらない、と顔に書いている。


「しかし、教皇として相応しい者となると……そうか。呼び名が気に入らなかったのだな。では、教皇聖女よ」


「嫌です」


「これも駄目なのか! では教皇聖女クイーン・オブ・クイーンとしようではないか」


「そう書いてそう読む、という問題ではありません。絶対に嫌です」


 本気で嫌だと示すように今代聖女の顔は歪んでいた。

 教皇はそれに気付いているはずだが、そこには触れず、「教皇にならないか?」と熱心に勧誘している。

 それでも今代聖女は断り続け――助けなさいよ、とチラチラとこちらを見てくるのは……。


「教会内の話ですので、迂闊に触れない方がよろしいかと。それに、そもそも教会からすれば私たちは部外者ですので」


「うん。アイスラの言う通りだ。協力ありがとう。さすがに教会関係の話に踏み込む訳にはいかないので、頑張ってくれ」


 アイスラの言う通りだと思い、あとのことはそちらで解決してくれと伝える。

「いや、これどう考えてもあんたたちのせい――」と今代聖女がこちらに来ようとするが、教皇が阻んで勧誘を続けた。

 俺たちを守ったというよりは、天使さんの下には行かせない――といったところだろう。

 そんな教皇に尋ねる。


「教皇さま。この聖堂はこれから人が来ますか?」


「皆さまがいつ来るか正確な時刻はわかりませんでしたので、本日は私の名の下に誰も近付くことはありません。好きなようにお使いください。それでですね、教皇聖女(クイーンズ・ルール)よ。教皇になれば」


「ですから、私は教皇にはなりません――え? 今、私のことをなんて呼びました? 聞き分けが悪いと、拳、出ますよ?」


 使っていいようなので、使わせてもらおう。

 こういう時、拠点がないと本当に困る。

 王都内だと誰が新王側かわからないし、パワード家の屋敷も押さえられているだろう。

 聖堂なら安全に使えるので、ここで誰の目にも見えるように見取り図を広げて、ハルートたちと今後の行動について話し合った。


教皇聖女(アイ・アム・クイーン)よ――」


「変な名で呼ばないでください。枢機卿から選べば……いえ、まずは拳で話し合いを――」


 集中できないから、ちょっと向こうでやってくれないかな。

作者「どんな名ならいいですかね?」

今代聖女「どんな名でも嫌よ」

教皇「では、今代聖女と書いて、『アマゾネス』と」

今代聖女「やはり、拳で話しましょうか、教皇。私の拳は荒々しいですよ」

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