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憂いがなくなるだけで十分

「はっはっはっ。新王と敵対しているのならば、始めにそう言って頂けると、先ほどのようなすれ違いなど起こりませんでしたのに。そのような者たちが神敵であるはずがありません。ましてや、天使さまであったとは……未熟で浅慮であったと身を以って教えられました。間違った判断をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」


 教皇が謝ってきた。


「いえ、あなたほどの敬虔なる使徒であれば当然のこと。それに、勘違いは正されたのですから、私は気にしておりませんよ」


 天使さんは、隠していた三対六枚の翼を見えるようにしていて、教皇に向けて笑みを浮かべている。

 天使さんが天使であると証明するのに、これほど適したものはないだろう。

 最初から天使の翼を見せれば――と思わなくもないが、主神から敬虔なる使徒を奪ったという結果に天使さんは満足しているようなので、きっとこれでいいのである。


「ありがとうございます。ただ、また私の後継は決まっておりませんので、敬虔なる女神の使徒となるのは、いくばくかの時が必要になるのですが大丈夫でしょうか?」


「問題ありません。女神はあなたが使徒となる日をお待ちしています――おや、まだあなたが使徒ではないので私に伝えてきていますね。『あなたが使徒となる日を心待ちにしています』と」


「おお。なんと心躍るお言葉を……これまでの人生の中で最も心が潤うお言葉でございます。私もその日を心待ちにしております、とお伝えください」


「大丈夫。女神にあなたの言葉は届いていますよ。ですので、心待ちにしておきなさい。あなたが新たな敬虔なる使徒になると願い続ければ、その時に私が仲介――引き合わせるために現れましょう」


「ありがとうございます」


 教皇は天使さんに向けて頭を下げて、心からの感謝が籠った言葉を伝えた。

 しかし、俺は見てしまう。

 瞬間――天使さんは顔を上に向けて、「ざまぁ」と勝ち誇った笑みを浮かべたのを。

 誰に向けてかは、考える間でもない。

 ただ、ここで迂闊に触れて関わろうとしてはいけない。

 間違いなく巻き込まれることになるので、黙って見守ることにした。


「ところで、本日はどうしてこの大教会に来られたのですか? 私を勧誘することが目的だったのでしょうか?」


「本来の目的があるのでした。主神が余計な神託したばかりに……まあ、それはもうバレているようなので、放っておいてもお叱りを受けるでしょうからいいでしょう。ここに来たのは、彼がここに用があったからです」


 天使さんが俺を指し示したので、前に出る。


「すみません。私はジオ・パワードと申します。今代聖女に会いに来ました。本人に確かめて頂ければ知り合いであるとわかりますので、お取次ぎをお願いします」


「ほう。ジオ・パワードが今代聖女と……なるほど。どうやら、新王に神の裁きが下る日も近いようで何よりです。教皇として祈りを捧げていましたが、どうやら聞き入れて頂けたようですね。……まあ、もう遅いですが」


 教皇は、もう女神の使徒になった気のようだ。

「では、こちらにどうぞ」と聖堂の奥へと案内される。

 ハルートたちには聖堂で待ってもらい、会うのは俺とアイスラだけ。

 聖女がキャットレディだと知っているのは俺とアイスラだけであるし――天使さんは把握していそうだが――それを広めるつもりはないからである。


 そうして、案内されたのは大教会内にある応接室だった。

「今、今代聖女を呼びますので、こちらでお待ちを」と教皇は出て行き、俺とアイスラは室内に残される。

 待っている間に室内を確認するが、貴族の屋敷の応接室ほどではないが高価そうな調度品がいくつか置かれていた。

 ……いや、これはただ高価というよりは歴史的付加価値がある、と見るべきだろうか。

 そうして時間を潰していると、少しして教皇が戻り、次いで今代聖女が入ってきて、俺に向けて一礼する。


「お待たせしました。ジオ・パワードさまとこうしてお会いできて嬉しく思います」


 ニッコリと今代聖女(表向き)の笑みを向けられる。


「ええ、こちらもまたお会いできて嬉しく思います」


 合わせてそう返す。

 アイスラから一瞬だけど殺意が発せられた――ような気がした。

 ただ、今代聖女はキャットレディであることを隠しているようだが、先ほどの教皇の口振りだと察していると思う。

 今も今代聖女からは見えていないが、教皇は、大丈夫。全部わかっていますよ。という笑みを浮かべている。


「では、私はこれで……今後のこと(次期教皇)について考えねばなりませんので。ああ、話が終わるまでは誰も近寄らないようにしていますので、お好きなようにお話しください」


 それだけ言って、教皇はどこかに行った。

 室内の残った今代聖女は、中央に置かれているソファに腰を下ろして、精白のシスター服の中から小さな箱を取り出し、それをテーブルの上に置いて小さな箱の何かをカチッと押す。

 以前も使っていた、遮音結界の魔法具である。


「ここは大教会だというのに随分と念入りだな」


「当然でしょ。私のもう一つの顔は秘密なんだから」


 今代聖女ではなく、キャットレディとしての笑みが浮かんでいた。

 俺は対面のソファに腰を下ろす。


「それで、頼んでいた件だが、どうだった?」


「私を誰だと思っているの? キャットレディよ。当然、居場所は判明しているわ。――王城の地下牢の最奥。そこに居るわよ」


「王城の地下牢の最奥、か」


「……なんで笑っているの? 王城の地下牢の最奥は、間違いなくそう簡単にはいかないところ――それこそ、私でもそこまで進めるかどうかわからない場所よ」


「ああ、王城は新王の本拠地となってしまった場所だからな。そう簡単にはいかないのはわかっている。それでも、予想できた場所だったからな。これで予想できない場所だった場合、また新たに用意しなければいけないことも増えたかもしれない。それがなくなって安心しただけだ」


 もし、そんなことになっていれば、下手をすれば大きな戦いまでに救い出すことができなかったかもしれない。

 その憂いがなくなっただけで十分である。

 あとは、前王を救出するのに全力を尽くせばいいだけだ。

件の弩エロい見た目の女神「……今代聖女、ね。教皇と一緒に来てくれないかしら。聖女って言葉だけで、もう何かエロいし」

作者「いや、それはさすがに」

件の弩エロい見た目の女神「あなたも来る?」

作者「ばっ! いや! だっ! ぢょっ! ……考えさせてください」

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