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ヘルーデンから出るということは

 ルルム王国の王都――王都・ルルインドアに向けて出発する。

 今回は秘密裏の行動でなければならない。

 場合によっては目立つことも陽動として必要ではあるが、基本は秘密裏である。

 なので、そのためにはどうしてもしなければならないことがあった。

 ヘルーデンを出て直ぐにそのための行動に移る。

 断腸の思いとは、こういうことを言うのだろう。

 いや、俺だからこの程度で済んでいるのだ。

 もし、彼女がこの場に居れば、間違いなく抵抗しただろう。

 それも本気の。


「……済まない。これは仕方ないことなんだ。だから、どうか受け入れて欲しい」


 本心である。

 そう声をかけると――。


「……ぐる」


 少し悲しそうな声が返ってくる。

 ただ、仕方ないことだとわかっているのだろう。

 俺の言葉を理解している、とぐるちゃんが頷く。

 そう。忘れてはいけない。

 ぐるちゃんが今ハルートと共にヘルーデンで居られるのは、「魔物大発生(スタンピード)」の活躍があって、ヘルーデンの人たちに受け入れられたからである。

 ハルートの従魔になって最初からではない。

 つまり、ぐるちゃんがヘルーデンの外に出ると、普通に恐れられ、非常に目立つということである。

 ハルートも納得済みだ。


「ぐるちゃん。ぐるちゃんの力が必要になったら、繋がりを通じて直ぐ呼ぶから。それに、ぐるちゃんと一緒に居られるように、またヘルーデンに戻ってくる。だから、少しの間、隠れていてくれる?」


「ぐるるぅ」


 一時の別れを惜しむように、ハルートに頭部をこすり付けて甘えるぐるちゃん。

 ハルートが優しく撫でたあと、ぐるちゃんはどこかに飛んでいく。

 その姿が見えなくなるまで見送った。

 ……なんだろう。何故か罪悪感がある。


「……ぐすっ。自分……こういうのに弱くて」


 ロレンさんが涙ぐんでいた。

 いや、今生の別れではないのだが……。


     ―――


 王都・ルルインドアに向けて、順調に進んでいく。

 ヘルーデンから王都・ルルインドアまでの間にある村や町に補給のために立ち寄ることはあるが、宿泊はしなかった。

 ロレンさんが入れないからだ。

 村ならまだしも、町に入るのは身元を保証するものが必要で、ロレンさんの分は持っていないからである。

 正直に言おう。急いでいたから忘れt………………現状でエルフであると証明するものを作るのは危険だと判断したからだ。

 だから、あえて(・・・)作らなかった。


 また、ヘルーデンに入れたのは、俺とアイスラ――というかアイスラのおかげであるが、あの手が使えるのはヘルーデンだけで、他では通用しないどころか、滅茶苦茶怪しまれるだけである。

 それに、人の目が多くあるところに居ると、ロレンさんがエルフだという素性が何かの拍子にバレてしまう可能性だってあるのだ。

 そういう可能性をできるだけ排除するのに、野宿の方が都合はいい。

 幸いというか、俺の肩掛け鞄(マジックバッグ)にアイスラの収納魔法と、荷物の持ち運びには困らないので、野宿も普通よりは快適だと思う。

 実際、荷運びがないし、テントも豪華、食料も豊富なので、ハルートたちからは、普段の野宿とまったく違う、と非常に好評である。

 あと、ロレンさんがどう思っているかだが――。


「あ? 町に入れないこと? いや、別に気にしていないが? 今はコンフォードの息子を助け出すことに集中しないといけないし、絶対に助け出さないといけない。そのために自分ができることはする。自分が今目立たないようにすることでその助けとなるのなら、これくらいどうってことはない。それに、目立つのはいつだってできる。自分だからな。いざとなれば周囲の方が放っておかないほどの存在だ」


 大丈夫そうだ。

 とりあえず、自重してもらえるようで何よりである。


 その代わりという訳ではないが……見つかってしまった。俺が。

 順調に進んでいたことで、少し気が緩んでいたのかもしれない。

 早く着くことを優先して街道を進んでいると、向かいから十数人くらいの兵士の一団が来るのが見えた。

 多分、街道の安全のための巡回だと思われる。

 その兵士の一団とすれ違う際――その中の一人が「あっ!」と声を上げて俺を指差した。


「ジ、ジオ・パワード! 間違いない! こいつ、ジオ・パワードだ! 捕らえれば懸賞金が貰え」


 兵士に悪意を感じ取った瞬間――全員が襲撃を始めて、兵士を次々と倒していく。

 ハルートもしっかりと反応していた。

 強くなっているな、と感慨深い。

 大丈夫。一時の記憶を失うくらいボコせば問題ないはずだ。

 まずは制圧をして――と思っていたのだが、兵士の一人に逃げられる。

 仲間がやられる姿を見て、立ち向かわずに逃走を選択したようだった。

 ただ、見逃す訳にもいかない。

 俺たちのことを報告される訳にはいかないのだ。

 倒した兵士たちはハルートたちとロレンさんに任せて、アイスラと共にあとを追う――が、思いのほか速い。直ぐに追い付けない。


「ハッハ~! これでも足の速さは自慢でな! このまま逃げ切らせてもらう! お前たちは強いようだが、速さは俺の方が上のようだな! ハッハ~!」


 ハッハ~、と自慢げでうるさい。

 ムカついたので、捕まえた時に余計な力が入りそうだ。

 それはアイスラも同様のようで殺意が溢れている。

 アイスラが駆けながら道端の石を拾い、投げた。

 駆けながらということと、相手が街道に沿って曲がり始めていたこともあって、石は兵士の一人に当たらずに飛んでいく。


「ハッハ~! 無駄無駄! この俺には誰も追い付けない! 何人も立ちはだかれないのだ! ハッハ~!」


 イラッとしたので、視界内に居る訳だから、俺のギフトで燃やし尽くしてやろうかな、と思った。

 口に出した訳ではないが、「やりましょう」とアイスラが言ってくる。

 ……やるか、と思った時に、追っていた兵士の一人が突然こちらに向けて飛んできた。

 受け止めはしない。

 アイスラもしない。

 兵士の一人は俺とアイスラを通り過ぎて、そのまま地面をゴロゴロと転がってから止まる。

 何が? と視線を戻せば――。


「おや? 立ちはだかってしまいましたね。といっても、もう聞こえていないようですが。……あっ、マスターからの指示でお手伝いに来ました」


 何かを殴ったような姿勢で微笑みを浮かべる天使さんが居た。

作者「はあ……はあ……はあ……ちょ、皆足速い……一般人には無理」

ハルート「どんまい」

シーク「まあ、俺たちとここで待っていよう」

サーシャ「お水、飲む?」

作者「君たちは優しいね。ほんとに」

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