女王の微笑み
「――という訳で、これがお祖父ちゃんたちからの手紙。それと、母上宛のもあるから、俺のと一緒に届けて欲しい」
ウェインさまとルルアさまへの説明はそう締めくくって、肩掛け鞄はハルートたちに預けているので、アイスラの収納魔法の中から手紙を出して渡す。
ウェインさまとルルアさまは、少しだけ時間を要したが――。
「そうか。エルフを見つけ、国にまで行ったのか。それだけではなく、コンフォードさまとウェルナさまだけではなく、イクシーさまとシーリスさまもご健在で……良かった。本当に良かった。……だが、しかし! アイスドラゴンとは! 私も戦いたかった! 竜殺しと呼ばれたい! もちろん、天使とも戦ってみたいものだ!」
「コンフォードさまとウェルナさま、それにイクシーさまとシーリスさまも、付き合いがあったから無事だとわかって……今日は良き日ね。嬉しいわ。それに、これからの戦いにその御力を貸して頂けるのは非常に助かるわね。確か、コンフォードさまはウルト帝国の現皇帝と懇意にしていたはずだから、きっとウルト帝国も最大限協力してくれるはず」
受け入れてくれたようだ。
あと、ウェインさま。アイスドラゴンはまだしも、天使さんはヤバい……本当にヤバいので戦わない方がいいと思う。
こう、単純な勝敗だけではなく、何かを失いかねないというか、肉体的だけではなく精神的にも痛めつけられそうな……そんな気がするから。
神への対応を見た身としては、間違いないと思う。
まあ、明日にはヘルーデンを出るし、そもそも天使さんはまだ戻って来ていないので大丈夫だろう。
「待て。天使が居ないのは残念だが、明日には出るとはどういうことだ?」
おっと、口に出ていたようだ。
説明終わりでまだ続いている感覚だったのかもしれない。
まあ、隠すことでもないので、俺たちはこれから前王を救出に王都へ向かうことも話した。
心配はされたが、二人も大きな戦いで勝利するためには必要なことだとわかっている。
だから、「任せる」と納得してくれた。
そんな感じで、ウェインさまとルルアさまへの説明は、少し時間はかかったが無事に終わる。
お祖父ちゃんたちからの手紙もあるし、俺の説明で足りない部分があってもそちらで補完できると思う。
そのあとは、ウェインさまから、大きな戦いに向けて現在辺境伯軍を編成中だと教えられたのと、預けている少年のことにも触れて、日々剣の腕を上げているようで、もしかすると辺境伯軍に組み込むかもしれない、と言われる。
まあ、本人が希望して、ウェインさまが許可を出せばいいのではないだろうか?
どのみち、まずはウェインさまがレオの腕前を認めないことにはどうしようもないので、これで一旦話は終わり、俺とアイスラは辺境伯の城から出る。
次に会うとしたら、戦場かもしれない。
いや、どうだろう?
そもそもの立場が違うだけではなく、何より大きな戦いとなると、それだけ周囲に居る人も多くなる訳だから、同じ戦場に居たとしても会えるかどうかは別問題というか……まあ、それでも会えると思う。そんな気がする。
辺境伯の城を出て、そのまま宿屋「綺羅星亭」へと戻ろうと思ったが、その前にジネス商会に寄ることにした。
ロレンさんがヘルーデンに居る内に、キンドさんと会わせて交易についての話をさせたいと思ったからだ。
あと、これから王都に向かうにあたって、商人だからこそ知り得る情報みたいなものがあれば知っておきたい、というのもある。
知っていると知っていないとでは、その時に取れる対応に大きな違いがあるので、あるのなら知っておきたい。
なので、ジネス商会に向かった――のだが駄目だった。
キンドさんは居なかった。
お店に、ではなく、ヘルーデンに。
キンドさんの代理で店を任されている人が、俺とキンドさんが親しくしているのを憶えていて、キンドさんからも優遇するように言われていたらしく、少しだけ詳細を教えてくれる。
具体的に、どこに? どのような? というのはわからなかったが、ジネス商会を王都から追いやった、ブラク商会の動向を探りに行っているそうだ。
キンドさんなりに何か思うところがあるのかもしれない。
しかし、ロレンさんと会わせられないのは……いや、待てよ。
確か、ブラク商会は新王が後ろ盾のようなものだし、本店が王都にあるのは間違いない。
となると、キンドさんがブラク商会の動向を探るのであれば王都に出向いている可能性が大いにある。
案外、キンドさんとは王都で会えるのでは? と思う。
ただ、ここでキンドさんとは会えなかったが、ハルートたちと会うことができた。
代理の人と別れたあとに気付いたが、どうやらここで食料を集めていたようだ。
何故それがわかったかというと――。
「くっ。まさか、この私が負けるなんて」
「まだ、この町にこんな娘が居たなんて……正に新星だよ」
「これから新時代が始まるかもしれないね……それだけ、私も年を取ったということかい……」
アイスラですら弾き飛ばされた戦場に、サーシャさんが勝利していたからである。
参加している女性たちの倍の量を、サーシャさんは掴み取っていた。
サーシャさんは満足げに笑みを浮かべているが、どことなく女王の微笑みのように見えなくはない。
近くに居たので声をかけると、ハルート「……動きが何も見えなかった」、シーク「暗殺技術を駆使していた」、ぐるちゃんは子供たちに囲まれて楽しそうにしていて、ロレンさん「……外の世界の女性は想像以上に逞しいな。自分でもどうにかできたかどうか」という感想が返ってきた。
余った金と肩掛け鞄も返ってきた。
ヘルーデンの各所を回って集め、ここが最後だそうだ。
共に行動する人数が人数なので、しっかりと集まったようで何よりである。
戦場の勝者となったサーシャさんに声をかける者が一人。
「弟子にして頂けないでしょうか?」
アイスラである。
教えを乞いたいと示すように頭を下げた。
サーシャさんは困惑して、俺に視線を向ける。
好きなようにすればいい、と思うが、そうもいかないだろう。
なので、とりあえず、王都に辿り着くまでの間、教えてみてから判断するのはどうか? と提案して、それが受け入られた。
アイスラは大喜びである。
それだけ戦場で勝ちたいのだろう。
ともかく、食料も集まったので準備はできた。
宿屋「綺羅星亭」で一泊したあと――翌日。王都に向けて出発する。
作者「女王の入場です! 皆さま、拍手をお願いします!」
ジオ、ハルート、シーク「「「おお〜(ぱちぱちぱち)」」」
アイスラ「さあ! 道を開けなさい! 女王さまのお通りです! ささ、女王さま。どうぞ、お通りください」
サーシャ「……そんな大仰にされることではないと思うのですが」