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不純な動機

 ロレンさんに「転移樹」を使っても――。


「ちょっと待ったーーー!」


 待ったが入った。

 なんだろう? 何か忘れ物でもしただろうか? と声がした方を見れば、ララが居た。

 呼吸は乱れ、肩が大きく上下しているので、かなり慌てて来たことが窺える。

 あっ、なるほど。

 そういえば、ララとも少しは関係を築いていた。

 挨拶の一つくらいはしておくべきだったのだ。

 急いでいたから忘れていた。

 また会えるからと思い、それに甘えていたのかもしれない。

 しっかりと挨拶をしておくべきだった、と考えていると、ララはつかつかとこちらに来て――ハルートの前に立つ。


「あ、あの、その……」


 頬を赤くして、もじもじし始め、何やらハッキリしないララ。


「……え? え? え?」


 その姿に驚き戸惑うハルート。

 ………………? 言いたいことがあるのなら、言えばいいと思うのだが?

 首を傾げていると、アイスラが「少し離れましょうか」と俺の手を取って、ハルートとララから少し離れる。

 どうして離れる必要が? と思うのだが、シークとサーシャさんに、ロレンさんも空気を読んだかのように少し離れた。

 どういうことだ? 説明をお願いしたい。

 ついでに、どうしてアイスラたちはどことなくワクワクしているのかも。

 あ、あと、ぴゅいちゃんとぐるちゃんはハルートの側に居るが、こちらに呼ばなくていいのだろうか?

 その辺りのことも聞きたいが、俺以外はハルートとララの様子を、固唾を飲んで見守っている。

 なんだろう。俺だけ状況を理解していない。


「あ、あの!」


「は、はい!」


「駄目だとわかっていても我慢できない……言わずにはいられなかった」


「は、はい!」


 ごくり、と俺以外から喉が鳴る。


「ぐるちゃんを、私の従魔にできないだろうか! あの凛々しい目に、雄々しい姿! 何より、いつまでも触り続けたくなり、一度触ればもう離れられなくなる至高の手触り! 忘れられないのだ! 私は、ぐるちゃんを忘れられない!」


「………………」


 ハルートは黙り、ぐるちゃんは首を傾げた。

 ちなみに、こちらも沈黙であり、誰もが真顔になっている。

 ワクワクした感じが消えた。


「「「「……はあぁ」」」」


 大きなため息付きだ。


「いや、えっと、従魔にしたいと言われても、ぐるちゃんは大切な仲間だから」


「ぐるる」


 ハルートの言葉が嬉しかったのか、ハルートに対して甘える仕草を見せるぐるちゃん。

 そんなぐるちゃんを見て、ララはショックを受けたような表情を浮かべて直ぐに、やはりと納得するような表情に変わった。

 その表情は、こうなるとわかっていた。自分の気持ちにケリを着けるために行動した。という印象を受ける。

 ――と思っていたら、ララの表情が何かを思い付いたかのようなものへと変わり、ララがぽん、と手を打つ。


「そうだ! 共に行けばいいのだ! 同行すればそのままぐるちゃんと一緒! いや、待てよ……ハルートと結婚すれば、もう死ぬまで一緒に居れる! それに、エルフ族と人族とでは寿命が違うから、ハルートが死んだとしても私が居ればぐるちゃんは寂しい思いをしない! それどころか、あとは私がぐるちゃんを独占! 良し! ハルート! 私と結こ」


「何を馬鹿なことを言っている! お姉ちゃん!」


 ララを止めたのは妹のリリ。

 こちらに駆けてくるのが見えたかと思うと、勢いそのままにララに飛び蹴りを食らわせた。

 ララはもろに受けて、転がり、そのまま気絶したかのようにぴくりとも動かない。

 ……気絶、だよな?

 そんなララをリリが掴んで引き摺る。


「失礼しました。姉の暴走は見なかったことにしてくれると嬉しいです。どうにか、前の少しだけ暴走気味な姉に戻しますので、皆さまは気にせずに行ってください」


 こちらにぺこりと頭を下げて、リリはそのままララを引き摺りながら去っていった。

 最初は警戒されていたが、その頃よりは慣れてくれたと思う。

 ただ、ララの暴走気味はなくならないのか。

 それと「……なんか、ロレンさんよりララの方が目立ちそうな」と口にすると、「いやいや! そんなことはないから! 断じてない! 自分の方が目立つから! これから! そう、これからだから!」とロレンさんが慌て出して、「おのれ……ライバルはエルフ(ララ)か」とララとリリが去っていった方向を射殺さんばかりに睨んだ。

 そこまで気にすることだろうか? と思いつつ、ロレンさんを宥め、まあそうだよね、とどこか達観しているハルートを、シークとサーシャさんが宥めたあと、「転移樹」をロレンさんに使ってもらって、「魔の領域」である森へと移動した。


     ―――


 森を一気に駆け抜けてヘルーデンに辿り着く。

 前回のことが利いていて、ロレンさんに関しても何かあれば俺とアイスラが責任を取るということで、エルフということを隠して中に入ることができた。

 今日はこのままヘルーデンに一泊して、明日王都に向けて出発する予定だ。

 宿屋「綺羅星亭」の女将であるローナさんに、「明日から遠出して戻る予定がないので、部屋の取り置きはっもう大丈夫」と伝えると、「寂しくなるけど、何かやることがあるんだね。頑張りな」と激励された。

「頑張るよ」と返しておく。

 ロレンさんについては、男性なので宿屋「綺羅星亭」自慢の安全性の高い女性部屋は使えないのだが、運良くというか俺の部屋の隣が空いていたので、そこにした。

 一泊だけなので、これでも大丈夫だろう。


 そして、ここから手分けする。

 俺とアイスラは辺境伯の城に行って、ウェインさまとルルアさまにお祖父ちゃんたちからの手紙を届けに行くので、ハルートたちには食料の調達をお願いした。

 今更持ち逃げされるとか、中身が漁られるとか、そんな心配はしないので、金と肩掛け鞄(マジックバッグ)を渡して、集めてきてもらう。

 ロレンさんは町中を見たいと興味津々なので、ハルートたちに任せた。

 ……まあ、大丈夫だろう。

 ハルートたちの側にはぐるちゃんが居るし、目立つのはそちらだ。


 そうして、俺とアイスラで辺境伯の城へと向かうのだが……ウェインさまとルルアさまと会うのはいつ以来だろうか。

 確か、エルフを探しに森へ行く、と言ってからだったと思う。

 ……そこからだと、話が長くなるかもしれない。

 いや、お祖父ちゃんたちの手紙を届けるだけだから、早くに出られるかもしれない。

 辺境伯の城に着き、老齢の執事の案内で中に入り、いつもの部屋でウェインさまとルルアさまと会う。

 軽い挨拶から始まり、概要を話して、手紙を………………駄目だった。詳しく話せ、と捕まる。

 まあ、そうなるよな。

 でも、そちらにも仕事が……大丈夫だから話せ? わかった。

 少し時間はかかったが、森の中でエルフを助けてから今に至るまでを話した。

作者「まあ、仕方ないね。ぐるちゃんはハルートの従魔だから。そう気を落とさずに」

ララ「………………はああ」

作者「俺の顔を見てため息を吐くのは違うんじゃないか?」

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