そうだ
お祖父ちゃんたちとの話が終わると、ロレンさんが現れた。
「話は聞かせてもらった! アイスドラゴンとの戦いでは大いに助けられた訳だし、ルルム王国で大きな戦いが起こるというのであれば、協力しようではないか! 助けられたのだから助け返す! 当然だ! もちろん、自分だけではないぞ! これはエルフの国・エルフィニティに住むエルフの総意だから問題なし! 心強く思ってくれて大丈夫だ! だが、問題がない訳ではない! たくさんのエルフが世に関わるということは、地味な自分では目立たないということだ! もうエルフの中心的存在ではない、ということをまざまざと見ることになる訳だ! ……自分、それでも心を強く保てるだろうか……考えただけで心折れそう」
現れたと思ったら、今度は項垂れた。
目から輝きが失われ、ロレンさんは両足を抱えるようにして座り、光のない目で壁をジッと見始める。
大丈夫だろうか? なんというか、こう……闇堕ちした、といった雰囲気だ。
ただ、こちらは何も言っておらず、自分で自分の首を絞めたようなものなので、放っておいてもいい気がする。
お祖父ちゃんたちにどうすればいい、と視線を向ければ、誰も目を合わせてくれなかった。
その仕草から感じるのは、慣れ。
……よくあることなのかもしれない。
本当にどうしようか――と思っていると、ロレンさんが急に立ち上がる。
「でも、大きな戦いに参加するよりも先に世に出れば目立つこと間違いなしだと思わないか! そう! そうなのだ! 先に出て、エルフにロレンあり! と示すことができれば、再び自分がエルフにとっての中心的存在になると思わないか? 自分は思う! だから、自分はジオについていこうではないか! コンフォードとウェルナの子を救出するのに協力しよう!」
ばーん! という感じで、ロレンさんが俺にそう言ってくる。
その姿はこれまで見たロレンさんそのもので……なるほど。立ち直りが非常に早いのか。
お祖父ちゃんたちはそれがわかっているから、どう口にしたものか悩んだ、あるいは口にする前に立ち直るとわかっていたから何も言えなかったため、目を逸らすしかなかった、ということだと思う。
そうだと言って欲しい。
俺に任せようとした訳ではないと信じている。
「えーと、つまり、ロレンさんは俺と一緒に行く、と?」
「そう言っている! ジオのギフトで助けられたのだ! その借りを返すためだと思ってくれていい! よろしくな!」
はい、と返事もしていないのに、もう仲間になっていた。
いや、気が早い。
もちろん、心強いと思う。
思うのだが……正直に言えば、大丈夫? だろうか?
何しろ、一度情報を得るために、聖女が居るルルム王国の王都に戻らないといけない。
新王のお膝元だ。
俺が居ることがバレてはいけない。
だから……目立ちそうなんだよな。ロレンさん。
エルフというのもあるし、見目麗し過ぎるというのも、注目を集める要因になり得る。
それに、先ほども目立ちたい的なことを口にしていたし、共に王都に行くと騒動が起こりそうだ。
………………。
………………。
うん? 待てよ。それも一つの手か?
ロレンさんが注目を集めている内に事を成し遂げる――なんてこともあるかもしれない。
たとえそうなったとしても、ロレンさんには力がある。
どのような状況であったとしても、切り抜けることができそうだ。
「わかった。よろしく。ロレンさん」
「……何その笑顔。なんか怖い。アレだ。イクシーとコンフォードが若気の至りで馬鹿な真似をして、それに怒ったシーリスが、二人に対してさらに馬鹿な真似というか問答無用で無茶をやらせた時のシーリスの笑顔にそっくりだ」
ロレンさんの言葉を受けて、お祖母ちゃんはそっくりという部分に喜び、お祖父ちゃんとコンフォードさまはどれのことだ? とでもいうように首を傾げている。
何度もそういうことがあったようだ。
なんとなくだけど、想像できる。
ただ、ロレンさんに妙な誤解をされているようだし、そもそも無茶をやらせるつもりもない。隠すつもりもないので、普段は控えて欲しいが、もしもの時は寧ろ目立って欲しいということを伝えると――。
「ああ! 喜んで!」
大丈夫そうだ。
頼めば喜々として目立ってくれそうである。
という訳で、ロレンさんが同行することになった。
―――
大きな戦いがいつ始まるのか――明確な日はまだ決まっていない……と思う。
だから、行動するのなら迅速な方がいい。
なので、早速ルルム王国の王都へ向かいたいところではあるが、その前にここでやっておかないといけないことがある。
「ヘルーデンに一度寄るから、ブロンディア辺境伯に何か伝えたことがあるなら、伝えることができる。それと、母上にもそこから手紙が出せるから、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは母上への手紙をお願いしたい」
手紙を書いてくれることになった。
これはきっと母上も喜ぶだろう。
――結局、お祖父ちゃんたち全員が母上宛とブロンディア辺境伯とルルアさま宛を書くようだった。
それなりに時間がかかりそうなので、少し待つ。
ロレンさんは、それなら今の内に挨拶してくるわ! とどこかに行ってしま――う前に、声をかける。
思い出したことがあったのだ。
「……交易?」
「ああ。知り合いの商人に、エルフ側にそういう意思があるのなら協力したい、と言われていて、俺としてもいくらか助けられている商人だから、一応聞いておこうかと思って」
「なるほど。……まあ、聞いてみないことにはなんとも言えないな。まあ、挨拶ついでに聞いてこよう」
そう締めくくって、ロレンさんは飛び出していった。
その内戻ってくるだろう。
俺もその間にハルートたちを呼んで話をする。
隠したところで時間の問題であるし、まずはこれから大きな戦いが起こることを教えて、俺がこれから行おうとすることを教えた。
その上で、できれば協力して欲しいとお願いする。
今回については、主にシークとサーシャさんの方が必要になると思う。
凄腕の元暗殺者なら、どこにでも忍び込めると思うからだ。
前王救出の可能性が大いに高まる。
聞き終えたハルートたちは――。
「……俺はジオさんにはまだ恩があるし、協力してもいいと思うけど、どうする?」
「俺は構わない。ハルートと同じ気持ちだ」
「私も構わないわ。そもそも、ハルートとジオさんの二人が居なければ、私は助かっていないのだから。それに、人を救うために行動する、というのも悪くないしね」
協力してくれることになった。
本当にありがたい。
ただ、問題が一つ。
まだ天使さんが戻って来ていないので、出発が――と思ったが、ハルートが言うには繋がりでどこに行っても自分のところに戻ってくるから大丈夫、と。
問題なかった。
なので、お祖父ちゃんたちの手紙が書き終わって受け取ると、また会えることを楽しみにしているとハグし合ってから、アイスラ、ハルートたち、挨拶し終わって戻ってきたロレンさん――交易に関しては、まずロレンさんが窓口として商人と話してからとなった――と共に出発する。
出発してから気付いたが、「転移樹」はどうしよう……ロレンさんが使えたので大丈夫だった。
作者「………………」
天使さん「ーー終わったと思いましたか? いいえ、まだ終わりではありません」
主神、竜神「「ひいいいっ!」」
作者「……天使さんの合流はもう少しあとだな、これは」