何かあったようだ
本日の二話目です。
町中を巡っている間に、案内役の門番から何がどうなってこうなったのか、色々と聞いた。
そもそものきっかけは、町を覆う壁の老朽化が原因である。
直ぐにどうこうといった訳ではなかったそうだが、それでもし何かあったら――と考えて、建て直すことを選択したそうだ。
一度に、ではなく、一部を崩して立て直し、次へ――という風に。
その最中に襲撃があった、ということだ。
もちろん、警戒を怠るようなことはしていなかった。
町を守るための壁を一部とはいえ崩すのだから、寧ろ戦える人員を一時的に増やしていたのだ。
冒険者だけではなく領主に陳情して領兵の一部まで、数で言えば十分に揃っていた。
けれど、予想外な事態が起こる。
まず、近隣にある森の中でオークが群れで居ることが、冒険者からの討伐報告の総数によって発覚した。
直ぐに調査して――森の中にオークの集落を発見する。
また、オークの最上位とまで言われる、オークキングの姿も確認されたそうだ。
これは下手をすれば町存亡の危機にまで及ぶほどの危険であり、放置するとさらに数が増えて対処できなくなると判断して、そうなる前に手を打つことになった。
幸いにして、戦える者の数は揃っている。
戦える者の中には、冒険者で有名な高ランクパーティも居たそうだ。
つまり、戦力は十分。
早急に討伐隊が編成され、オークの集落へと向かう。
この町に残った戦える者の数は、最低限しか残されていない。
一部の壁は、まだ作業途中だった。
そこを狙って――オークジェネラルが率いるオークの集団が現れたのだ。
崩れていた壁の一部をより大きく破壊してオークの集団が侵入し、残った戦える者たちで対処しようとしたが手が足りず、数体のオークに自由を許してしまった。
門番たちも人数を割いて町中のオーク退治に行くべきか? と話し合っているところに、俺とアイスラが来たのである。
丁度、町中を駆け巡り終わって、嫌な気配がしない――オークたちを倒し切ったところで、ここまでの話を聞き終えた。
話としてはそこまで長いモノではない。
どちらかと言えば直ぐ終わるだろうし、なんならオークと一戦している間に終わるくらいだ。
それが町中を駆け巡る間に終わったのは、オークと一戦が直ぐ終わっているから……それこそ、駆け巡る速度を緩めることなく倒していた。
アイスラが――。
「出会い頭に討伐」
駆ける勢いそのままに殴り倒し――。
「すれ違いざまに殲滅」
駆ける勢いそのままに膝蹴りで突き倒し――。
「はい、どーん!」
駆ける勢いそのままによくわからないかけ声を上げて投げ倒す――と、どれも一発で倒した。
まあ、最初のオークジェネラル以外は普通のオークばかりだったので、アイスラの敵にすらならなかった、ということだ。
ただ、何もなかった訳ではなかった。
「はあ……はあ……はあ……」
息切れを起こして倒れた。
共に行動した門番の一人が。
「えっと、大丈夫か?」
声をかけると、どうにかサムズアップしてきたので大丈夫そうだ。
もちろん、俺とアイスラは平気。
息切れもしていない。
「門番なのに情けない」
アイスラが辛辣な言葉を吐く。
いやいや、俺とアイスラはそうでなくとも、ついて来た門番は全力っぽかったし、何よりこちらは身軽な衣服だけだが、門番は鎧を身に着けているのだから、俺とアイスラよりも体力の消費が大きかったのだろう。
きっとそうだ。
それとも、パワード家だから平気……まあ、いいか。
体力が多くあることに越したことはない。
しかし、倒れるなら倒れるで、時と場合を考えて欲しかった。
何しろ、共に来た門番が倒れたのは、町中のオークを倒し尽くして出発地点まで戻った瞬間なのだ。
「ど、どうした! お前たち! 部下に何をしたあ!」
門番たちの隊長と思われる人がそう叫ぶと、門番たちがこちらを取り囲んできた。
だから、こうなる。
いや、別にこれは関係ない。
大したことではない。
倒れた門番は別に気を失ってはいないのだ。
疲れて、倒れて、休んでいるだけ。
直ぐに説明してくれて誤解だとわかり、そのあとは感謝された。
何かあったのは、このあと。
「……す、すみません!」
少しだけ息を切らして現れたのは、二人の女性。
一人は、長い金髪が輝き、優しそうな雰囲気が伝わってくる顔立ちの、二十代くらいの女性。
もう一人は、赤い髪が似合う、整った顔立ちの、俺と同い年くらいの十代半ばの女性。
どちらもシスター服を着ているので、シスターだと思う。
あと付け加えるなら、二十代シスターの方を見て、アイスラが「胸が……」と口にして驚いたことだ。
多分、胸の大きさのことを言っているのだと思う。
……確かに大きい。大きいと思うが……それだけなので、アイスラが気にする理由がわからない。
あとで聞き……いや、やめておこう。
俺の中の本能的な部分が拒否している。
ちなみに、十代シスターの方は普通だと思う。
「おお。これは孤児院のシスター・リリアではありませんか。何か慌てた様子ですが、何かありましたか?」
二十代シスターくらいの女性の方を見て、目元はキリリとしているが、鼻の下は伸びている門番たちの隊長が尋ねる。
なんというか、こう……だらしない顔? で合っている? とアイスラに確認しようとしたが、アイスラは二十代シスターに向けて敵意のある視線を向けていた。
いや、二十代シスター自身というよりは、その胸に視線が向いている気がする。
……本能的に余計な刺激は与えない方がいいと判断して、口を噤む。
とりあえず、シスターってことは、孤児院というのは教会が運営しているってことか。
「は、はい。実は孤児院の子の一人――レオくんがいつの間にか居なくなっていまして……それで、マーガレットちゃんと一緒に心当たりのある場所も探したのですがどこにも姿がなく、もしかして町の外に出たのではないか、と」
「なるほど。……おい、誰かそれらしい者の姿は見た者は居るか?」
門番たちの隊長が確認を取るが、門番たちは顔を見合わせ――誰もが見ていない、という反応を返す。
オークジェネラルから逃げ惑っていた人たちも同じ反応である。
俺とアイスラにも確認の視線を向けてきた。
多分、町中を駆け巡ったからだろう。
共に駆け巡った門番はまだ倒れているし、俺とアイスラに確認したいのもわかる――が。
「いや、そもそもそのレオ? という者の容姿すら知らないのだが?」
門番たちの隊長に、そう答える。
「あ、ああ! そうだった! 確かに知る訳がないか! 黒髪のツンツンした髪型で、勝気そうな顔立ちをした、十二歳の少年……で合っていますか?」
「は、はい。それで合っています」
二十代シスターが同意した。
門番も知っているってことは、それなりに有名な少年なのかな?
ともかく、町中を駆け巡っていた間のことを思い返してみる。
………………。
………………。
「いや、見ていないな」
思い当たらない。
俺の返答を受けて門番たちの隊長は考える素振りを見せてから口を開く。
「わかりました。状況は落ち着きましたし、町中の確認も必要です。私たちも同行しますので、もう一度町中を探してみましょう。ですが、念のため――お前たちは討伐隊の方を見に行ってくれ。ついでに報告も頼む」
門番たちの隊長が指示を飛ばし、自身は門番たちの一人に声をかけて二人のシスターと共に町中へと向かい、残る門番たちの内の二人は町の外に出るとどこかに向けて駆けていく。
オークの集落がある近隣の森に、だろう。
「……どうされますか? ジオさま」
アイスラが尋ねてくる。
「……一度関わったしね。今更というか、まだその範疇かな。多分、外――近隣の森の方だろうね。門番たちが見ていないのなら、別の場所から出たと思う。今は都合良くとでも言えばいいか、壁の一部は崩れているから、そこからだろう。……俺たちも行こうか」
「かしこまりました」
一応、共に町中を駆け巡った門番に伝えて返答を聞く前に駆け出し、道案内を頼むように、先行する門番二人のあとを追った。
作者「………………えっと、俺も行った方がいい?」
アイスラ「つまり、ジオさまと私のデートの邪魔をすると?」
作者「い、いや、そんなつもりは一切なく………………デート? いや、それはさすがに」
アイスラ「何か?」
作者「いえ、なんでもありません!(直立不動)」