熱が戻った
赤い竜と白い竜の登場で一度静まってしまったので、また盛り上がるというか、再び歓喜の声を上げるのは無理かな? と思ったのだがそんなことはなかった。
エルフの国・エルフィニティに戻ると、待機していた人たちが歓喜の声を上げて出迎えたのだ。
なんというか、喜んでいる人たちが居ると、こちらも喜びたくなる時もある。
歓喜している人たちに後押しされるような形で、こちらも再び歓喜の声を上げた。
「「「おおおおおっ!」」」
熱が戻ったようで良かったと思う。
「「「おおお――ひえええええっ!」」」
待機していた人たちの歓声が途中で悲鳴に変わる。
何事かと思えば、アイスドラゴンの死体を見たからだろう。
アイスドラゴンをあのままにしておく訳にもいかず、死体となってから冷気を発することもなくなったので、持ち運べるようになったため、持ち帰ったのだ。
証明のために――証明されたあとは……どうなるか知らない。
まあ、自由にしていいと言われているし、エルフたちがどうにかするのだろう。
そこに俺は関知するつもりはない。
アイスドラゴンの被害に遭ったのはエルフの国・エルフィニティであるし、俺はそこに少し手を出しただけ。
アイスラもそれで構わないと賛同しているし、ハルートたちも自分たちは特に何かした訳ではないので、と同意する。
いや、ハルートに関しては天使さんが居てくれたからこそだと思うのだが、ハルート曰く「あの感じだと休ませることが一番のお礼になると思う」らしいので、戻ってきたら存分に休ませるから大丈夫だ、と。
まあ、天使さんに関しては俺も関わっているので、何かあれば手伝う、とハルートには伝えておいた。
なので、アイスドラゴンに関しては、エルフたちと、お祖父ちゃんたちとロレンさんに任せることで話がついている。
それから、エルフたちの歓喜を示すように三日三晩宴が続いた。
途中でアイスドラゴンの肉が宴に出されたが、本当に美味しかったというか、これまで食べた肉の中で一番だった。
ドラゴンの肉をまた食べようと思うなら、また倒さないといけないのか………………俺のギフト全開なら安全に………………いやいや、何を考えているのやら。
美味し過ぎるというのも危険だ、と思った。
「……私の剣技なら、いけるかもしれない」
「……ルシフェナさんにお願いすれば」
アイスラとハルートが危険な目をしていた。
ルシフェナさん? ……天使さんのことか。
シークとサーシャさんは正気というか理性を保っていたので、協力してアイスラとハルートを落ち着かせた。
―――
三日三晩の宴の間はお祖父ちゃんたちと話す暇がなかったので、宴が終わってからお祖父ちゃんたちと話す。
もちろん、話す内容は今後について――ルルム王国に戻ってくれるかどうかだ。
「オールが居れば任せても良かったが、今はサーレンド大国に捕まっているそうだからな。戻ってくるとは思うが、久々に家族の顔も見たい。ここでの件も一旦ケリはついた訳だし、ワシは戻るつもりだ」
「自分だけ戻るみたいに言うんじゃないよ。まったく。安心しな、ジオ。私も戻るよ。ジオに会ってリアン、それとカルーナにも会いたくなったしね。息子にもついでに会っておくかね」
「そうだな。手紙から判断するに、このままベリグにルルム王国を任せると、ロクなことにはならなそうだ。下手をすればルルム王国がなくなるかもしれない。そうなる前に、手を打つべきだな」
「ルルム王国のことだけではないわよ、あなた。息子は幽閉されているようだし、私もレレクイアさんや孫のライボルトとロズベイラに会いたいわ。南の国の方まで行っているなんて心配で心配で……」
お祖父ちゃんたちは既に考えていたようで、ルルム王国に戻るつもりのようだ。
良かった、と思う。ここまで来た意味があった。
「だが、このまま戻るつもりはない」
コンフォードさまがハッキリとそう口にした。
どういうことだ? 先ほどまでは戻るような雰囲気だったというのに、戻るつもりはないとは……まさか、ボk……いやいや、コンフォードさまの様子からそれはない。
なら、何かしらの理由があるのだろう、と聞くと――なるほどな、と思う。
要は、母上からの手紙を読んで、お祖父ちゃんたちも察しているのだ。
これから、ルルム王国はウルト帝国側とサーレンド大国側に分かれて、大きな戦いが起こる、と。
そして、新王側がサーレンド大国側に与する――というのは、お祖父ちゃんたちの中でも共通見解であるため、お祖父ちゃんたちはウルト帝国側に与すると既に決めていた。
その際、ウルト帝国には敵となるのはあくまで新王側だけであって、それがルルム王国全体の意思ではないと伝えるために、お祖父ちゃんたちはこれからウルト帝国に向かい、皇帝に会って直に話してくるそうだ。
そのままウルト帝国軍と共に戦場に向かうつもりだ、とも。
「えっと、そんな簡単にウルト帝国の皇帝に会えるものなのか?」
「問題ない。ワシらは全員皇帝のダチだから大丈夫だ!」
お祖父ちゃんがそう言ってきた。
皇帝に対して気軽な感じであるが、もしかして本当に? とお祖母ちゃんに確認の視線を向けると頷きが返ってきたので、本当のようだ。
お祖父ちゃんが、あれ? なんで? という表情を浮かべていた。
「でも、ここからウルト帝国に行くとなると、間に合うかどうか……」
「それは大丈夫だ。忘れたのか? ジオはどうやってここに来た?」
コンフォードさまが問うてくる
どうって、「転移樹」を使ってもらって――そういうことか。
「まさか、ウルト帝国に行ける『転移樹』がある?」
「そういうことだ。他にもサーレンド大国に行くのもあるぞ。まあ、それを軍事利用するつもりもさせるつもりもないが」
……ああ、「転移樹」を使えば、人を大量に送り込んで相手の裏をかくとか、そういうことができるのか。
でも、そういうことには使わない。使う気がない。と。
そもそも「転移樹」を使用できる者も限られているし、俺もそれでいいと思う。
「なら、ウルト帝国の方はお祖父ちゃんたちに任せる」
「うん? 任せる? ジオもどうだ? ウルト帝国も面白いぞ」
お祖父ちゃんの提案に、首を横に振る。
「俺は行かない。どんな国かとか海とか興味はあるけれど、今はルルム王国を落ち着かせるのが先だと思う。だから、お祖父ちゃんたちに任せて、俺は俺でできることをやっておく」
「できること?」
「このままだと大きな戦いが始まった際に人質として使われて致命的なことになりかねないから、そうなる前に前王となってしまった陛下を救出しようと思う」
自分たちが行けば目立ち、さらに状況が悪くなることを懸念しているのだろう。
コンフォードさまとウェルナさまが、頼む、と頭を下げてきた。
作者「ふぅ〜……漸くここを自由に使え」
主神、竜神「「た、助けてくれ〜! て、天使長があ〜!」」
作者「天使長さ〜ん! ここに賊があ〜!」