対アイスドラゴン 2
お祖父ちゃんとコンフォードさまが、アイスドラゴンの体と羽が繋がっている部分を斬ったことで、アイスドラゴンが地に落ちた。
「――グギャアアアアアッ!」
アイスドラゴンの咆哮によって、立ち昇っていた土煙が弾け飛ぶようにして一気に霧散する。
地に落ちたが、元気なようだ。
いや、元気なだけではなく、怒りが表情に表れていた。
「ガアアアアアッ!」
大気を震わすような咆哮を上げて、アイスドラゴンの憎悪が宿る視線が、未だ空中に居るお祖父ちゃんとコンフォードさまに向けられる。
「『よくも! よくも! よくも! 許さんぞ! 許さんぞお~!』と言っていますね。品性の欠片もないようです」
天使さんがハルートにそう言っているのが聞こえた。
内容から察するに怒り状態のようだ。まあ、見てわかるものではあるが、羽を斬り離され、落とされて、怒り心頭なのは間違いないようだ。
……ん? え? 待って。アイスドラゴン翻訳ができるのか?
それも天使長だから、だろうか?
まあ、翻訳できたとしても、相手は年若い竜らしいし、感情的な言葉だけかもしれない。
……いや、待てよ。
竜はエルフ以上の長寿だと思うし、年若いといっても実際のところは俺だけではなく周囲のエルフよりも長く生きているかもしれないのか。
………………ゆっくりと育つのかな。
そんなことを考えている間も、戦いは続いている。
お祖父ちゃんとコンフォードさまを襲うためにアイスドラゴンは飛び上がって前足を振るうが、お祖父ちゃんとコンフォードさまはほぼ自由に空を移動できるので余裕で回避していた。
それだけではない。
お祖父ちゃんとコンフォードさまは回避しつつもしっかりと反撃も行って、少しずつではあるがアイスドラゴンに傷を負わせていっている。
ただ、二人の吐く息は白く、遠目から見る以上に寒いのかもしれない。
お祖母ちゃんたちが居る辺りからこちらの方は、天使さんの「天使の抱擁」によって暖かいままなので、寒さに耐え切れなくなったら来ると思う。
そうして、アイスドラゴンがお祖父ちゃんとコンフォードさまに意識を向けて襲っている姿というのは、他から見れば隙だらけに見えるため、そこにお祖母ちゃんとウェルナさま、ロレンさんが魔法で攻撃を加えていく。
お祖母ちゃんとウェルナさまは火球や火矢、火槍といった火属性の強力な魔法を放ち、ロレンさんは周囲にある木の枝や頑丈な蔦を伸ばして一時的とはいえアイスドラゴンを拘束したりと、牽制と援護に徹している。
お祖父ちゃんたちとロレンさんは、間違いなく一つのパーティだ。
各々がしっかりと自分の役割を果たして、アイスドラゴンに傷を与え続け、休ませることもなく、確実に追い込んでいっている。
天使さんが、お祖父ちゃんたちとロレンさんならアイスドラゴンに勝てると言っていたが、正にその通りの光景だった。
また、そこにエルフたちによる魔法や矢の援護が加えられている。
普通であれば、邪魔になってもおかしくない。
しかし、お祖父ちゃんたちとロレンさんはエルフたちの行動に上手く合わせ、逆も同じくで、非常に上手く噛み合っている。
ただ、相手はドラゴンなのだ。
何か一つ間違えただけで、一気に状況が逆転して悪くなってもおかしくない。
というのも、傷を与えることはできているが、それでもアイスドラゴンには余力があるように見えるからだ。
このままでは終わらない気がする。
そう感じたのが間違いではないと、アイスドラゴンが動き出す。
「グガアッ!」
咆哮一つでアイスドラゴンが飛び上がり、空中に居るお祖父ちゃんとコンフォードさまへ向かう。
直線的な飛び上がりなので、避けるのは簡単だ。
お祖父ちゃんとコンフォードさまもそう思ったようで、反撃をするために避けるのは最小限に留めた――のが悪かった。
「ガアアアッ!」
再びの咆哮と共に、アイスドラゴンの両前足が氷に覆われ、そこから鋭利な氷の棘が数本飛び出してお祖父ちゃんとコンフォードさまに迫る。
「ちっ!」
「くっ!」
二人は反撃を止めて、防御に徹する。
お祖父ちゃんは大剣受け止め、コンフォードさまは二本の剣で受け流す。
しかし、反撃しようとしたところから防御に回ったことで対応が遅れ、すべての氷の棘を防ぐことができずに、何本かの氷の棘が二人の体に突き刺さった。
お祖父ちゃんとコンフォードさまは苦悶の表情を浮かべながら、武器を振るって体に刺さっているのとその周囲の氷の棘を纏めて斬り落とすと、こちらに戻ってくる。
アイスドラゴンはそのまま落ちて着地すると――。
「ガガガッ!」
喜ぶような声を上げたあと、両前足だけではなく、己の体表を氷で覆っていく。
さながら氷の鎧を身に付けたような姿だった。
その姿のまま、アイスドラゴンがこちらに向けて駆け出す。
狙いは――突進だろう。
こちらの数倍もあるドラゴンの質量を防ぐのは――大変だな。
また、余程強い冷気を出しているのか、アイスドラゴンが通ったあとの空間は凍り付いていっている。
「早く戻って来な! ウェルナは二人の傷を回復! ロレンは私と共に足止めだよ!」
「直ぐに回復してみせます」
「わかった。エルフたちは今だけでも援護を厚くしてくれ!」
お祖母ちゃんが指示を出すと、ウェルナさまがお祖父ちゃんとコンフォードさまを迎えて即座に回復魔法をかけて、ロレンさんはエルフたちに指示を出したあと、お祖母ちゃんと協力してアイスドラゴンの足止めに全力を傾ける。
「でかいのを放つから時間稼ぎを頼むよ!」
「シーリスは相変わらず人使いが荒いな! だが、それが最適解! 頼まれようじゃないか! 頼まれるのもまた信頼の証である!」
お祖母ちゃんに大きな魔力が集まっていくのを感じる中、ロレンさんは前に出て、何やら指揮をするように両手を動かす。
何を指揮しているのかは、直ぐにわかった。
周囲のある木々が動いて、こちらに向かって突進してきているアイスドラゴンの前に立ち塞がっていく。
アイスドラゴンは立ち塞がる木々を時に弾き飛ばし、なぎ倒し、押し退けながら突進してくる。
突進を止める気はないようだが、それでも木々に邪魔されて勢いは落ちた。
時間は稼げたのである。
「普通の火だと燃え広がるし、通じないからね! これで、どうだい! 『熱線』」
お祖母ちゃんの周囲に十近くの赤く輝く魔法陣が展開されて、すべての魔法陣の中心から線状の光が一斉照射される。
十近くの線状の光がアイスドラゴンの氷の鎧を貫き、体表を焼け焦がす。
「グウウウッ!」
痛みを感じたような声を上げるアイスドラゴン。
足を止めて、耐える。
ただ、十近くの線状の光はアイスドラゴンの体表を貫くことはできずに、そのまま消えていった。
「貫けはしないか。さすが竜の鱗と言うべきだね」
わかっていたようで、お祖母ちゃんに動揺は一切見られない。
突進を止めただけで十分だと判断しているようだ。
「はははっ! さすがはシーリスだ! 前よりも魔法の腕が上がっている! 自分も負けていられないな!」
大きな魔力が溢れ出したロレンさんが、両手を地面に付ける。
すると、アイスドラゴンの下に巨大な魔法陣が展開して――。
「そこは氷に守られていないだろう! 『巨大な木による打槌』」
その巨大な魔法陣から巨大な木が出現して、アイスドラゴンの腹部を勢い良く打つ。
アイスドラゴンは耐え切れず、巨大な木に押し出されるようにして吹き飛んでいった。
う~ん。これ、俺の出る幕はないかもしれない。
天使さん「ふぅ〜……三度寝しよ」
天使さん専有中のため、作者はここに居ません。