対アイスドラゴン 1
エルフの国・エルフィニティから見える「魔の領域」の山側に少し進んだ先にある、森の中でも見通しのいい開けた場所。
ロレンさんが氷漬けになっていたところである。
そこでアイスドラゴンを迎え撃つ。
最前衛はお祖父ちゃんとコンフォードさまで、次いでお祖母ちゃんとウェルナさま、ロレンさんが居て、そこから少し下がったところに後衛として俺とアイスラ、ハルートたちに、エルフたちが控えている。
……なんというか、壮観と言うべきか。
獣人が居るとはいえ、子供や戦闘能力を有していないエルフを除いたとしても、数百人のエルフがこの場に居る。
エルフの国・エルフィニティの人口は思っていたよりも多いようだ。
ここからお祖父ちゃんたちとロレンさんの表情は見えないが、周囲のエルフたちの表情を見る限り、かなり緊張に包まれている。
ガッチガチだが……大丈夫だろうか?
こういう時、機知に富んでいる者なら言葉一つで緊張を和らげるようなことができるかもしれないが………………駄目だ。特に思い付かない。
なんでもいいから言ってみるか? ……しかし、よくよく考えてみれば、アイスラやハルートたちを除いて、周囲に居るのはエルフである。
言わずもがな、エルフは長寿だ。
見た目以上の年月を生きているのだから、俺以上に機知に富んでいるのは間違いない。
俺が何か口にしたところで、「なんか若造がなんか言っている?」と首を傾げられて終わるような気がする。
なら、ここは一つ、おそらくこの場に居る誰よりも長い年月を過ごしているであろう天使さんに――背中にぞくりとしたものが走った。
なんというか、触れてはならないことに触れてしまった感覚だ。
そうだよな。なんというか、心遣いが足りない振る舞いをするところだった気がする。
相手に失礼だ。
ただ、そうなると周囲のエルフたちの緊張を和らげるためにはどうするべきか……いいか、別に。そのままで。
こういうのは、最初の一撃を放てば自然と落ち着いていく場合もある。
始めるまで、行動を起こすまでが大変なのだ。
だから、まずはどうやって、その最初の行動をさせようか? と考えていると山から黒い点が飛び出したのが見えた。
合わせて、お祖父ちゃんたちとロレンさんが強い圧力を発する。
戦闘態勢に入った、と思う。
周囲のエルフたちもざわめき出す。
「山から飛び出したのはなんだ! 鳥女か!」
「キメラか!」
「いや、あれは――ドラゴンどぅわあああああ!」
なんか、最後にやたらと巻き舌なエルフが居たな。
どいつだ? と少し興味を引かれて確認したいところではあるが、今視線を逸らしていけない。
黒い点から竜の形になり、背中にある大きな羽を羽ばたかせながら、こちらに向けて飛んでくるドラゴンの姿が見えた。
高さも横幅も人の数倍はある蜥蜴のような体躯に、白に近い水色のような体表から冷気でも出ているのか、全体的に白煙が舞っているドラゴン。
それがアイスドラゴンのようだ。
……見た目からして寒そうだ。
アイスドラゴンがある程度近付くと、大きな口を開く。
どうやら、学習能力はあるらしい。
一度痛い目をみたからか、こちらに近付く前に決めてしまおうと考えたようだ。
アイスドラゴンの大きく開いた口に、光が集まっていく。
ブレスの予兆だ。
ただ、こちらは準備万端というか、アイスドラゴンがどのような行動に出るかは、既に話し合っていた。
戦闘開始前にブレスでこちらを全滅させようとしてくる、というのは――。
「残念だったね! その行動は予測の範囲内だよ!」
「来るとわかっているのなら、どうとでもできますよ!」
お祖母ちゃんとウェルナさまが口にした通りである。
二人から大きな魔力を感じたかと思えば、それぞれが持つ杖とロッドを空に向けて振ると、数十の魔法陣が空中に一気に展開した。
そこで、アイスドラゴンの大きく開いた口に集まった光が限界を迎えたようで、こちらに向けて帯状のブレスが照射される。
放たれたブレスは近くにある木々の先端を凍らせながら、真っ直ぐにこちらへと向かってきた。
お祖母ちゃんとウェルナさまが展開した魔法陣が、角度を付けてブレスに次々とぶつかって凍り付いては消滅していく。
その代わり、魔法陣とぶつかる度にブレスの角度は変わっていき、最終的には上空へと向かって消えていった。
「「ふふんっ!」」
お祖母ちゃんとウェルナさまはどこか自慢げである。
エルフたちから大きな歓声が上がった。
アイスドラゴンに戸惑いが見えるが、まだ距離があることで気持ちを持ち直したのだろう。
大きく口を開き、再度光が集まって――またブレスを放つつもりのようだ。
だが、もう遅い。
こちらは既に次に向けて動いている。
お祖父ちゃんとコンフォードさまは、アイスドラゴンがブレスを放つ前から駆け出していて、森の中を駆け抜けていた。
もう距離は詰めている。
「さすがはシーリスとウェルナだ! よくぞブレスを防いだ!」
「アイスドラゴンよ! もう一度放てると思っていたか!」
お祖父ちゃんとコンフォードさまが、天使さんから付与された力を使い、足下に魔法陣を展開しながら空へと駆け上がっていき、アイスドラゴンと一気に肉薄する。
アイスドラゴンは驚き、大きく目を見開くのと同時に、ブレスのために開けていた口を閉じて、お祖父ちゃんとコンフォードさまを叩き落とそうと両前足を振るう。
お祖父ちゃんとコンフォードさまは直線的な動きでアイスドラゴンの両前足をかわしながら進んでいき、アイスドラゴンの背部分へと辿り着く。
そこなら前足後ろ足が届かないので安全だから――という訳ではない。
もちろん、狙いがあるからだ。
「ここまで近付くと寒いな! だが、いつまでも空に居られると思うなよ! やるぞ! コンフォード!」
「確かに寒い! さっさと済ませるぞ! 地に落ちるがいい! いくぞ! イクシー!」
お祖父ちゃんが大剣を構え、コンフォードさまが二本の剣を構え――二人が振るとアイスドラゴンの体と羽が繋がっている部分に閃光が走る。
普通であれば斬るどころか傷一つ付けられないだろうが、お祖父ちゃんとコンフォードさまは見事に繋がっている部分を斬った。
アイスドラゴンの体と羽が斬り離され――アイスドラゴンが前足後ろ足をバタバタさせながら落ちていき、そのまま飛ぶことなく地面と衝突する。
衝突の強さを表すように、激しい地響きと、アイスドラゴンの姿を一時的に見えなくするほどの大きな土煙が立ち昇った。
ハルート「えっと、その……休む場所が欲しいそうで、ここなら丁度いいな、と」
天使さん「………………悪くありませんね。邪魔されずに眠れそうです。少々ここをお借りすますよ」
作者「か、帰れ! ここは自分の聖域」
天使さん「あ゛?」
作者「好きにお使いください」