世界樹の枝から
大きな屋敷へと向かうまでの間――。
お祖父ちゃん。コンフォードさま。ぐるちゃんに手合わせを強要しないように。
お祖母ちゃん。ウェルナさま。よろしくお願いします。叱ってくれた。
大きな屋敷には直ぐ着いたので、早速説明を――と思ったが、ぐるちゃんがハルートを捕まえて放さないので、大きな屋敷には付きものの大きな庭が敷地内にあるので、そこに移動した。
一応、コンフォードさまが先々代の王さまとか、ハルートのギフトについてとか、教えても構わないか先に確認を取ってから――ハルートたちにはお祖父ちゃんたちについて、お祖父ちゃんたちにはハルートたちについて説明する。
説明をしている間に、ぐるちゃんも慣れるだろう。
そうして、説明し終えると、ハルートたちは――。
「つまり、元貴族に元王さま? エルフの偉い人? ……そ、そそそ、粗相なかったよな? な?」
「全員只者ではない。昔、標的であったなら、間違いなくこちらが殺されていたな。それは今も、か」
「そうね。過去のそういう依頼ではなく、こうして安全に会えているのは光栄で凄いことだわ」
ハルートは緊張で倒れそうだが、シークとサーシャさんは驚きつつも動揺は見られなかった。
というか、標的基準は止めようか。
お祖父ちゃんたちは――。
「なるほど! 面白いギフトを持っているな! グリフォンすら手懐けるとは、ギフトだからこそだろう!」
「ジオのもそうだったけれど、あんたのもいいギフトだね」
「元暗殺者か! 確かに佇まいがそれっぽいな! しかし、懐かしい! 王だった時は結構潰したな!」
「そうね。懐かしいわ。でも、その時の暗殺者より、目の前の二人の方が腕は上に見えるわね」
「はははっ! 面白いパーティだな! まあ、それを言うなら、そこのテイマーが言ったように、自分たちも貴族に王族、エルフと面白いパーティだ!」
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんはギフトに、コンフォードさまとウェルナさまは暗殺者に、ロレンさんはパーティという部分に反応していた。
まあ、双方どちらも印象は悪くないと思う。
大丈夫そうだと判断して、俺は一つの提案を口にする。
「それで、何かしらの空で動ける手段についてはハルートのギフトに頼ろうと思うのだけど、そこらの木の枝ではなく、世界樹の枝でやってみるというのはどうだろうか?」
なんかこう、普通のより世界樹の方がいいのが来そう……な気がしないでもない。
ただ、それには世界樹に登らないといけなくなるのだが、この提案は驚くほど――まあ、躊躇いはあったけれど驚きはしなかったかもしれない――あっさりと許可が下りた。
本当にいいのだろうか? と提案した俺も思うくらいあっさりだったので、改めて許可を出したララに尋ねる。
にへら、とだらしない顔のままなので不安なのだ。
「大丈夫。問題ない。エルフは幼い頃から世界樹によく登っていたから。世界樹は神聖なものであるけれど、同時に幼い頃から共に過ごし、見守ってくれている友でもあるのだ」
そう答えてくれるが、やはり不安なのでロレンさんに確認の視線を向ける。
「ああ、本当に大丈夫だ。自分も幼い頃に天辺を目指して何度も登っているから。まあ、未だに天辺には辿り着けていなんだけど。なんかこう、上に行けばいくほど空気が薄くなって苦しくなるというか、下手をすれば意識を失い兼ねないと思って……あれ? 今の自分ならもしかしていける? 挑戦するべき? しかし、外の世界も気になるし……う~む……」
ロレンさんが何やら考え始めたが、好きにすればいいと思う。
ともかく、ロレンさんも問題視していないようなので、許可は下りたと考えていいだろう。
あとはハルートの方だが――。
「いや、あの、世界樹の枝って……もの凄く高い位置にあるんだけど……あそこまで登れと?」
「あー……わざわざ登る必要はないか。ぐるちゃんに運んでもらえばいい」
「ああ、なるほど。いや、そうではなく、落ちたら? あの高さから落ちると普通に死ぬのでは?」
「そこはぐるちゃんが地面に落ちるまでに捕まえると思うが?」
「ぐるるっ!」
任せて! とぐるちゃんが鳴く。
「ぐるちゃんは凄いねえ~♪」
ララがぐるちゃんを撫で回す。
褒めてはいるのだが、それを口実にして撫で回している、と思うのは俺だけだろうか?
というか、ララはもう手遅れ感がある、と思うのは何故だろう?
「……わかった! わかったよ! 協力すると言ったし、世界樹の枝に座るよ! ただ、何が来るかわからないし、一緒に来て支えて欲しい」
「もちろんだ。そうして欲しいと言ったのは俺だからな。付き合うのは当たり前だ」
話が纏まったので、早速世界樹の下へ向かう。
全員揃って向かうのだが、世界樹に近付けば近付くほど、その大きさを実感していく。
世界樹の葉の部分は直ぐに見えなくなって、幹の幅も視界内に収まり切らなくなった。
近付いていくと、世界樹の周りに柵などは一切なく、誰でも近付けるようになっている。
といっても、世界樹の周りを歩いている数人のエルフが居るので、見張りは置いているようだ。
その見張りのエルフ数名がこちらに気付き、駆け寄ってくる。
「えっと……どうかされましたか?」
エルフ数名は一度ぐるちゃんを見るが、大人しくしているし、お祖父ちゃんたちとロレンが居るので大丈夫だと判断したあとにもう一度ぐるちゃんを見て、にへら顔のララに少し呆れた視線を向けた。
……なんか、すみません。こうなるとは思っていなくて。
ララに説明を頼――もうとしたが、ぐるちゃんから離れようとしないので、ロレンさんにお願いした。
ロレンさんが関係ない話も含みつつも説明して、「ああ、登るんですね。お気を付けて」と通される。
本当に大丈夫だった。
ただ、実際は登るのではなく飛んでいくので、近付き過ぎないようにして、どこかいい枝がないかと探す。
……常に見上げているような状態で、く、首が。
痛む前にいい枝を見つけた。
外れるように少し飛び出した枝があったので、そこからなら何が来るか見やすいと思い、ハルートにも確認を取って、その枝に決める。
ララを力で引き剥がし、ぐるちゃんに俺とハルートを指定した世界樹の枝まで運んでもらう。
世界樹の枝の上に立つと、下から見た時に想定していたよりも太い枝だった。
具体的に言えば、普通に寝て、寝返りもできるくらいだ。
しないけれど。
「お、おお……これなら……」
ハルートも想定以上の太い枝に安心したようで、ホッと安堵していた。
それでも、もしもはあるのだ。
落ちても大丈夫なように、ぐるちゃんが少し下で待機する。
「さて、始めるか」
「そ、そうだな……ふう……良し!」
ハルートが大きく息を吐いてから、気合を込めて、世界樹の枝の上に座った。
俺はその後ろに座り、ハルートを支える。
そして、ハルートが腕を上げた。
さあ、何が来るか――。
「………………」
「………………」
あれ? 来ない?
ハルートと一緒に首を傾げる。
どういうことだ? ――わからない。という無言のやり取りをハルートとしていると、不意に空が曇り出した。
日差しが遮られ、普通ではない雰囲気に身構えていると――雲の一部が裂けて、そこから一筋の光が降り注ぐ。
その一筋の光の中を通って、ハルートの前まで下りてくる存在が居た。
白銀に輝く長い髪に、芸術品のような美しく整った顔立ちで、均整の取れた体付きの上に純白の衣を着ていて、背中には左右三対――計六枚の翼が広がっている、見た目二十代くらいの女性。
うん。俗に言う、天使である。
作者「ジ、ジオく〜ん!」
ジオ「ん? どうした? そんな、暫く会っていなかったかのようなリアクションをして」
作者「気付いてなかったの!」
ジオ「冗談だ。『転移樹』の時にはぐれてから心配していた。また会えて嬉しいよ」
作者「ジ、ジオくん……」
アイスラ「………………?」
作者「そうでしたか? って顔をするな!」