にへら
早朝。宿屋「綺羅星亭」の前で、俺、アイスラ、ララの他に、ハルートたち――グリフォンも含む――が集まる。
昨日早めに寝たおかげで、誰も遅刻することなく起きれたようだ。
ただ、直ぐに出発とはいかなかった。
「………………グ、グリフォン」
「ぐるる?」
ララが固まった。
その前でぐるちゃんが、この人どうしたの? と首を傾げている。
そうだよな。普通はグリフォンが居たら驚くよな。
ここでの状況に慣れて、ララに説明するのを忘れていた。
アイスラも失念していた、と額に手を当てている。
ララに、グリフォンだけどぐるちゃんは安全だから、と説明して正気を取り戻させるのに、少し時間がかかった。
ちなみに、ララが完全に立ち直ったのは、普段からハルートの肩に止まっている青い小鳥のおかげである。
小さくて可愛いものが好きなのかもしれない。
少し手間取ったが――。
「では、いくぞ」
移動開始。
ヘルーデンの門は既に開いている。
「「「いってらっしゃいません!」」」
早朝でも門番たちの態度は変わらない。
昨日の出来事の通達がされているのか、ララが止められることもない。
ただ、俺とアイスラは慣れているし、ララは他を知らないが故のこんなものだという認識で特に反応はしなかったのだが、ハルートたちは少し驚いていた。
ぐるちゃんも英雄みたいなものだし、普段から門番たちはこうではないのか?
「普段はぐるちゃんを撫でたりとか、何か食べ物をくれたりとかで……」
フレンドリーなようだ。
畏まったものではないらしい。
そうなると、ぐるちゃんよりアイスラの方が怖い、ということになりかねないのだが……。
「こんなに愛らしいメイドだというのに、失礼な者たちですね。今度機会がありましたらしっかりと教育を施しておくことにします」
アイスラがそう言うということは、そうするということだ。
余計に畏まれることになる気がしないでもないが……まあ、いいか。
今は先を急ぐ。
ヘルーデンを出て、草原を駆け抜けて「魔の領域」である森の中へと入る。
速度は緩めずに進み、「転移樹」を目指す。
道順は……まあ、大丈夫だろう。
もし間違って居れば、ララが教えてくれるはず……というか、ララに案内を頼めばいいのではないだろうか?
そうした。
「転移樹」に向かう間に、これから向かう場所とそこで行われる移動手段についてと、移動した先にあるのがエルフの国・エルフィニティであること、それら一連のことは秘密にして欲しいと告げ、何故ハルートたちに協力を頼んだかと説明していく。
ハルートたちが一番大きく出した感情は、驚きだった。
開いた口が塞がらないとは正にこのことか、と言いたくなる。
アイスドラゴンに関しては、直接戦うのではなく参加するにしても援護に徹して欲しいことと、いざという時は俺がギフトで倒すことを教えると、ホッと安堵していた。
説明し終わると、わかったと頷きが返ってくる。
そこで俺はあることに気付く。
説明中……というか、森に入ってからもうすぐ「転移樹」に着くという今まで、昨日と違って魔物に襲われることが一度もなかった、と。
その理由は一つ。
たった一日……いや、時間的に半日ほどで俺に威厳が溢れ出た! ――訳ではなく、ぐるちゃんだろう。
ぐるちゃんはそもそも深層クラスの魔物なのだから、浅層、中層クラスの魔物は本能で避けているということだ。
俺もいつかそれくらいの威厳ある男性になりたいものだ。
そうなると目指すはお祖父ちゃんということになるが………………そんなことを考えている間に「転移樹」に辿り着いた。
事前に教えていたのでハルートたちも驚くことはなく、「魔の領域」からエルフの国・エルフィニティへと飛ぶ。
―――
「うわ~……でっか~……」
世界樹を見たハルートの第一声がそれだった。
ぴゅいちゃん、ぐるちゃん、シークとサーシャさんは、世界樹を見上げて口を開いている。
そうだよな。あまりに大きく、圧巻で圧倒されるよな。
ハルートたちが動けるようになるまで、少し時間がかかった。
エルフの国・エルフィニティに入ると、周囲から視線が注がれる。
人族が増えた、からではない。
そんなのは些事だ、と言わんばかりに、ぐるちゃんに注がれている。
普通なら悲鳴案件だろう。
冗談でもなんでもなく、どうした? 何があった? と周囲から人が集まるレベルの悲鳴が上がるのは間違いない。
なら、何故今は視線を向けても悲鳴が上がらないかというと、ぐるちゃんの背にララが乗っているからだろう。
ぐるちゃんは安全だと、ララが背に乗ることで示しているのだ。
そうするのが手っ取り早いとララから提案された。
もちろん、それだけでは足りないかもしれないが、ララの表情は……気を遣わずに言うのであれば、だらしない。
にへら、と笑っている。
最初は自ら提案したにも関わらず、背に乗るのも渋っていたのだが、ぐるちゃんの手触りを堪能して、背に顔を埋めて息を吸う――ぐるちゃんは少し嫌そうな顔をした――と、あのだらしない表情を浮かべたのだ。
エルフたちはララの表情を見て、大丈夫だと判断しているようだった。
だから、悲鳴が上がらない――のだが、別の可能性もあるな。
推定だが、グリフォンよりも強い存在が複数人居るから、というのもある。
その複数人――お祖父ちゃんたちが存在感を出しながら、こちらに来ているを感じ取った。
それはぐるちゃんもで、ララは落とさないようにしつつも、急いでハルートの背に隠れるように下がる。
いや、体躯的にそれは無理だ。
「ぐるちゃん?」
どうかした? とハルートが尋ねると、お祖父ちゃんたちが現れる。
「おお! ジオの側に人ではない大きな存在を感じ取ったが、グリフォンとはな!」
「ララを乗せて大人しいとなると、テイムされている? グリフォンが?」
「この大人しさはテイムで間違いないだろう! いや、グリフォンがテイムされるとは、ここの外は思っているよりも時代が進んでいるのかもしれないな!」
「大人しいと可愛いわね。撫でていいかしら? どなたがテイマーなの?」
「はははっ! 自分が氷漬けになっている間に、面白い世の中になったな! そんな世の中を見たくなった! 今回の件が片付けば、世に出よう! なあに、そこはこのロレンよ! エルフだからと手を出そうものなら、ちょちょいのちょいと……いや、グリフォンがテイムされる世は逆に危険なのでは? いやいや、そこは自分に自信を持て、自分」
ロレンさんも居て、なんか自分で自分を励ましだしたのだが、大丈夫だろうか?
きっと大丈夫だろう。
ともかく、双方に説明したいところだが、ここは往来がある場所なので一旦大きな屋敷へと向かうことにした。
エルフ男性「目的の人物が戻ってきたみたいだぞ!」
作者「なあにい! おおお〜! ジオく〜ん!」
エルフ男性「いや、そっちじゃなくて逆だ〜!」
作者「なあにーーあれ? へぶっ!(急には止まれず、転ぶ)」
エルフ男性「大丈夫か? とりあえず、傷の手当てをするから落ち着け」
作者「……ふぁい。お世話になります」