脅威は去りました
本日の一話目です。
目的地に向けて順調に進んでいく。
今のところ、特に問題は起こっていない。
道中でアイスラから「ロールプレイ」について説明を受けて……そういうモノもあると理解した。普段とは違う自分になる遊び、か。楽しそうだ。
ただ、アイスラの説明については、どこか違和感があった。
なんというか、こう……表面的な部分だけを説明して誤魔化されたというか……まだ何かありそうな気がする。
そのことを聞いても、アイスラはニッコリと笑みを浮かべるだけで何も言わない。
……まあ、いいか。今はわからなくても、いつかその内わかるようになるかもしれない。大人になるって、きっとそういうこと……あれ? 俺、成人した……よな?
成人した日に家を飛び出したから、少し自覚が……おのれ、謀反の王め。あと一日どうして我慢できなかった。
折角の日を台無しにしてくれた礼はしっかりと返してやる。
……思い出すと怒りが湧き出てくるので一旦落ち着こう。
そうこうしている内に、目的地としている場所まであともう少しというところまで来た。
宿泊できそうな町が見えてきたので、今日はそこで一泊しようと思ったのだが――異変を察する。
町中から黒い煙が立ち上っていた。
ついでに、遠目で確かなことは言えないが、町を覆う壁の一部が砕けているように見える。
「……アイスラ」
「はい。どうやら、あの町で何か起こっているようですね。どうされますか? 関わりますか?」
「状況によるかな。ここは目的地から近いから、そこから流れて来るのも居るかもしれない。まずは確認からだ」
「かしこまりました」
アイスラと共に町へと急ぐ。
町近くまで来ると、門が開いていることに気付く。
侵入を防ぐのなら閉じられているだろう。それが開いているということは、既に何かしらの侵入を許しているということだと思う。おそらくは砕けている壁の方から。となれば、門が開いている理由としてはもう一つ――いざという時に町を捨てて逃げられるように、だろう。
逃走経路を確保しておくためか、門番らしき兵士が数名居た。
「何者だ! そこでとまれ!」
門番の一人がこちらに気付き、武器――槍を身構えて、それ以上近付くなと指示してくる。
警戒色が強い。
盗賊の類ではないか? と思っているのかもしれない。
下手に警戒されても面倒だし、別に敵対するつもりもないので大人しく指示通り足をとめる。
「黒い煙が見え、何事かと様子見に来ただけだ! 何があった!」
門番に聞こえるように少しだけ声を張り上げて尋ねる。
門番たちは少しだけ話し合い――。
「魔物だ! だが、問題ない! 対処中だ!」
簡潔に伝えてきた。
警戒はしているが切羽詰まった様子は見えない。
事態は収束に向かって――。
「「「きゃあああああ!」」」
「「「うわあああああ!」」」
まだ収束には早いようだ。
町中から悲鳴が聞こえてきて――。
「グギャオウ! グガガ!」
獣のような雄叫びではあるが、どこか愉快そうな感じを受けるモノが響いてきた。
こちらを警戒していた門番たちが一斉に町中へと視線を向けると、門から続く大通りに次々と人が飛び出すように現れる。
その様子は、何かに追い立てられているかのようだ。
いや、追い立てられている。
それは、こちらに向けて逃げてくる人たちの背後から現れた。
――オークジェネラル。
人の倍はある巨大で肥満な体型の上に分厚い鎧を身に着けた、豚頭の魔物。
その手には、巨体に合わせた大剣を持っている。
家にあった魔物図鑑で知ってはいたが、実際に見るのは初めてだ。
……いや、特に何も思うことはないな。
そんなオークジェネラルが乱雑に大剣を振り回し、周囲の建物を破壊しながら追って来ていた。
その表情はどことなく笑っているように歪んでいる。
嬲り殺そうとしている。この状況を楽しんでいる。そうとしか見えなかった。
何しろ、魔物図鑑が正しいのなら、余程の強さでもない限り単独で相手するのは難しいので、まず普通の人ではどうしようもない魔物である。
絶対的な優位を感じて、喜んでいるのだろう。
このままだと門番たちが相手をすることになりそうだが――難しいかもしれない。
「アイスラ」
「はい」
「人命優先だ。アレを倒そう」
「かしこまりました。では、私が殺ってまいります」
「わかった。任せる」
「お任せください」
アイスラが飛び出す。
門番たちが居る場所を越え、逃げ惑う人たちをすり抜けながら越えていき、そのままオークジェネラルに迫った。
誰かが何かを口にする前に、アイスラはオークジェネラルへと襲いかかる。
オークジェネラルは、アイスラを侮っていた。
逃げ惑う人たちと同じようにまずは嬲ろうと思ったのだろう。
だから、オークジェネラルは大雑把に大剣を振る。
だが、それは悪手。最初から全力で大剣を振るべきだった。
まあ、全力でもアイスラに通じないと思うけど。
アイスラは速度を緩めずにオークジェネラルの懐へと一気に入り込み、オークジェネラルが大剣を振り切る前に大剣を握る大きな手を蹴る。
オークジェネラルの大きな手から骨が砕ける鈍い音が響き、その大きな手は蹴られた衝撃に負けて腕ごと頭部より高く上がった。
また、骨が砕けたことで握力がなくなったのか、大剣を握り続けることができずに上空へと放り投げて――瞬間、アイスラが大剣を掴み、振り下ろす。
オークジェネラルの頭部から股下まで一気に線が走り、鎧ごと綺麗に両断。
大剣が地面を裂くように刺さると、二つに分かれたオークジェネラルはそれぞれ左右に倒れた。
「上手に討伐できました~!」
アイスラが満面の笑みを浮かべて、俺に向かって手を振ってくる。
さすがアイスラだ、と頷く。
というのも、アイスラが振るったオークジェネラルが持っていた大剣は遠目から見ても刃が潰れていて、切れ味は一切期待できない代物だとわかるようなモノだ。
それで、アイスラは綺麗に両断したのである。
アイスラの技量があればこそできることで、俺に同じことができるかわからない。
本当に頼りになる。
ふと、視線を感じた。
門番たちだけではなく逃げ惑っていた人たちの誰もが俺を見て――いや、隣を見ている。
何か居る?
……うん。アイスラが居た。
サッと戻ってきていたようだ。
アイスラに向けられた視線からは、一体何者? という疑問が伝わってくる。
それについては冒険者ギルドカードで答えるので十分だが、その前にやるべきことをやっておかないといけない。
視線を集めるように前に出た。
とりあえず、門番たちに聞こえるくらいでいいか、と少しだけ声を張り上げる。
「ここには宿泊するために寄っただけだが、安心して宿泊する前にやることがあるように見える。魔物はまだ居るか?」
―――
門番の一人が案内役――正確には魔物の気配はなんとなくわかるが、勝手に動いて敵認定されても困るのでついてきてもらい、俺とアイスラは町中を駆け巡り、散発的に居た魔物を倒していき――ほどなくしてこの町から魔物の脅威が消え去った。
ジオ「………………」
作者「どうした? ジオくん」
ジオ「いや、なんかアイスラから聞いたロールプレイについて、他にも何かありそうな気がして」
作者「ああ、それはね」
アイスラ「さて、上手に狩りますか」