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悪い例がそこに居た

 お祖父ちゃんたちとララたちが固唾を飲んで見守る中――無事に氷漬けだった人の氷をすべて溶かすことができた。


「はっはっはっはっはっ! いやあ、まいった! 自力でどうにかしようにもどうにもできなくて、もしかして自分はこのまま氷像として生きていくしかないのかもしれないと覚悟をしていたところだった! まあ、氷像でも悪くないと思わないか? だって、俺だぜ? エルフだぜ? エルフらしく美形だぜ? 美術館とかに飾られれば目玉間違いなしだろ! それに、溶けない氷ともなれば、夏場は近くにあるだけで涼めるんだ! 見た目もいいし、俺を中心にして人が集まるな、これは! まっ、もう溶けてしまったんだけど! はっはっはっはっはっ!」


 氷が溶け切ったあと、自由になって、体をん~と伸ばしたあとの開口一番がこれだった。

 妙に上機嫌である。

 長く氷漬けにされていたようだし、その解放感からの一時的な状態だろう。

 というか、生命力を感じていたと言っていたが、本当に生きていた。

 長く氷漬けにされていたというのに……凄いな。エルフはみんなこうなのだろうか? いや、この人だけが例外な気がする。


「馬鹿者が……何を言うかと思えば……だがまあ、お前が相変わらずで安心した」


 コンフォードさまが目に涙を溜めながら、そんなことを口にした。

 ……ん? もしかして、上機嫌でもなく、一時的な状態でもなく、これが素ということなのか?

 なんとなく、生きていたことよりも、そちらの方により大きな驚きを抱く。


 そのあとは、氷漬けだった人との話になると思ったのだが、違った。

 俺が思っていた以上に、この人はエルフたちにとって中心で大切な存在だったようだ。

 お祖父ちゃんたちもそうだが、ララも同様かそれ以上に喜び、エルフの国・エルフィニティに報せに戻って、そのまま大きな宴の開催となった。


     ―――


 俺としては氷を溶かしただけであるし、エルフの中心的存在はまったく知らない人なので、隅の方で大人しくしていようと思ったのだが、お祖父ちゃんたちに連れられて、流されるままにどこかに入ったかと思うと、王城のダンスホールよりも広いのでは? と思うような室内を目の当たりにして少し驚く。

 まだ序の口だった。

 その大きな部屋の奥に、明らかに立場が上の人たちが座るような場所が用意されていたのだが、そこに席に用意されていて、お祖父ちゃんたちと並んで座らされる。


 隣にはアイスラ。

 メイドなのにここに座っていいのでしょうか? と珍しく困惑しているアイスラが居た。

 エルフ側が用意した訳だし、いいのでは?

 ただ、この並びにはお祖父ちゃんたちだけではなく、エルフの中心的人物と他にも身形のいいエルフたちが居て……正直に言えば場違い感が強い。

 本当にここに居ていいのだろうか?

 アイスラと視線を合わせて、互いに「う~ん……」と唸った。


 しかし、目の前には大きなテーブルが置かれていて、その上には豪華で様々な食事が山盛りで用意されていて、非常に食欲をそそられる。

 ごくり、と喉が鳴った。

 食べていいんのだろうか? ……お祖父ちゃんたちは好きなように食べているのでいいようだ。

 美味しい食事を頂く。


 そうして食事をしている間、多くのエルフから感謝の言葉をもらう。

 何人かには背中をバシバシと叩かれることもあって、それなりに痛い思いもしたが、それだけの力を込めるくらい喜び、感謝している、というのは伝わってきた。

 素直な感謝の気持ちが伝わってきたので俺も嬉しく思う。


 ほどなくして、あとは大人の時間というか、酒を飲み続けて悪酔いしたエルフが現われ始めたので、大人しく退散することにした。

 いや、俺ももう大人と認められる年齢なので酒も飲めるのだが………………やめておく。


「ぬはははははっ! そういえば、コンフォード! お前、将来はエルフを嫁にするんだ、とか言っていなかったか?」


「はははははっ! 何を言うかと思えば、それはお前の方もだろ? エルフのハーレムを作るんだ! と言っていたじゃないか!」


「ぬはははははっ! お前だって奴隷に流れないか危惧して、秘密裏に圧力をかけていただろ!」


「はははははっ! お前だってエルフを狙うヤツが居たら全力で潰していただろ!」


「ぬはははははっ! いやいや、お前も――」


「はははははっ! 待て待て! お前が――」


 悪い例がそこに居るからである。

 それも二人。

 確実に酔っている。

 また、酔ったことで口を滑らしているような気もする。

 何故なら、お祖母ちゃんとウェルナさまが怖い笑顔で二人を見ているからだ。

 アイスラにどうしようと視線を向ければ、手遅れですと首を横に振る。

 ……血筋が影響するかもしれないので、お酒は飲まないことにした。

 頃合いを見て、アイスラ、お祖母ちゃん、ウェルナさまと共に大きな屋敷に戻り、適当な部屋をアイスラがあっという間に掃除して――俺も手伝った。少しは――そこで寝た。

 お祖父ちゃんとコンフォードさまは宴に置いてきたが……まあ、大丈夫だろう。多分。


     ―――


 翌日。アイスラが起こしに来る前に目覚める。

 昨日が宴だったということもあってか、少し遅い目覚めだったと思う。

 ただ、アイスラが少し残念そうだった。

 寝顔が……と言っていたが、俺の寝顔を見たところで、と思う。


「シーリスさまとウェルナさまは既に起きておられますが、どうされますか?」


「お祖父ちゃんとコンフォードさまは?」


「少し前に戻られました」


「そう。なら、少し待とうか」


「そうですね。そうしましょう。そうするのが良いかと」


 父上と母上にも似たようなことがあった。

 多分、今頃謝っている最中だろうから、それを見ないであげることが、せめてもの情けだろう。

 窓から外を見る。


「……いい天気だな」


「雲一つない晴天ですね」


 少しの間、アイスラと共に穏やかな時間を過ごした。


     ―――


 少しして大きな屋敷内を移動する。

 気配がする方に向かうと、リビングのような場所にお祖父ちゃんたちが居た。

 お祖母ちゃんとウェルナさまの様子はこれまでと変わらず、お祖父ちゃんとコンフォードさまは五体満足である。

 許された、と思うのはきっと早計だろう。

 おそらく、何かしらがあって、今後にも何かしらがあるのだろう。

 ただ、夫婦間のことなので、そこについては言及しない。

 朝の挨拶を交わすのだが、お祖父ちゃんとコンフォードさまは少し元気がなかった。頑張れ。

 挨拶のあとに、これからエルフの中心的存在がここに来ると教えられたので、待つことにした。

 一体何用かと思ったが、俺に礼を伝えるため、とコンフォードさまから教えられる。


 というか、今まで氷漬けだったし、少し体を休めた方がいいのでは? と思って尋ねたのだが――。


「まあ、ロレンだからな! 大丈夫だ!」


「体が弱っているだろうけれど、今は魔力を体に巡られて強化しているから大丈夫だよ。ロレンはそういうのが得意でね。そういうことを平然とやるんだよ」


「ロレンの魔力による強化は凄まじいからな」


「漸く体が動かせるようになったからね。少しは動くことも大事だよ。それに、無理しているようなら、私たちで止めるから安心して」


 とりあえず、お祖母ちゃんとウェルナさまの言葉を信じて、大丈夫だと判断しよう。

 空いている椅子に座り、雑談をしていると、待ち人が来た。


「いやあ! お待たせお待たせ! 氷漬けにされている間に自分の人気が落ちて、新しい人気者が現れていると思っていたが、中々どうして自分はまだ人気者だったようだ! 参ってしまうな、これは。あれ? 自分、そんな人気者のままでいられること、やっちゃいましたか? はははははっ!」


 ……う~む。なんというか、こう、見た目と違うというか、明るい――明る過ぎる人だな、と思った。

作者「(大きな岩の上で座禅中)………………いや、仙人ごっこをしている場合ではなかった。早くエルフの国を見つけないと」

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