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ロールプレイ

今日の二話目です。

 キンドさん――というか、ジネス商会が味方となった。

 けれど、俺は独自に動くというか謀反の王側には行方不明としておきたいので、キャットレディ同様、ジネス商会が得た情報については母上に報告して欲しいとお願いしておく。

 キンドさんも了承した。

 ただ、もし何かあれば、ジネス商会は各地にあるので、そこから話を通してくれればいいとも告げられる。

 この先のどこでどうなるかわからないので、いざという時に頼れるところがあるのは、素直にありがたい。


 だから、早速お願いしてみるが……駄目だった。

 求めたのは、馬。馬車ではない。

 特に時間の制限はないので徒歩でもいいのだが、やはり目的地に早く着けるなら、そちらの方がいいと思ったが、残念。

 まあ、そもそも早々用意できるモノではないので仕方ない。


 町と町を繋ぐ乗合馬車があるので、それを利用するのも一つの手ではあるが、基本的に町中だけの乗合馬車とは違って、町から他の町へとなると数日置きになる。

 一昨日行ったばかりだった。

 こういう時もある。

 徒歩なら人目を避けて移動することもできるので、それならそれで、だ。


 ただ、さすがに変装とはしておくべきだろうか?


「………………」


「(ぱあああああ)」


 別に言葉にはしていないが、満面の笑みを浮かべるアイスラが両手をわきわきしながら誘っているような……変装はやめておこう。

 本能的な判断。

 なので、そのまま徒歩で移動することにした。


 キンドさんとはここで別れ、準備も終えているので、俺はアイスラと共に目的地に向けて出発する。

 町を出て、北へ――北へ――あっ、もう少し東へ――。

 まあ、向かう先は街道で繋がっている場所なので、ここから迷うといった心配はない。


 でも、問題がない訳ではなかった。

 そもそも、街道を進むことには危険が伴う。

 まあ、元々危険はどこにでもあるが、街道――つまり町の外には大きな危険が存在している。


 それは、魔物。

 魔物は多種多様で個体差もあるが、概ね危険な生物なのは間違いない。

 なので、街道を進む際はどのような手段であれ、護衛を付けるのが一般的だ。

 まあ、自衛できるのであれば別だが。

 俺にはアイスラが共に居るので問題ない。


 ただ、冒険者などによって討伐されているのだが、魔物はいつの間にか現れ、放っておくと増えていくので、魔物の危険が消え去るといったことはないだろう。

 ダンジョンから出て来ているとか、魔力溜まりで生み出されているとか、様々な説が唱えられているが……そういうのは専門家が考えることだろうし、少なくとも俺は考えない。

 魔物が居るから居るのだ。それで十分。


 それに魔物が現れた訳ではない。

 魔物とは別の危険が現れた――かもしれないのだ。


 それは、盗賊。

 その行為は間違いなく犯罪行為であり、人が相手ということもあって、時に魔物よりも厄介で危険である。


 だから、街道から少し外れた場所にある林の手前にある茂みから人の気配が感じられ、さらにそこから動く様子がなかったため、警戒した。

 アイスラも察しており、まずは周囲を確認。

 俺とアイスラ以外の人は……見当たらない。

 つまり、俺とアイスラを狙って伏せている可能性が高い。

 それなら、街道の安全にも繋がるので、返り討ちを選択する。


 感じる気配は……二人。

 こちらに意識は向けていない……気がする。

 狙って伏せていると思ったが、先にこちらが気付いた――ということだろうか。

 なら、先手を取るのも一つの手だと、俺とアイスラは気配を消して茂みに近付き……こっそりと様子を窺う。


 二十代くらいの赤髪の男性と、金髪の女性が居た。

 どちらも武装していて、冒険者のようだ。

 俺とアイスラに気付いた様子はない。

 というのも、赤髪の男性と金髪の女性は見つめ合っている。

 それだけではない。

 赤髪の男性が金髪の女性を抱き抱えている――確か「お姫様抱っこ」と言われる抱き方をしている。

 二人だけの空間がそこにできていた。


「ああ、姫よ! 愛しき姫よ! 漸く、邪悪な竜を倒し、攫われたあなたを救うことができました! 私の愛を受け取っていただけますか?」


「もちろんです! 私はあの邪悪な竜に攫われてから、ずっとこの日を待っていました!」


 そんな会話が聞こえてきたかと思うと、二人の顔がゆっくりと近付いていく。

 俺は少なからず動揺したのか、無意識で体が少し動いてしまう。

 それで足下の枝を踏み、パキッという音が周囲に響いた。

 俺としたことが――と思いつつ赤髪の男性と金髪の女性を見ると、視線がこちらに向いていて目が合う。

 ………………。

 ………………。


「こんにちは」


「こ、こんにちは」


 俺が挨拶をすると、赤髪の男性が挨拶を返してきた。


「……アイスラ」


「はい」


「あの男性、竜を倒したそうだ。まさかこんなところで竜を倒せるくらいに強い者と出会えるのは幸運だと思わないか? これからのことを考えれば戦力が大きくなるに越したことはない。勧誘しよう」


「……は? ジ、ジオさま?」


「ん? 戸惑ってどうした? ああ、なるほど。あの男性から強さを感じないから戸惑っているんだな。それはアレだ。強さを隠すのが上手いのか、俺やアイスラでは正確に強さを感じられないほど強いってことだ。だから、是非とも勧誘したい」


「ジオさま。私がこの状況から察するに、あれはそういう遊び(プレイ)――所謂ロールプレイというモノです」


「ロールプレイ?」


「はい。端的に言えば、人なり状況なりを演じて気分を高め、酔い、普段とは違う刺激を加えることでより楽しく激しく……といった行為です」


 演じている……。

 ………………。

 ………………。


「つまり、アイスラは、あの男性は竜を倒せるほどに強いのに、他者に己は弱いと思わせるくらい演技に長けている、と言いたい訳か?」


「いいえ、違います。そうではなく……う~ん……」


 アイスラが戸惑っている。

 その姿を見るのは初めてかもしれない。


「……まさか、その手の知識が教えられていない? けれど、そう考えれば私に夜這いを仕掛けなかったのも……」


 ぶつぶつと呟きながら、アイスラが悩んでいる。

 確かに、赤髪の男性の勧誘成功は難しい。

 竜を倒せたほどの逸材だ。

 それほどの強さであれば大抵のことは自力でどうとでもできるだろうから、どう勧誘すればいいか――悩みどころである。


 せめて、何かしらの糸口が欲しい、と赤髪の男性と金髪の女性を見れば――既に抱き抱えておらず、ただ立っていた。

 心なしか二人の顔が真っ赤になっているように見える。

 それに、こちら――主に俺と目を合わせないようにしているようにも見えた。

 勧誘は……駄目かもしれない。


「アイスラ……ここからどうすればいいと思う?」


「……はっ! そうですね。もう行くべきかと思います」


「え? 話しかけに行くのか? 何か妙案が?」


「いえ、違います。何も見なかったし、何も聞かなかったことにして、これ以上何も言わずにこの場から去ることが最善手です」


「え? 勧誘しないってこと?」


「はい。寧ろ見た目通りの強さで――なんでもありません。早々に居なくなることが最適解です。行きますよ、ジオさま。……では、お騒がせしました。ご迷惑をかけました。どうぞ、そのまま続きを楽しんでください」


 二人に向けてアイスラが一礼すると、俺をこの場から引き剥がすように無理矢理引っ張っていく。

 いや、そんなに引っ張らなくても、アイスラが勧誘できないと判断したのなら、それに従うけど。


 しかし、勧誘できないのは残念だな。

 竜を倒せるくらいに強いのが………………待てよ。


「だったら、女性の方を勧誘するのはどうだろうか? あの二人がパーティなら男性の方も付いてくると思わないか? それに、感じる強さは女性の方が上だ。きっと男性の方よりも強いに違いない」


「うん。ジオさま。今だけはお口を閉じて、早くこの場から離れましょう」


 アイスラによって、強制的に移動させられた。

 ……なんか変なこと言った?


     ―――


 これから少し経て――王都北東にある町「ザール」を拠点にしている冒険者の男女一組が結ばれ、町一番の仲睦まじい冒険者夫婦と呼ばれるようになる。

ジオ「ここならロールプレイについて教えてくれると」

作者「……本当に知りたいの?」

ジオ「はい」

作者「………………しょうがないなあ」

アイスラ「シャオゥ〜ワァ!(作者に襲いかかる)」

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