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きっとない

 男女様々――十数人のエルフに囲まれた。


「両手を上げろ!」


 エルフたちはそれぞれ剣や槍、弓を構え、下手な真似をすれば躊躇なく攻撃する、と態度で示してきた。

 エルフというだけあって全員見目麗しいものの、敵意を剥き出しで迫力がある。

 いや、この場合は見目麗しいからこそ、より迫力が増しているのだろうか。

 まあ、何にしても脅威とは感じない――強いとは思うが、俺とアイスラなら対処可能だから――が、敵対する意思はないので、ここは大人しく従っておく。

 両手を上げる。

 次いで、アイスラも両手を上げた。


「………………おい、それはどういうことだ?」


 エルフの一人――長い髪を後ろで一つに纏めている、所謂ポニーテールと呼ばれる髪型をしている女性エルフが、訝しむように言ってくる。

 多分、このポニテエルフがこの場に居るエルフたちのリーダーなのだろう。

 感じる強さがエルフたちの中で一番だ。


 ただ、言っている意味がわからない。

 どういうことだも何も、指示された通りに両手を上げているだけなのだが。

 それとも、上げ方が悪かったのか? 普通に上げただけなのに? もしかして、エルフだけに通じる、何かしらの意味が含まれた上げ方でもしてしまったのだろうか?


 不思議に思っていると、ポニテエルフの視線が、俺とアイスラに向いていないことに気付く。

 どこを見ている? と視線を追えば、エルフの少女が俺の背後に隠れるようにして、俺やアイスラと同じように両手を小さく上げていた。


「………………いや、何故お前まで上げている? お前はどう考えても向こう側なのに」


「これでも立派なレディよ! お前なんて呼ばないで! それとも、もうそんな風な呼び方が許されるくらいに親しくなったつもり?」


「親しくなっていないつもりだ。そもそもお互いに名乗りすらしていないのに、親しくなったも何もないのは確かだ。それに、あちら側はどう考えてもお前――あなたを迎えに来たのだと思うが?」


「やればできるじゃない! でも、駄目よ! 行かないわ! だって、このまま行ったら怒られるじゃない!」


「……怒られる理由はなんだ?」


「私でも単独で狩りができると勇ましく飛び出したはいいものの、魔物に軽くあしらわれて逃げるしかなく、挙句の果てには人族に助けられた、というのが理由よ」


 ………………。


「あなたはまだしも、俺が怒られる理由はないな」


「なっ! あるわよ! あるある! ……きっとあるわ!」


 そう連呼すると、逆にないと思われるぞ。

 本当にないから、それで構わないが。

 まあ、それでもエルフたちは警戒を続けているので、俺たちも上げた両手を下ろしたりはしない。

 ただ、エルフたちはちらちらと絶命している巨大なサソリを見ているし、何人かはどうする? という感じで顔を見合わせている。

 敵ではないと少しでも伝われば、こちらの話を聞いてくれるかもしれない、と思ったのだが――。


「………………」


 ポニテエルフが射殺さんとばかりに俺を睨んでいるのはどうしてだろうか。

 そのまま俺を指差してくる。


「き、貴様! 妹に何をした! 目を離したこの短時間の間に、そこまで親密になるなどあり得ない!」


「……妹?」


 思い当たるのが一人しか居ないので、エルフの少女に視線を向ける。

 その通り。妹だよ。と頷きが返ってきた。


「……なるほど。妹なのか。だが、どこをどう見れば親密に見える?」


 そこがわからないんだが、とポニテエルフを見るが通じていないようだった。


「どこをどう見ても親密だが! ――はっ! そうか、わかったぞ! 貴様は催眠や洗脳といった特殊技能持ちなのだな! それで妹を意のままに――はっ! ま、まさか、私もその毒牙に!」


 自分の身を守るように体に両手を回すポニテエルフ。

 二度気付いたような言い方をしたが、どちらも間違っている。

 思わず、エルフの少女に「……妹なんだから、どうにかしてくれないか?」と尋ねたが、「……いや、その……思い込みが激しい時があって」と返された。

 それもあるかもしれないが、それだけでエルフの少女が断ったようには見えない。

 もしかしたら、姉には逆らえない妹なのかもしれない。

 しかし、そうなると今回のエルフの少女の行動は……初めての反抗なのだろうか?

 だから、ポニテエルフが過剰な反応になっている――ということも考えられるな。

 まあ、何にしてもエルフの少女では、この場というかポニテエルフを落ち着かせることはできなさそうだ。


 なら、他のエルフにやってもらおうと視線を向けるが、誰も目を合わせてくれない。

 いや、エルフたちよ。それは取り囲んでいる側として、対象から目を離すのはどうなんだ?

 どうやら、自分でどうにかするしかないようだ。

 仕方ない。


「……よいしょ」


「ちょっ! レディなんだから扱いに気を付けてよ!」


 エルフの少女を抱き上げて、ポニテエルフの方へ向かう。

 ポニテエルフの視線がさらに強くなるが、知ったことではない。

 他のエルフたちは、なんか、すみません、御迷惑をおかけして――という雰囲気だ。

 あと、アイスラが何故かエルフの少女を射殺さんとばかりに睨んでいる。

 理由はわからないが、誤解されるかもしれないからやめて欲しい。


「お返しします。まあ、元々頂いたつもりもありませんが。ちなみに、洗脳? 催眠? だったか。そういうのも一切していませんので」


 エルフの少女をポニテエルフの前に立たせて、俺は元の位置に戻って再び両手を上げる。


「だ、大丈夫だったか? 怪我はないか? あの人族の男に何かされていないか?」


 ポニテエルフが、エルフの少女の周りをぐるぐると回って、何も異常がないかを確認する。

 傍から見れば妹を心配する姉のように見えなくもないが……それは関係なければで、何かあれば矛先がこちらに向きそうなので、そういう風には今のところ見えない。


「……え、えっと、ごめんね。お姉ちゃん。……お姉ちゃんの役に立ちたいと思って」


 エルフの少女がそう言う。

 俺に言った内容と違うが……まあ、そういう思いもあったのだろうし、それがきっかけだったのかもしれない。

 そういうことでいいと思う。

 違うとか言えば、また面倒なことになりかねないし。


「いいんだ! いいんだよ! 無事に見つかったのなら! これで何か言ってくるのが居たら、お姉ちゃんがぶっ飛ばしてやるから安心して!」


 ……う~む。ポニテエルフの方はポニテエルフの方で問題がありそうというか、見目麗しい容姿なのに力による解決を選択するのに迷いがない感じだ。

 そのポニテエルフが他のエルフたちに構えている武具を下ろすように合図を出し、こちらに視線を向けてくる。


「どうやら、本当に妹を助けてくれただけのようだな。先ほどまでの態度は悪かった。すまない」


「いや、エルフを攫おうとする者が居るのは事実だ。警戒するのもわかるから、気にしていない。当然の反応だと思うからな」


「そう言ってくれると助かる。妹を助けてくれた礼をしたいところだが」


「なら、エルフに会ったら一つ確認したいことがある。『イクシー・パワード』と『シ―リス・パワード』、もしくは『コンフォード・メイン・ルルム』は、まだそちらの方に居るのか?」


「……それを確認してどうする?」


「連絡を取りたい。俺はパワード家の血縁者だ」


 ハッキリと、そう告げる。

取り囲むエルフたち「妙な真似をすれば………………お前から殺す!」

作者「なんで俺!」

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