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エルフの少女

 再びエルフを発見した。

 ただし、少女で、巨大なサソリに襲われそうになっている最中である。


「――こっちに、来ないで!」


 エルフの少女から、大きな魔力が放出されるのを感じた。

 変化は直ぐに訪れる。

 エルフの少女の近くにある木々が揺らめき出し、枝を伸ばして巨大なサソリに襲いかかった。


「ギシャアアアッ!」


 巨大なサソリが、体躯に合わせた大きな鋏型の触肢を振るって切り刻む。

 エルフの少女が木々を操ったと思うのは驚きだが、巨大なサソリにはまったく通じていない。

 ただ、その間にエルフの少女は逃げるために駆け出した――が、直ぐにこけてしまう。

 体に力が入っていないように見えた。

 おそらく、先ほどの魔力放出が原因だろう。

 来ないで、という感情のままに一気に放出してしまい、それで力が入らないのかもしれない。

 そこを狙ったかのように、巨大なサソリは鋏型の大きな触肢の片方を開き、エルフの少女を挟むために伸ばす。


 ――まあ、何にしても、様子見はここまでだ。

 俺とアイスラがこの場に現れる。


「アイスラは魔物の方を!」


「かしこまりました」


 巨大なサソリはアイスラに任せて、俺は速度を緩めずに突っ込み――エルフの少女の前に立ち、エルフの少女を挟み込もうとしている大きな鋏型の触肢を両手で受け止めた。

 挟み込もうとする重く強い力が両手から伝わってくる。

 だが、負けない。パワード家の者として。

 両手に魔力を流して強化する。

 グッと堪えた。

 これで十分。


「――剣を使うまでもありません。死になさい」


 巨大なサソリが尻尾の鋭利な先端でアイスラを襲っていたようだが、アイスラは意に介さずに、振るわれた尻尾の鋭利な先端を足場にして高く跳躍して、そのまま落下していく際の力も加えて、巨大なサソリの頭部を踏み潰した。

 両手に伝わっていた重く強い力がなくなり、巨大なサソリの体躯が地に沈んで絶命したのがわかる。


「一撃とは。さすがアイスラだ」


「ありがとうございます」


 アイスラが優雅に一礼する。

 足下の頭部がなくなった巨大なサソリについては触れないでおこうと思う。

 俺は反転して、エルフの少女を見る。


 長い金髪に碧眼、非常に整った顔立ちに長い耳、起伏の乏しい体型の上に軽装を身に着けている少女。

 ただ、知識として、エルフは長命故に容姿の成長が緩やからしいので、見た目が自分よりも年下の少女であっても、生きた年月は自分より上だった――なんてことがあるかもしれない。

 対応には気を遣わないと。


「大丈夫か?」


 エルフの少女に声をかける。


「あ、ありがとう。助か……」


 俺を見て、エルフの少女が固まった。

 あっ、このあとの行動が何故かわかった――ので、両手で両耳を塞ぐ。


「ぎゃあああ! ひ、人族ーーー!」


 それはもうもの凄い声量だった。

 周囲一帯の魔物を呼び寄せるのでは? と思うくらいに。

 さては、この少女、エルフでありながら森でやってはいけないことを知らないのか?

 急いで口を塞ぎたいところではあるが、両耳を塞いでいるというだけではなく、こう絵面的に危ない気がしたのだ。


「お、落ち着け! 危害を加える気はない!」


 そう言ってみるが、エルフの少女の叫び声は大きく、多分聞こえていないと思う。

 仕方ないか、と行動を起こそうとした時、アイスラがエルフの少女の前に立ち、目の前で手を叩く。


「黙りなさい!」


「……もう一人居た!」


 声量は落ちたが、エルフの少女は驚きで目を大きく見開く。

 ……しかし、なんというか、こう……エルフというのはもっと物静かというか、何事にも動じない、一見すると冷徹に見えるかもしれないような冷静さを持っていると思っていたのだが……もしかすると、見た目通りの少女だからだろうか?


「あっ! その顔! 私を見て少し落胆するってどうなのよ! エルフ的にそれは許せないわ! ここは『なんて見目麗しく可憐なエルフのレディなんだ。心が奪われてしまいそうだ』とか言うところでしょ!」


 ………………。

 ………………。

 首を傾げる。


「なんでわからないのよ! 見目麗しいでしょ! 私は!」


「……エルフの小娘が……ジオさまにそのような口を利くとは……処しますよ」


「――ひっ!」


 エルフの少女が怯えて、俺を盾にするように後ろに回ってきた。


「なんで怯えている?」


「いや、あの女、どう考えても怖いでしょうが!」


「アイスラは別に怖くないし、寧ろ優しい女性だが」


 エルフの少女が何を言っているのか、わからない。

 アイスラはその通りと言いたげに胸を張り、一方でエルフの少女は信じられないものでも見るかのように俺を見てきた。

 何故そんな目を向けられるかわからないが、一つわかることがある。


「というか、先ほど俺を見て人族だと驚いていたのに、いいのか? 俺を盾のように使って」


「え? ……あっ!」


 即座にエルフの少女が逃げようとするが、その前にアイスラが回り込んで進路妨害して止める。

 エルフの少女は、前にアイスラ、後ろに俺が居る状態となった。

 もう一度、声をかける。


「まずは落ち着け。どうもしない。聞きたいことがあるだけだ。巨大なサソリから助けた訳だし、話くらいは聞いてくれてもいいと思うが?」


「た、助けてくれたことには感謝しているわ。で、でも、人族がエルフ族を前にして、どうもしない、という言葉を信じろと? そうやって言葉巧みに上手く誘導して、見目麗しいだけでエルフ族を攫うんでしょ? そう教えられたわ! 人族との接触は危険だって!」


 随分と人族を悪し様に……という訳でもないか。

 これまでの歴史で、確かにそういう一面があったことは間違いない。

 ただ、それがすべてではない――ということをわかって欲しいが、現状でエルフの少女がこちらの言葉を信じるのは難しいと思う。

 どうしたものか。

 先ほどのエルフの少女の叫び声で魔物が集まってくるかもしれない場所で、このままここに居続けるのは得策ではない。

 移動したいが、エルフの少女が大人しく従ってくれそうにないし……困った。

 とりあえず、魔物が来ていないか確認を――と周囲の気配を探る。


 ――複数の反応があった。

 ただし、魔物ではない。これは、人?

 四方八方からこちらに向かってきている。


「アイスラ! 周囲を警戒!」


「――これは、何事ですか?」


 アイスラの問いに、俺は思わずエルフの少女を見る。

 エルフの少女は勝利を確信したかのような笑みを浮かべていた。


「私がただ大きな声で叫んでいただけだと思った?」


 なるほど。叫び続けたのは、仲間を呼ぶためか。

 やってくれる――と思うと同時に、四方八方にある木々からエルフたちが飛び出してきて、俺たちを取り囲んだ。

アイスラ「ジオさまにそのような口を利くとは……処しますよ」

エルフの少女「ひっ!」

作者「ひっ!」


エルフの少女「いや、なんであんたまで! そっちの仲間でしょ!」

作者「いや、なんとなく」

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