見つからないと思った時に見つかる時もある
「魔の領域」である森に籠り出して、数日が経った。
今は森の中層を主にエルフ捜索を行っているのだが、拠点となるような場所が早々に見つかったのは、非常に助かったと言える。
拠点として見つけた場所は、小高い丘の下にできていた、最奥まで歩いて一分もかからないくらいの浅い洞穴。
魔物のねぐらだと思うが、ここ最近居た形跡がない。
おそらく「魔物大発生」で倒した魔物のどれかなのだろう。
少し離れているが、湖があったので水場もある。
ここを気兼ねなく使わせてもらうことにした。
ただ、拠点は直ぐに見つかったものの、エルフ捜索の方は難航している。
そもそも、エルフが毎日活動しているとは限らないので、見つからない時はまったく見つからない、というのもあるにはあるが……こう、なんだろう。森の中だけとは限らないと思うが、まったく関係ないものなのに、それっぽいと勝手に認識してしまうというか……。
木の幹に何かを示すような傷跡が付いている――かと思えば、熊型の四本腕を持つ魔物が爪とぎに使っているとか。
熊型の四本腕を持つ魔物は「紛らわしいですね」とアイスラが殴り、蹴り、投げの連続技で隙を与えず一方的に倒した。
最近通った跡のある獣道を見つけた――かと思えば、猪型の巨大な魔物が通った跡であったり。
猪型の巨大な魔物は「新鮮な肉! 猪肉!」とアイスラが収納魔法から剣――鋭利な風纏いの剣を取り出して、瞬時に部位毎に切り分けた。
なんか地面が大きく抉れていて、その上に大きな木があって下を潜って進めるようになっている――かと思えば、通れるだけで何もなく、通ったあとにアイスラと共に大きく息を吐いた。
まるで一本道を形成すかのように、左右に木々がある――かと思えば、進んだ先には特に何もなく、アイスラが静かに「期待させた罰として伐採しましょう」と鋭利な風纏いの剣を取り出したので止めた。
こんなところに洞窟が! 進んだ先に地底湖が! ――かと思えば、守護者みたいな白い大蛇が居たのだが、エルフではないので放置した。
木々に囲まれた場所に空から陽の光が降り注ぎ、その中心には切り株に刺さった剣があった――かと思えば、抜いてみたけれど、特に思うところはない剣だったので元に戻しておいた。
長い歴史を感じさせる、一部が崩壊している古代遺跡を見つけた――かと思えば、エルフどころか魔物の痕跡すらなかったので、ここに用はないと踵を返した。
とにかく、何かしらについてそれっぽいものはいくつか発見したのだが、エルフ捜索には何の役にも立たないものばかり。
まだ他にも何かしらが見つかりそうだが……その中にエルフに繋がるものがあることを願う。
―――
森に籠り出してから今日で六日目。
しかし、エルフのエの字も見つけられていない。
痕跡すら見つかっていない。
ここまでくると、かなり徹底的に隠蔽している可能性がある。
いや、そもそもこれまでにそれらしいのが見つかっていないのだから、可能性ではなく、徹底的に隠蔽しているのは間違いない。
けれど、中層はそれなりに広範囲を回ってみたが、一つも見つけらないというのは……深層まで行かないと駄目だろうか?
しかし、何かしらがあるのは、中層が一番可能性として高いと思っている。
――あの時の状況をエルフ側に立って考えるならば、あれはヘルーデンを助けるために魔物を狩っていた、というよりは、普段の狩り場に魔物が居なかったため、居るところまで移動してきた結果だとして、そのあとに去っていったのだが、あそこから中層ならまだしも、深層まで行くのならもっと急ぐはずだ。
なのに、急ぐ様子はなかったということは、そこまで急がなくても辿り着ける場所――中層に何かしらがある、と思ったのだが………………違うかもしれない。
……これは思い込みだろうか。
推測は間違っていない、と思いたいだけかもしれない。
「それでは、ジオさま。先に休ませて頂きます」
「ああ、おやすみ」
アイスラにそう答えたあと、考え続ける。
一度、この思い込みを捨てて、別の可能性を模索しよう。
……案外、運でどうこうなるかもしれないが。
「……ボソッ(私の勝負下着は連日連夜不戦敗続きですね……ですが、それは現状において些末なこと。さあ、今夜もジオさまの匂い付き寝具で良い夢を見ましょう。もちろん、ジオさまに私の匂いが付くようにしっかりと匂い付けもしないといけません)」
視界の端で、アイスラが小さくガッツポーズを取ってからテントへと入っていった。
何かしらのやる気に満ちているように見える。
アイスラのやる気を見習って、俺も頑張ろう、と思う。
……そうだよな。まだ明日で一週間だ。
違う可能性があると断ずるのは早いかもしれない。
それに、明日はヘルーデンに聖女が戻る日なので、一旦戻る日だ。
戻ることに変わりはないが、丁度いいと思う。
体力はまだまだあるが、精神の回復は必要である。
一度しっかりと休んで頭を休めることにした。
―――
翌日。いつも以上に手早く後片付けをして、ヘルーデンに向けて出発する。
素早く駆け抜けていき、中層からそろそろ浅層に入ろうか、というところで――。
「きゃあああああっ!」
幼さを感じさせる高音の悲鳴が耳に届く。
「ジオさま!」
アイスラが俺の名を呼ぶ。
どうしますか? と問うているのがわかる。
……まったく、ここは「魔の領域」である森だというのに……周囲は魔物だらけで、悲鳴を上げれば招き寄せることになるのだ。
短い時間で色々と考えるが――答えは一つ。
「悲鳴が聞こえた方へ行くぞ。アイスラ」
「かしこまりました」
悲鳴が聞こえた方へ向かうが、その姿はどこにもない。
移動しているようだ。
「いや! いや! 来ないで! 来ないでってば!」
先ほどの悲鳴と同じ声が耳に届く。
聞こえてきた方へ視線を向ければ、草花が不自然に倒れて道のようなものができていた。
「あっちか!」
駆け出す。
声は定期的に聞こえてきて、近付けば近付くほど鮮明になる。
さらに速度を上げて一気に近付くと、未だ距離はあるが、妙な輝きの体表を持つ巨大なサソリが何かに襲いかかろうとしているのが見えて、その何かは――エルフの少女だった。
ジオ「それでは、見張りの交代よろしく」
作者「ああ、任せろ。………………なんで俺だけ別テントを一人で使っているのだろうか。………………専用。うん、きっと、そう。そう思って心を守ろう」