実感する
目に焼き付けた場所――エルフを見つけた場所に辿り着いた。
エルフ捜索はここから始める――といきたいところだったが、ここに来るまでにそれなりに時間がかかったので、もういい時間である。
これまでであれば、ヘルーデンに戻らないといけない時間だろう。
なので、一旦この付近で野宿できる場所がないかを探す。
――あった。
近くに、魔物の気配はない小さいが川が流れていて、その小さな川に接している、少しばかり開けた場所を見つけたので、そこにする。
食料品だけではなく飲料も大量に持ってきているが、有限であることに変わりはない。
持ってきたものを節約できるのであれば、それに越したことはないのだ。
水の煮沸も問題ない。
俺のギフト「ホット&クール」で一度沸騰すればいいのだ。
同じように、食料品も温かくできる。
こういう時、便利だな、と常々思う。
ただ、火は使わないが多少なりとも光源は必要なので、アイスラが魔法で仄かに光る球体を出現させて――。
「………………」
そのままアイスラが何かを呟いていたかと思えば、周囲に僅かながら聖なる気配が満ちていった。
「簡易的なものですが結界を張っておきました。一応、光が結界の外に漏れないようにもしています。ただ、ジオさまも知っていると思いますが、私は攻撃系統が得意な反面、こういう系統は少々不得意なため、侵入を完全に阻むといったことはできませんので、ご注意を」
「わかっている。ありがとう」
結界があるのとないのとでは安全面で大きく違う。
不得意だろうとも、使ってくれるだけでありがたい。
一応、周囲の魔物の気配を探ったが、今のところは近くに居ないので、この光景を見られたということはないだろう。
あとは、もっと時間が経ってみないことにはなんとも言えないし、エルフが動くかもしれないので、周囲の気配を探ることだけはやめないでおく。
そのあとは温かい食事と冷たい飲料でお腹と精神を落ち着かせ、その食事中に軽く話し合って――夜の間は俺が見張ってアイスラは就寝して、朝方に交代してアイスラが見張って俺が就寝して、エルフ捜索は俺が起きてから、となった。
「それでは先に休ませて頂きます」
アイスラが収納魔法を発動して一人用のテントを取り出して、その中に入っていく。
……とりあえず、先に体でも拭いてさっぱりとしておくか。
肩掛け鞄の中からタオルを取り出し、濡らして、ギフトで温めて、体を拭いていく……が、アイスラの入っていったテントから視線を感じる。
………………結界は張っているが、もし俺が襲われても直ぐ対処できるように、かな。
ありがたい、と思いつつ、負担にならないように手早く済ませて、あとは見張りに専念する。
まずは、いつでも魔物を倒せるように、ギフトで超熱の槍型空間を形成しておく。
………………。
………………。
アイスラの入ったテントから、周囲を探るような感じがなくなった。
眠ったのだろう。
………………。
………………。
しかし、何も考えないようにしようとしても、こういう時は自然と何かしらを考えてしまうものだ。
でもまあ、考え過ぎると眠れなくなる時もあるし、今は見張りの時間だからそれで起きていられるのなら悪くないかもしれない。
……考え過ぎて周囲への警戒を怠らないように気を付けないといけないが。
しかし、実際に想定するのと実行するのは大きく違うな、と今は実感する。
想定の甘さというか、王都からヘルーデンに辿り着くまでに何度か野宿も経験したからいけると思ったが、いざ実行すると色々と抜けがあると思う。
といっても、ある程度はアイスラと力を合わせれば解決できることだが、足りないというか必要だと思うのは、やはり人の数だ。
まあ、人が多過ぎるとその分食料とか必要なものが大きく増えていくので、それはそれで新たな問題が起こるが、できることが増えるというのは非常に助かる。
睡眠時間の取り方も変わって、しっかりと休めるようになると思う。
……ハルートたちに協力をお願いするか?
言えば協力してくれそうだが、あまりこちらの事情に巻き込ませるのもな、と思わなくもない。
共にエルフを見たラウールアとアトレにお願いするというのもあるが……辺境伯令嬢だからとか、学園に戻るからとか、そういうことを考える前に、アイスラとアトレの関係性が頭を過ぎって一旦預かろうか、と即答できないのだ。
アイスラとアトレの二人で見張り――なんてことになったら、何が起こるか不安で逆に眠れないかもしれない。
下手をすれば、起きたら周囲一帯が灰燼になっている、なんてこともあり得そうだ。
手伝ってもらう人を増やすにしても、人選はしっかりとしなければならない。
……何にしても、まずは一週間だ。
聖女がヘルーデンに来るまでは、頑張ってみよう。
やってみて、初めて気付くこともある。
そう一旦結論を出して――あとは周囲の気配の変化を逃さないように気を張りつつ、今度について色々と考えていった。
―――
周囲一帯から魔物の気配はするが、結界で光が漏れ出ていないということが大きいのだろう。
魔物がこちらに気付いたどころか近寄る様子もなく、アイスラを起こして見張りを交代する。
自分用のテントが肩掛け鞄の中に入っているが、「お互いのテントを出し入れするのも一手間になりますから、このままこちらをお使いください」とアイスラの言葉に甘えることにした。
「……さてと、私も体を拭きますか。しっかりと隅々まで拭きますので、普段は見えないアレやコレやが見えてし」
アイスラが何か言っているような気がしたが、横になると急に眠気が襲ってきて、負けて寝た。
―――
翌日……いや、日が変わっても起きていたから今日か。
起きた瞬間、アイスラの気配が近くにあったような気がする。
だが、テントの入口はしっかりと閉まって……なんか少し開いているような……こんなものだったような……直ぐ寝たからわからないな。
まあ、こんなものだろう。
テントの外に出ると、アイスラが待ち構えていた。
「おはようございます。ジオさま」
「おはよう。アイスラ。……なんか妙に艶々していないか?」
「………………おそらく、先ほど顔を洗ったからでしょう。朝に顔を洗うとさっぱりして気持ちが良いですからね」
なるほど。確かにその通りだ。
アイスラに倣って顔を洗ってさっぱりしてから食事を取り、きちんと後片付けをしてから出発する。
エルフを見つけた場所まで戻り、そこからエルフが去っていった方へと進んでいく――のだが、これに関しては目印のようなものはない。
また、去っていったとはいえ、場所が直ぐ、なんてこともあり得る。
異変とまではいかないが、何か気になるものがあれば積極的に調べるようにアイスラと話し合って、注意深く進んでいく。
特にこれといったものは何も見つけることはなく、精々が魔物を何体か倒したくらいで、浅層から中層へと入っていった。
作者「さて、そろそろ見張りの交代の時間か。ジオくんを起こしに」
アイスラ「てい(作者へ首とん)」
作者「うっーー(倒れる)」
アイスラ「ジオさまの寝顔は私が守る」
作者「いや、そういう話ではなくーーというか、地面に直寝はーーがくっ」