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サイド 家族 4

 一方、ジオの家族の方は――。


     ―――


 サーレンド大国の北部にある、国一番の大きさと強固さを誇る収容所に、オール・パワードは未だ収容されていた。

 ここのボス的存在として。


「「「おはようございます! ボス・オール!」」」


 オールの朝。他の収容者たちに会うと、まず朝の挨拶としてこれが飛んでくるようになっていた。

 当然のように収容者たちは揃って後ろで手を組み、綺麗に腰を曲げて頭を下げている。


「ボスはやめろ、と言っているが?」


「「「すみません! ボス!」」」


 オールはやめろと口にするが、やめる気はないだろうな、とも収容者たちの言動を見て思っていた。

 それだけではない。


「「「おはよう。ボス・オール」」」


 本来であれば収容者には厳しく接するはずの看守たちも、他の収容者たちと同じ反応なのだ。

 これにはもちろん理由があった。

 ここは収容所である。

 となれば、当然収容されるのは犯罪者で、収容される者の中には非常に凶悪狂暴な者も居て、先日そのような者がここに収容されて大いに暴れた。

 ここには専用魔道具を身に着けていなければ非常に弱体化するのだが、その者は看守の隙を突いて奪ったのである。

 看守たちが取り押さえようと応戦するが、その者は強く、看守たちは次々と傷付き倒れていく。

 そこに、オールが現れた。


「……あ? なんだ? 俺さまと一緒に出たいのか? だが、残念だったな! これがないと力を発揮できないんだろう? ヒャハハ! 足手纏いは要らねえんだよ! 死ねや!」


 暴れる者がオールに襲いかかる。

 ただ、オールがこの場に現れたのは、収容所内の騒動を利用して逃げるためではない。

 暴れる者を取り押さえるためだ。

 もちろん、オールは弱体化している。力の差は大きい。

 しかし――。


「単純な力の差だけがすべてではないと教えてやろう」


 戦闘格闘技術を用いて、暴れる者を取り押さえたのである。

 そのまま押さえ付けたまま暴れる者が身に着けていた専用魔道具を取り払い、看守に引き渡す――だけでは終わらず、傷付き倒れた看守たちに対して医療とまではいかないが的確な応急処置を施して助けた。


 そういうことがあって、オールは看守たちからも感謝されているため、あのような態度となっているのだ。

 収容者たちも、看守たちも、オールを敬う態度を取る。

 言っても聞かない状況に、オールはやれやれと息を吐く。

 半ば諦めの心境となっていた。


 ――そんなある日のこと。

 収容所のオールが入れられている部屋。

 鉄格子が嵌められた窓からオールが夜空を見ていると、不意に鉄格子の隙間から室内を覗く大きな鳥が現われて、オールが何事かと思っている間に、その大きな鳥は鉄格子の隙間から押し込むようにして小さな鞄を中に放って去っていった。


     ―――


 オールが大きな鳥から小さな鞄を受け取る少し前――。


 メーション侯爵家の屋敷。

 カルーナ・パワードには思うことがあった。

 作為的な「魔物大発生(スタンピード)」についてではない。

 それについては、決定的な証拠は手に入らなかったが、ジャスマール伯爵がヘルーデンを手にしようと画策したことだと調べはついていて、その目的としては近隣一帯を手中に収めるためといったところでしょうね、とカルーナはあたりを付けていた。

 それはどこも間違っていないのだが、現状だとこれ以上の手出しはできず、これにはジオが関わっているので、もしかすると――という思いがあって、一旦そこで考えるのを止める。

 思うところとは、それではない。


 カルーナがルルアとやり取りをしている時に、手紙を運び、届けてくれる、つーちゃんを見て思ったのだ。

 こちらが考えているよりもかしこい、と。

 言葉を発することはできないが、こちらの言葉を理解しているだけではなく、テイム状態の魔物ではあるがハルートがガチガチに縛っている訳ではないためか、自分の意思でしっかりと物事を判断して行動している、と思ったのである。


 だから、カルーナは先に聞いておこうと、つーちゃんにお願いしてみた。


「サーレンド大国という、隣国ではあるけれどここから少し距離のある国があるのだけれど、あなたはそこまで飛ぶことはできるかしら?」


「……つつっ!」


 つーちゃんは西の方を見ながら、少し考えて……大丈夫、と頷く。

 国の位置、それと行き来ができるかを計算してから答えを出したのね、とカルーナは感心する。

 やはりかしこい、と。


 そこからカルーナはオールの現在地を調べ上げ、並行してルルアを介してハルートにつーちゃんを一度サーレンド大国に向かわせる許可を取る。

 収容所の詳細な設計図に、オールがどの部屋に居るかまで調べ上げて、カルーナはつーちゃんにどうすればいいのかを説明した。


「やはり、夜がもっとも成功率は高いと思うわ。でも、これは机上の空論。現場でしか判断できないこともあるから、最終的にはつーちゃんの判断に任せることになるけれど、大丈夫よね?」


「つつっ!」


 問題ない、と胸を張るつーちゃん。

 確認を取ったあと、筆記用具と折りたたんだ紙――現状を書いたものと返信用――を入れた小さな鞄をつーちゃんに持たせる。


「つーちゃんだけが頼りなの。お願いね」


「つつっ!」


 飛び立つつーちゃんを見送るカルーナには笑みが浮かび、その胸中は夫からの手紙を期待して少し躍っていた。


     ―――


 ルルム王国の南にある巨大な川の向こうにある国――シシャン国へと無事に辿り着いたリアン・パワードと元王妃たち一行。

 元王妃の親類が居るのはシシャン国の王都であるため、そこへと向かう――はずが、途中で足止めを食らう。


 とある男爵ととある子爵は常日頃から仲が悪く、遂に武力衝突を起こすところまできているのだが、その場所が悪かった。

 戦場となる場が王都に向かう街道近くであるために、通行禁止となってしまったのだ。

 そこを抜けていれば問題なかったのだが、抜ける前であったために、リアンと元王妃たち一行はその前にある町で宿を取り、そこから進めなくなってしまう。


「遠回りはできないのか?」


 部屋で二人。今後について話し合っていた元王子――ライボルト・メイン・ルルムがリアンに問う。

 リアンは少し考えたあとに首を横に振った。


「無理だな。この街道は山と山の間を進んでいくもので、王都を目指して遠回りしようとしれば地形的な問題でかなり外回りをしなければならなくなる。それで辿り着けはするが、それだと時間がかかり過ぎてしまう」


 リアンは、現状で時間をかけ過ぎるのは悪手だと考えていた。

 その理由は一つ。

 いつ新王の気が変わって凶行に出るか――捕らわれている元王を殺すかわからないからである。

 だから、迅速な行動が必要なのに、と思う。


「ただ、これは調べたところ、そう悪いことではないと思う」


「というと?」


「派閥の話だ。男爵は王族派。子爵は貴族派。そして、私たちが会おうとしている方は王族派だったはず。違うか?」


「……う~ん。確か、そうだったはずだ」


「……念のため、あとで元王女(レレクイア)さまに確認した方がいいか?」


「そうだな。でも、王族派で間違いなかったはずだ。それで、王族派だからと……ああ、そういうことか」


「ああ。ここで王族派の手助けをしておけば好印象を得られる。協力も得られやすくなるかもしれない。それに、この戦いを短期で済ませれば遠回りしなくても王都に辿り着ける。その方が遠回りするよりも早いと思う。だから、男爵の方に協力するつもりだ」


 リアンが笑みを浮かべる。

 それはどことなく凄惨なものだった。

 何しろ、個としての力も相当なものであるが、リアンがもっとも力を発揮するのは軍略だからである。

 ルルム王国最強のオールですら、親のひいき目なしでリアンをルルム王国一の軍略家であると評して、軍略では勝てないと公言しているのだ。

 まあ、そもそも軍略を力で破るのがオールという存在であるため、それを信じるかどうかは別となっていた。

 もちろん、ライボルトはリアンが国一番の軍略家だと思っている。


 このあと、リアンはライボルトと共に元王妃たちに状況説明をして提案を行い、男爵側につく。

 ただ、この選択は幸と不幸があった。

 幸の方は、男爵は武人であり、当然のようにパワード家のことを知っていたため、リアンと元王妃たちの目的も聞いた上で互いに協力する約束を取り付ける。

 不幸の方は、子爵の兵力が男爵の三倍はある、ということだった。

 どちらも同じ貴族といえども、爵位が一つ違えば扱える力の大きさも変わってくる――ということをまざまざと見せつけてきたのだ。


 そして、戦端が開かれると――リアンの軍略が冴え渡ることでどうにか戦えることができた。

 男爵側に精鋭が多かったことも関係しているだろう。

 しかし、数の差――それも三倍となれば、どうにかするのは非常に困難である。

 それでも、と奮闘しているところで、まるでこうなることがわかっていたかのように、子爵側の倍の数は居る援軍が現れた。


 王族の家紋が描かれた旗を掲げる――王軍である。

 つまり、王族派――男爵側の援軍であった。

 本来であれば、これはあり得ない。

 もちろん、男爵は援軍の要請は出していたが、それは他の王族派の貴族に向けてであって、王さまに向けてではないのだ。

 また、戦端が開かれてから王都を出たとしても、ここに現れるのはもっと時間がかかる。

 ということは、戦端が開かれる前から王軍がここに向かっていた、ということにはなるが――何故そのようなことをしたか、男爵側は誰もわからない。

 当然リアンと元王妃たち一行も、だ。


 その答えは、王軍が子爵側に攻め入ったあと、リアンの下に来た現れた王軍を率いる美麗な女性軍団長が現れて判明した。


「リアン殿か? カルーナさまから、貴殿がルルム王国の王族と共にこの街道で王都に向かっているから迎えに行って欲しいと頼まれたので迎えに来た。貴殿と王族に何かあってはいけないと王軍の一部を率いてきたが、それが功を奏したようだな」


 もちろん、リアンは自分の行動をカルーナには話していない。

 話せる訳もない。

 なのに、ここにこうして迎えが現れたのだ。

 助かった。ありがとう、と感謝するのと合わせて、こういうことでの母親の読みの深さには勝てない、とリアンは驚嘆した。

オール「ふう。久々の出番で肩が凝ったな。ステーキを頼む」

カルーナ「そうね。あっ、私は甘いのが欲しいからケーキと紅茶をお願い」

リアン「ですが、この先でジオと会えるのなら、まだまだ頑張れる。私はパスタを」


作者「ここは飲食店じゃねえよ!」

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