対「魔物大発生」 6
ラウールアとアトレと行動を共にするという約束の取り消しは、ウェインさまから認められる。
「認めてくれるのは助かるのですが、ルルアさまに無断で取り消して大丈夫ですか?」
「………………」
ウェインさまは腕を組んで頭を悩ませる。
色々と考えて、心なしか冷や汗をかいているように見えるが……きっと気のせいだろう。
そのことには触れない方がいい気がした。
「だ、大丈夫だ! それに、ジオに何かしらの考えがあってのことではないのか?」
もちろん、と頷く。
そうする理由は一つ。俺が全力を出すには個人で動く必要があるからである。
パーティ行動では全力を出せないのだ。
そして、全力を出す理由として、森から出てくる魔物の半分が中層の魔物というのは、ぐるちゃんに手伝ってもらったとしても、現状のヘルーデン混成軍では厳しいということ。
下手をすれば、昨日以上の被害が出るかもしれないからだ。
俺の考えを説明すると、ウェインさまとマスター・アッドは同意するように頷く。
現状のヘルーデン混成軍は、表に出ていない疲弊がある、とウェインさまとマスター・アッドも気付いていたようだ。
昨日を乗り越えたことで、今日は勢いが付き過ぎてしまっている。昨日の勝利が大き過ぎて、今は冷静さを欠いている。と懸念もしていた。
「それを、どうにかできるのか?」
ウェインさまが真剣な表情で尋ねてきたので、頷きを返す。
「俺が全力を出せればどうにかできる。アイスラも居るから問題ない。パワード家の者として、その力の限りを振るうだけだ」
「そうか。パワード家の力を借りられるのなら、これほど心強いことはない」
ウェインさまとマスター・アッドは納得してくれたが、共に行動しているラウールアとアトレは納得してくれるかどうか――と少し思っていたのだが、ラウールアとアトレは変わらずというか、不満があるような表情は浮かべていなかった。
ラウールアが俺にジト目を向ける。
「……何よ、その目は。私がごねるとでも思ったの?」
「まあ、少しだけ」
「……そうね。少し前までの私ならごねていたと思うわ。でも、ジオと共に行動して、ノスタまでの道中の出来事を経て、私だって少しは成長しているのよ。自分の弱さを認められるくらいには」
「……!」
ラウールアの言葉に反応したのは、ウェインさま。
何故か中腰に構え出した。
「消耗もしているし、今の私が無理について行こうとしても足手纏いになると思う。だから、私は大人しくしているわ。……あっ、それとも、あの賊たちへの牽制と抑止力には当事者も関わっていた方がいいと思うから、補給物資の方についていこうかしら」
う~ん、と悩み始めるラウールアに向けて、ウェインさまが飛びつく。
「ラウールア! よくぞ、そこまでの成長を! 父は嬉しいぞ!」
「ちょっ! いきなり何! 抱き着こうとするな! そういうのいいから!」
ウェインさまをどうにか押しのけながら、ラウールアが尋ねてくる。
「あっ、そうだ。ジオ。一応。私から一つ提案というか、もっと戦力が必要なら、アトレをそっちに」
「必要ありません」
即座にアイスラがお断りを入れた。
無言で睨む合うアイスラとアトレ。
戦力は確かに大きくなるが、これがあるからなんとも言えないのである。
ともかく、これで存分に戦えるということだ。
―――
戦場となっている平原へと向かう。
既に戦いは始まっているだろう。
俺がヘルーデン混成軍に求めることは一つ――中層の魔物と無理に戦わずに、足止めに徹してくれればいい、というものだ。
それについてはウェインさまとマスター・アッドに伝えて、ヘルーデン混成軍の方にも広めて徹底してもらう予定なので、俺とアイスラは中層の魔物に狙いを絞り、浅層の魔物はヘルーデン混成軍に任せるつもりである。
「まずは最初にしていた遊撃のように、平原の端から端まで駆けて中層の魔物を倒していく」
「かしこまりました」
「殲滅力を優先する。俺はギフトを使うから、アイスラは少し離れていてくれ。その距離はわかるな?」
「問題ありません」
「あと、アイスラも剣を使って構わない」
「わかりました。使わせてもらいます」
アイスラと話している内に門から外の平原へと出る。
思った通り、戦闘は始まっていた。
ヘルーデン混成軍の様子は、ウェインさまが懸念していた通りというか、冷静さは感じられず、興奮状態といったところだ。
中層の魔物にも、自分たちならいけると無謀な戦いを繰り広げている。
非常に危険だ。
今は興奮状態で疲労を忘れられるくらいに精神が張り詰めているようだが、それが切れたらもう動けないだろうから、そうなる前に動き出す。
「アイスラはヘルーデン混成軍が相手しているのを優先して倒してくれ! 俺はそれ以外のギフトで倒せるのを優先して倒す!」
「かしこまりました」
アイスラが周囲から見られないようにして、収納魔法の中から一本の剣を取り出した。
その剣の名は――確か、鋭利な風纏いの剣。
剣身に風を纏い、柄には凝った宝飾が施されているが、それは豪華さを演出するためのものではなく、纏う風の力を高めるためのもので、切り裂くことに特化した剣である。
「先に行きます!」
アイスラが速度を上げて飛び出す。
向かう先で戦闘が起こっていようがなんでもないように駆け抜けていき、浅層の魔物には目もくれずに中層の魔物だけを狙って、一振りで両断していく。
また、アイスラの動きは洗練されており、まるで躍っているかのような優雅さがある。
ヘルーデン混成軍だけではなく魔物ですら、その姿に見惚れて動きが止まることがあった。
「いや、よそ見をしている場合か?」
俺も戦場の中へと入り、中層の魔物を狙って剣で急所を突くなり、斬るなりして倒していった。
戦場に入った辺りにはまだヘルーデン混成軍が居るので、まずは周囲の魔物しか居ない場――森の近くまで一気に進みつつ、準備を始める。
視界の中の一部の空間の熱をどこまでも上昇させていく。
ただ、視界の中の一部の空間を意識するということは集中しているということである。それは視野が狭めるため、それを動きながらというのは少しキツイ。
特に四方を敵に囲まれているような状況だと尚更で、死角の範囲が大きくなる。
だからこそ、気配を読む力を鍛え上げたのである。
狭まった視界を補うために、周囲の気配を鋭敏に感じ取っていく。
後ろからの攻撃すら、避ける。
反撃は最小限。
焦らなくていい。
元々攻撃は得意ではないし、そもそも時間さえ稼げればいいのだ。
四方から攻められるが、そのすべてをかすりもさせずに回避していく。
正直、これくらいの魔物相手ならいくらでも避けられるとうか、やりやすい。
一部例外は存在するものの、魔物は本能による攻撃ばかりで技術がなく、個の主体が強くて連携も取らないからだ。
これで人であれば技術があって、その上で連携も取り出すから、やり辛い。
……まあ、魔物はそういうのが要らないくらいに、生物として強い、というのもあるが。
そんなことを考えている間に、準備は整った。
ギフト「ホット&クール」によって、超熱の槍の穂先空間が出来上がる。
それを動かして、近くに居る中層の魔物の頭部を貫通させた。
基本、頭部を潰せば終わりだからである。
実際、貫通させた魔物は倒れ、絶命した。
視界を動かし、超熱の槍の穂先空間で中層の魔物頭部を次々と貫通させていく。
抵抗は一切感じられない……まあ、そもそも温度がどれくらいかは感じられても、衝撃とか抵抗とかは持っている訳ではないので一切感じないのだが。
それで周囲に居る中層の魔物を一掃すれば、次へと向かう。
周囲に味方は居ないので、超熱の槍の穂先空間を縦横無尽に扱うことができた。
一応、ヘルーデン側には少し離れた位置にアイスラが居るので、ヘルーデン混成軍の誰かがこちらに抜けてくるといったことはないだろう。
アイスラと共に遊撃として平原を駆け回りながら、中層の魔物を出会い頭に瞬殺していく。
途中でぐるちゃんに乗ったハルートが戦っている場所を見つけたので、そこは任せることにした。
そうして、森から出てくる魔物が減るまで行い、少なくなれば休憩を取り、また森から魔物が多く出てくる――といったことを二日ほど繰り返し続けていく。
すると、時間が経つと共に、中層の魔物だけではなく、森から出てくる魔物の数も減っていった。
森から感じられる雰囲気も落ち着いていく。
「……終わりが近いのかもしれない」
翌日。森から感じられる雰囲気は落ち着いたものとなり、森から魔物が出てくる、といったこともなくなった。
ヘルーデンは「魔物大発生」を乗り越えたのだ。
ジオ「(槍の穂先空間を縦横無尽に動かす)」
作者「やっ! はっ! とお!(槍の穂先空間を避ける)」
ジオ「………………」
実際はジオが当てないように動かしている。