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という感じらしい

 森から溢れ出てくる魔物の大半が、中層に出てくるような強力凶悪な魔物であった。

 それは多くの者にとって、絶望の光景と言ってもいいもの。

 中層の魔物を相手にできるのは限られた者だけ。

 数の力でどうにかしようにも、それをものともしないのが中層の魔物である。

 それでも――と数に頼って戦おうとすれば、要らぬ大きな被害を出すことになるのは間違いなかった。

 だからこそ、絶望の光景なのだ。


 それを目にしただけで、ヘルーデンを守るために戦っていた騎士、兵士、冒険者たち――ヘルーデン混成軍の多くは心が折れた。

 動きが止まり、魔物がヘルーデンに襲いかかろうと近付いて来ているのをただ見つめるだけで、その心の中は、もう駄目だ。終わりだ。という思いで埋め尽くされる。

 ヘルーデン混成軍の中で正気だったのは、中層の魔物とやり合えるだけの力を持つ者だけ。

 対応しようにも数が足りない。個の戦力も足りない。

 鼓舞する声を上げるが、反応するのは僅か。

 大局には影響しない。


 絶望した者。正気な者。

 絶望の光景を見た誰もの――ヘルーデンを治める辺境伯(ウェイン)の脳裏にも、ヘルーデンが魔物によって蹂躙される姿が過ぎる。

 その時、場が静まっていたからこそ、その声は大きく響き、そこからの出来事は人々の心を熱く灯し、鼓舞し、突き動かす。


「ぐるちゃん! 森のはいいから、森から出て来て手伝って!」


「ぐるるるるるっ!」


 ――希望が舞い降りた。

 森から飛び出して、平原へと下り立つグリフォン。

 その存在の格は中層を越えた――深層の魔物。

 一部の者以外、誰もが更なる絶望を最初に抱く。

 しかし、グリフォンの背に青髪の男性が乗り、そのまま森から現れる中層の魔物を次々と蹴散らしていった。

 その光景を見ている者は、自然と気付いていく。

 あのグリフォンは敵ではないということを。背に人を乗せているということはテイムされているということを。つまり、乗っている人はテイマーだということを。中層の魔物をものともしない存在が味方として現れたということを。


「あのグリフォンは味方だ! 敵ではない! 味方だ!」


 辺境伯(ウェイン)の言葉がその後押しをする。

 続いて、冒険者ギルドマスター・アッドもその言葉に同意するように声を上げ、グリフォンが味方である、という希望はヘルーデン混成軍全体に瞬く間に広がっていき、それは活力を生み出して、ヘルーデン混成軍に戦う意志を呼び起こした。


 グリフォンを先頭にして、中層の魔物と戦える者を中心としたヘルーデン混成軍は、軽重どちらも多くの負傷者を出したが、絶望を乗り越えたのである。


     ―――


 ――という感じらしい。

 マスター・アッドから、そういう説明を受けた。

 ウェインさまから、ではない。ウェインさまは、今ラウールアに同じような話をしている。

 そっちが忙しそうだ。

 アイスラとアトレも説明を聞いているので今は大人しい。


 というか、内容がかなり誇張されている気がするし、説明された時の言葉遣いも普段と違っていたと思うのだが……これを押し通すつもりそうだ。

 どこに押し通すかと言えば、吟遊詩人とか劇作家とか、そういう人たちに。

 ヘルーデンが「魔物大発生(スタンピード)」を乗り越えれば、間違いなくこの話は各地に広まっていく。

 その時に名場面の一つとして、ここを推していく、と。


「……まだ終わっていないのに、もう終わった話なのか?」


 少しだけ呆れながら言うと、マスター・アッドが苦笑を浮かべながら口を開く。


「それだけ絶望的な状況だったのだから仕方ない。それを乗り越えた反動で今ヘルーデン内はどこも明るい話をしたがっていて、その格好の材料になっているのがハルートとグリフォンという訳だ。それに、明るい話にはジオたちのものもあるぞ」


「俺たちのもの?」


「遊撃として動いているのを見ていたとか、実際に助けられたとか、森に中に入って様子を見てきたことは俺とウェインさまが――はいいとして、とにかく駄目押しだったのは、届いていなかった補給物資を届けさせたことだ」


「そこまでのことなのか?」


「そこまでのことなのだ。何しろ、数多の中層の魔物を相手取った結果、ヘルーデンは持っていた物資をかなり使ってしまったのだ。食料もそうだが、何より負傷者多数で回復薬が足りなくなった。そんな時にジオたちが補給物資と共に戻って来たのだ。それでジオたちの話をしないというのは無理がある。止めることもできない」


 ……まあ、派手に動いていたのは否定できない。

 これで俺の存在が新王側に伝わる可能性は大いにある。

 でも、これでヘルーデンを救う助けの一つにでもなっているのなら、伝わっても後輩はない。

 それに、手掛かりはもう見つけた。

 今後はほぼ森の中に居るだろうから、ヘルーデンに新王側の者が来たとしても、もうどうしようもないだろう。

 運悪くヘルーデンに戻った時に遭遇したのなら、その時は返り討ちにすればいいだけなので、気にしないことにした。


 今気にするべきは「魔物大発生(スタンピード)」の方だ。

 終わった訳ではないのだ。

 今のヘルーデンの明るさは一時のこと。

 本当の意味で明るくなるように、やるべきことをやるまでだ。


 互いに報告を終えたあと、明日からについて少しだけ話し合う。

 結果――特に確定するようなことは極めなかった

 明日の森から出てくる魔物の状況に左右されるからである。

 ただ、補給物資を再び持ってくるために明日ノスタに戻る馬車の一団だが、途中で賊たちの回収があるため、騎士、兵士をいくらか付けて、それに俺たちが同行するかは、明日の状況次第となった。


 そこまで話してから、今日はもう休むことにする。

 仮眠しか取っていないので、そろそろ寝たい。

 俺とアイスラだけ、この天幕から出る。

 ラウールアはウェインさまにまだ捕まっているし、アトレはそんなラウールアに付き従っているからだ。

 一応、ラウールアとアトレも仮眠しか取っていないので早々に休ませた方がいい、とウェインさまに一声かけてはみたが……効果があるかはわからない。


 俺たちが使っていた天幕はそのまま残しているそうなので、そこに向かう。

 その途中で、賑やかな場所を見た。

 大きな人の輪ができていて、明るく、喜び、驚きといったもので溢れている。

 その大きな輪の中心に居るのは、ハルートとぐるちゃん。

 シークとサーシャさんの姿も見えた。

 これで、ヘルーデンでもぐるちゃんはハルートと行動を共にできるだろう。他のテイムしたものも同様だ。

 受け入れられたようで良かったな、と思う。


 ただ、さすがにあの大きな輪の中に入る気はない。

 今日ヘルーデンで共に戦い、乗り越えた人たちの輪だと思うからだ。

 ハルートたちとは、また後日会えばいい、とそのまま素通りして天幕に辿り着くと直ぐに寝た。


     ―――


 翌日。

 森から出てくる魔物の構成は、中層と浅層が半々くらいだった。

 昨日の中層の魔物が大半だったということに比べれば随分と楽に感じるが――そうではない。

 普通、中層の魔物というだけで脅威であり、それが現れた魔物たちの半数となれば、脅威どころの話ではないだろう。


 昨日を生き延びたい影響からか、「大丈夫だ! いける!」と言い出す者が多かった。

 負傷者も日に日に増えている。

 連日の連戦で疲れも相当溜まっていると思う。

 いくらぐるちゃんの助けがあるとはいえ、正直に言えば無茶である。


 だから、ウェインさまとマスター・アッドに、ラウールアとアトレは俺とアイスラと行動を共にすること、と約束させられているが、その取り消しを願い出た。

 俺のギフト使用の戦闘は、周囲に人が居ると使えないからである。

ジオ「さて、ギフトを用いた戦闘を始めるか」

作者「………………いやいや、待て待て! ジオくん! まだ俺が近くに居るけども? ジオくん!」

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