ふんっ!
途中にある、今はたくさんの檻がある場所に一時的に寄る。
この場について、補給物資を運ぶ馬車の一団の代表の方には、ここに来るまでの間に事前に説明しておいた。
ヘルーデンに補給物資を運んだあと、ノスタに戻る際に回収をお願いしている。
その際、俺たちが同行するか、騎士、兵士がどうこうするかはまだ決まっていない。
ヘルーデンの状況次第だ。
そして、ここに寄る目的は、顔に傷跡のある男性と青い髪の男性を馬車から降ろすためである。
降ろしたあと、アトレに新たな檻を作ってもらい、そこに入れておく。
二人はホッと安堵する。
仲間たちと似た反応なのだが、それでいいのか、と言いたい。
いや、顔に傷跡のある男性とその仲間たちの他にも、檻の中で安堵している賊たちが居る。
どういうことかと様子を探れば、なんか檻の周りに魔物が居た痕跡があった。
……これはアレか? 餌があると魔物が来たけれど、檻が頑丈で駄目だったので諦めた、といったところだろうか。
あと、いくつかの檻には魔物ではなく逃げ出そうとした痕跡がある。
石でどうにか削ろうとしたり、地面を掘って抜け出そうとしたり、疲労困憊なのは多分檻を折り曲げようとしたのだろう。
どれも無駄な労力で終わっている。
どの檻にも傷一つ付かずに石は砕けているし、堀った部分の先にも檻は続いているし、どの檻もどこも曲がっていない。
「見えないところだからと、手を抜くような真似は致しません」
アトレが自慢げに胸を張る。
「――ふんっ!」
アイスラが近くの檻を掴んで折り曲げ――ようとして、そのまま掴んでいる部分を掴み取って檻の一部に穴を空けた。
「欠陥品ですね。私が作り直した方がいいかもしれません」
「面白いことを言いますね。私がそのようなミスをするとでも? これはそもそも賊の力量に合わせた強度で作ったというだけで、ご希望でしたら、あなたの力量に合わせた、あなたでも破れない強度の檻をご用意しますよ」
「それはこちらの台詞です。ご用意しましょうか? あなた程度では破れない強度の檻を」
「………………」
「………………」
「「ぬうん!」」
二人の四方の地面からたくさんの細い槍が突き出しつつ、等間隔で横にも同じ細い槍が伸びていって――瞬く間にそれぞれを閉じ込めた檻を形成する。
アイスラとアトレ。それぞれ檻の中に閉じ込められたという状況に陥った――。
「「ふんっ!」」
かと思えば、二人共が即座に檻を破壊して自由を得た。
「あら? 私の力量に合わせたという割には脆い檻でした。あなたの力量が足りないのではありませんか?」
「おや? 随分と簡単に砕ける檻ですね。あなた程度の力量で私を抑え込むことはできない、ということの表れかと」
睨み合って火花が散り、ピリついた空気を発するアイスラとアトレ。
顔に傷跡のある男性とその仲間たちを含めて、賊たちが震え出した――のは別にいいのだが、先へと急ぐのでラウールアと頷き合ってから声をかける。
「行くぞ、アイスラ」
「行くわよ、アトレ」
「「かしこまりました」」
アイスラとアトレの間にあったピリついた空気は霧散して、ヘルーデンに向けて出発する。
―――
大所帯というのもあるが、どの馬車も補給物資を大量に積んでいるので速度自体は思っているよりも遅い。
それでも、早くにノスタを出たということもあって、どうにか陽が落ちる前にヘルーデンへと辿り着いた。
門の周辺に魔物は居らず、門の付近を守っていた騎士や兵士、冒険者たちから歓迎されながら中へと入る。
止まらずにそのままヘルーデン内を進んでいき、目指すは「魔の領域」である森の方にあるヘルーデンの門――そこにある作戦本部へと向かう。
まずはウェインさまとマスター・アッドに報告すべきだからである。
補給物資が届いたことは直ぐに広まり、ヘルーデンに残った人たちから喜びの声がところどころで上がった。
作戦本部に着くと、どうやらここまで広まっていたようで、ウェインさまとマスター・アッドが出迎えてくれる。
「全員、さすがだな! よくぞ、補給物資を届けてくれた!」
「成し遂げてくれると思っていた。物資が切れかかっていたからな。本当に助かったぞ」
二人が安堵しているのが見てわかった。
それくらい追い込まれていたのかもしれない。
俺たちが出てからの話を聞きたいが、まずはこちらの話を進めておくべきだろう。
「補給物資の方を任せたいところだが、先にこちらから報告することがある」
「わかった。少し待て」
そう言ってウェインさまが騎士の数名に指示を出して、補給物資を載せている馬車の一団へと向かわせる。
補給物資の方は任せて大丈夫そうだ。
なので、この場で一番大きな天幕へと移動する。
現在、森から現れる魔物の数は散発的になっているそうなので、まずはウェインさまとマスター・アッドに報告を行うためだ。
もちろん、伯爵と嫡子も連れて来て。
報告を行う間も、伯爵と嫡子は大人しくしていた。
まあ、暴れないように拘束して、口を開けば煩そうなので猿ぐつわもさせているので、大人しくするしかないが。
悪事の証拠となる紙束も渡して、こちらからの報告を聞き終えたウェインさまとマスター・アッドが伯爵と嫡子に向ける目は非常に冷たい。
「……なるほど。ジャスマール伯爵が私と貴族として本格的にやり合いたいと言うのであれば徹底的にやってやろうではないか。ここまでのことを起こしたのだ。覚悟はできているのだろうな? と言いたいところだが、既に娘が倒したから、今はそれで一旦落ち着いておこう。お前との今後については『魔物大発生』が終わってからだ」
ウェインさまが伯爵に向けて、本気と思うほどの濃密濃厚な殺意を向けた。
伯爵は耐え切れずに泡を吹いて気絶する。
直接殺意を向けられた訳ではないのに、その余波で嫡子の方も泡を吹いて気絶した。
ウェインさまは騎士を呼び、伯爵と嫡子を城の牢に入れておけと運ばせる。
途中の賊たちに関しても、人的余裕があれば人を派遣すること、それと残る街道の方にも賊は居るだろうから、それをどうにかしなければならないな、とウェインさまとマスター・アッドは難しい表情を浮かべた。
ただ、何をするにしても、まずは「魔物大発生」の方を乗り越えなければ意味はない。
なので、「魔物大発生」について、俺たちが居なかった間のことを聞く。
俺たちが出発した日の、陽が傾き始めた頃に森から現れる魔物の数が減り始めて――その辺りまでは問題なかった。
多少、中層の魔物の数が増えたくらいで、それくらいであればまた対処できたのである。
問題はそのあとだった。
森から現れる魔物の大半が中層の魔物だったのだ。
戦える者が限られている中層の魔物となると、大きな被害が出るのは間違いなかった。
しかし、その大きな被害は――出なかったのである。
「ん? 出なかったのか? 中層の魔物を相手に?」
「ああ。出なかった。ハルートの決断のおかげだ」
ハルートの決断。
それで何をしたのか、なんとなくわかった。
確認して、間違いではないとわかる。
ハルートは、グリフォンを呼んだのだ。
作者「ジオくん。なんというか、アイスラなら脱臼したとしても『ふんっ!』て言って自力で治しそうだよね」
ジオ「いや、そういうのは専門の方にやってもらった方がいい」
作者「うん。そうだけど、アイスラならできそうだなって話で」
アイスラ「興味があるのでしたら、やってあげましょうか? ……あなたの体で実演を」
作者「申し訳ございませんでした!」