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星喰らいの盛衰  作者: 彼岸花
マエススミ
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マエススミ1

 クモグイが誕生し、ホシクモ達の繁栄が終わってから三億年の歳月が流れた。

 ビギニング星系の中心では今も連星が煌々と輝いている。ヒトが棲む太陽系の恒星・太陽よりも遥かに軽いビギニングAとビギニングBは、太陽よりも寿命が長い。三億年経とうと大きな変化はなく、今も力強く核融合反応を起こしていた。

 ではビギニング星系は変わりないかと言えば、その答えはNO。ビギニング星系はこの三億年の間に、大きな変化を遂げている。

 まず、恒星の周りには無数の雲状コロニーが出来ていた。大きなものに限っても数百ものコロニーがあり、これらの大きさは地球型惑星に匹敵するほど巨大。直径数キロ程度の『小型』コロニーであれば五十万以上はある。そしてこれらのコロニーは、群れる単細胞生物達によって作られていた。

 クモグイが誕生する以前よりも、更に生物の総数が増えている。これはかつてのような、食物連鎖のない平穏な世界の再来を意味しているのか? そのような淡い希望は持つべきではない。

 むしろ喰うか喰われるかの争いは激化している。あちこちで獰猛な単細胞生物が獲物を求めて動き回り、天敵の接近を察知した単細胞生物が大急ぎで逃げ出す。ミクロな世界の中で、無感情にして容赦のない命の応酬が繰り広げられている。

 とはいえこれらの争いは地球生命から見ればまだまだ未熟なものだろう。何分彼女達は単細胞生物。生み出せる行動は細胞単体で出来る事までで、しかもその能力は高くない。酸素の噴射などで動いても、時速数十センチも出せれば十分高速という程度。狙いを外して捕食者が何処かに飛んでいったり、逃げた先に新たな敵がいたがその敵に気付かれず横をすり抜けたり、命のやり取りをしている筈なのにどうにも緊張感がない。これが単細胞生物の食物連鎖の限界だった。

 だが、この緩やかな弱肉強食は既に終わりを迎えつつある。新たな生物群が誕生し、繁栄を始めているからだ。そのグループは成功を収め、様々な種が誕生している。

 今回観察する生物も、そうした成功者の一つ。

 体長は百二十マイクロメートル。三億年前の成功者であるホシクモと比べ、十倍以上の大きさを誇っていた。身体は細長く、地球生命で例えるなら大腸菌のような形態である。進行方向に対し細長い身体を水平に保っており、明確な前後を有す。前方には食物を得るための筒状の口があり、後方末端からは凡そ三百マイクロメートルにも達する極めて長い鞭毛が生えていた。

 そしてその身は、複数の細胞で出来ている。

 顕微鏡などで観察すれば、身体に幾つもの『境目』があると分かるだろう。鞭毛を持つ細胞を除けば、どれもほぼ同じ形をしている。質感などにも変化はなく、機能的な分化は殆どしていない。

 このように複数の細胞で出来た生物を、多細胞生物と呼ぶ。彼女達は地球の生き物からすればとても小さな存在であるが、しかし今のビギニング星系に棲む生物にとっては『巨大』な存在だ。そしてその身体は、単細胞だった時には成し得なかった複雑にして高度な仕組みを有している。

 新たな生物の歴史が始まり、悪魔の誕生がまた一歩近付く。次なる悪魔の祖先の暮らしぶりを、その生涯を観察する事で知ってみよう。






 脂肪酸膜核細胞ドメイン


 コロニウス門


 長鞭毛綱


 マエススミ目


 マエススミ科


 マエススミ属


 マエススミ


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