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星喰らいの盛衰  作者: 彼岸花
ホシクモ
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ホシクモ1

 悪魔の始まりは、ある宇宙に浮かぶ一つの星系からだった。

 その星系には、珍しい特徴があった訳ではない。例えばその星系の中心に浮かぶ恒星は、二つの恒星が互いの重力に引かれ、付かず離れずの位置を保つ連星である事。恒星が一つしかない太陽系で暮らすヒトから見れば奇妙な特性は、銀河に数多存在する恒星から見ればむしろ主流なものだ。

 質量は主星(連星のうち明るい方を指す)が太陽の〇・九倍、伴星は太陽の〇・八倍程度。この重さも銀河の中では珍しくもない、よく見付かるサイズである。現時点でこの星系は誕生から三十億年が経過しており、主系列星として光り輝いている。

 まだこの宇宙が『若い』時に誕生した恒星であるため、付近ではそれまでの歴史で死んだ星が少ない。死んだ星が少ないと、老いた星でのみ生成される物質……金属や酸素なども少なくなるため、この星系にはそういった重元素が少ないのが特色か。とはいえこのような形質は、この星系が生まれた時代では珍しくもないが。

 星系内に存在する惑星は二つあり、どちらも地球よりやや大きい程度のサイズだが、恒星から遠いため液体の水は存在出来ない。奥まで凍り付いた地表面に生物の姿はなかった。星系内には無数の小惑星が浮かび、恒星達の引力により数年から数千年周期の公転軌道を描く。

 一つ一つ挙げたように、これらの特徴を持つ星系は、銀河中を探せばいくらでも見付かる。どれもこれも有り触れていて、特筆するほどの事はない。特別に記すべき事柄があるとすれば……恒星のごく近い範囲だけ。

 そこに生息するごく少数の『生物』についてだろう。

 この生物は大きさ三マイクロメートルの、極めて小さな存在だった。分厚い細胞膜を持ち、その内側には様々な器官を有している。この小さな細胞一つだけで『個体』を形作る単細胞生物と呼ばれるものだ。

 細胞膜で覆われたその『身体』は球形をしているが、綺麗な形はしておらず、炉端の石ころのように凸凹が目立つ。粘液などの湿り気は帯びておらず、乾いている事も特徴的だろう。細胞表面には針で開けたような小さく深い穴が無数に存在していて、多くのヒトはこの姿に(肉眼で見えるような大きさではないが)生理的な嫌悪を覚えるかも知れない。細胞に目立つような突起物などはなく、鞭毛も見られない。細胞膜は極めて濃い青、即ち紺色をしていた。

 外見からも分かるように、極めて原始的な生物だ。恒星のすぐ傍にいるのは稀な性質だが……身体の構造自体は『普通』のもの。この宇宙全体から見ればいくらでも確認出来る単細胞生物でしかない。運動能力は細胞表面を波立たせる程度で、ただ恒星の周りをぐるぐると慣性により周回しているだけ。君達の地球に生息する細菌と比べても、特別優れた能力がある訳でもない。

 しかし、これが全ての始まりだ。

 銀河だけでなく、宇宙さえも恐怖させた悪魔。全ての命が絶望し、屈服させた最強最悪の一族。

 その始まりの祖先の暮らしぶりから、まずは観察してみる事にしよう。






 脂肪酸膜核細胞ドメイン


 糖壁細胞門


 柔細胞膜綱


 ホシアカリ目


 ホシアカリ科


 ホシアカリ属


 ホシクモ

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