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星喰らいの盛衰  作者: 彼岸花
ヒレナガウチュウサカナ
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ヒレナガウチュウサカナ1

 マエススミが繁栄した時代から時は流れ、六十八億年が経過した。

 質量が軽い恒星の寿命は極めて長いものの、ここまでの時間が経てばその姿形や性質も著しく変化する。何十億年と続いた核融合により水素が減少し、膨張していくのだ。ビギニング星系の二つの恒星も同じように変化している。重たいビギニングAでは星としての『老化』が顕著で、六十八億年前よりも一割以上直径が増大していた。

 起きた変化は星の巨大化だけではない。星が放つ明るさも、六十八億年前よりも三十パーセント以上強くなった。放たれるエネルギーも相応に大きくなっている。この変化自体は恒星としてはなんら不思議ではない(太陽も歳を取るほど明るさが増している)が……周りの環境は大きく変化した。強い光を浴びる事で星系内の惑星や小惑星で気温が急上昇。氷の惑星は溶け出し、第一惑星が宇宙空間に霧散した。今、ビギニング星系に惑星は一つしかない。その惑星も刻々と小さくなっており、三十億年以内に消失する。

 惑星が消えた環境と言えば、地獄のような悪環境と人間は思うかも知れない。だが、宇宙空間に適応したビギニング星系在住の生物達にとっては、惑星の揮発はエネルギー(食べ物)の増加だ。

 このため生命の数は、マエススミ全盛期である六十八億年前よりも遥かに増えていた。

 溢れ返るほど増加した微生物達は、ビギニングAとビギニングBより一億〜二億キロ圏内にて、雲のような密度で漂っていた。あまりにも莫大な数故に恒星の光が遮られ、ビギニング星系の存在を『外』に漏らさない壁となっている。

 そして生きているのは、ヒトでは視認出来ないほど小さな微生物だけではない。

 大きく進化した生物も数多く生息していた。体長十センチ未満の個体が大部分を占めているが、一メートルや二メートルを超える生物もかなりの数生息している。中には十メートルどころか百メートルにもなる大型生物もいた。種類や形も極めて多様で、ヒレを何枚も生やした種や、刺々しい背ビレや分厚い甲殻に守られた種も見られた。食性も光合成で生きるもの、他の生物を食べるもの、死骸や排泄物を好むもの……生きた生物の表皮だけを齧る種や、高エネルギー放射線だけを好んで吸収するような変わり種もいるなど極めて多様だ。今や生息種数は六十万種を超え、極めて複雑な生態系を構築している。

 この時代で観察する悪魔の祖先も、こうした多種多様な生物の一つに過ぎない。

 体長三十八メートルを有するその生物の身体は流線型をしており、地球生命で言うところのサバやイワシなど遊泳力に優れた魚のような体型をしていた。しかし背ビレや腹ビレは見られず、身体の側面からは四枚のオール状の……ハッキリ言ってしまえばアシカなど地球に生息する海獣に似たヒレが生えている。ヒレは胴体前側にある二枚が長さ二十メートル、後方にある二枚も十二メートルと非常に長い。体色は黒く、艶のないものだ。

 身体は上側下側に形態的な差はなく、どちらが腹でどちらが背なのか判別が付かない。尾ビレはなく、代わりに三十メートルと長く伸びた尻尾が備わっている。尻尾の付け根には四つの穴が存在し、そこから青白い『ジェット』を噴出していた。体色は黒で、虚空である宇宙空間に溶け込むほど濃密かつ光沢がない。

 大きく発達した頭部には口がある。それもマエススミのような筒状の、原始的な作りのものではない。上下に開閉し、獲物を『挟む(咥える)』事が出来る口だ。こちらも上下に対象なため、やはりどちらが上顎なのか下顎なのかは分からない。開いた口の中には鋭い牙が無数に生えており、獰猛な食性であると物語る。

 そして頭にある特徴の中で、特筆すべきは目の存在だろう。

 この生物には目があるのだ。形は真円に近い丸型。身体と同じく黒い目だが、体色と違い僅かに光沢があるため、ヒトの目でも『目玉』がある事は視認出来る。数は四つあり、頭の上下に二つずつ並んでいた。

 身体には棘や鱗がないため、シンプルな見た目ではある。しかし上下対象という容姿、それと尻尾付け根から出ているジェットなど、ヒトからすれば如何にも異星生物といった見た目に思えるだろう。この姿は宇宙空間という、惑星とは異なる環境に長い歳月を掛けて適応してきた結果だ。

 この生物こそが、宇宙の悪魔と呼ばれた一族の直系の祖先である。

 悪魔はどのようにして誕生したのか。この生物の生態を観察しながら、答えを追っていくとしよう。






 脂肪酸膜核細胞ドメイン


 血骨格獣門


 魚模綱


 ミズクイウオ目


 ミズクイウオ科


 ウチュウサカナ属


 ヒレナガウチュウサカナ


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