第5話 移動 〜魔法ってヤバいだろ〜
「行くぞ」
ヴィシュヌさんは、ニヤリと笑って、右手を胸の前に出した。
ヴァン！
手の中から、青色の魔法陣が浮き出し、
「ハアァァアアッ！」
とヴィシュヌさんが声を上げた。
叫び声に呼応するように、魔法陣は徐々にサイズを拡大していき——。
ヴァン！
ぼくらの足下に魔法陣が移動した。
魔法陣が大きくなっただけではない。
青色がやがて光を放ち、三人は、宙へ浮いた。
独特の感覚……。これが浮遊というやつか。
「……凄い。楽しい、楽しいよっ！ ウミっ！」
ぼくが反射的に言うと、ウミはくすくすと笑った。
「リクさんは初めてなんですね」
「もちろん初めてだよ。そもそも、ぼくらがいた世界には魔法なんてものがなかったからね」
「魔法は便利ですよ。とは言っても、私はほとんど使えませんが、お父様の魔術は一級品です」
会話の最中もどんどん体が浮き上がっていく。
ふわふわー、ふわふわー。
鳥になったみたいで、気分爽快だ。こんな素敵な体験、現実世界では絶対にできない。
異世界バンザイ！ 異世界サイコー！！
ぼくが興奮していると、ヴィシュヌさんは腰を叩いてから、口を開いた。
「それじゃ、ローレライ城へ向かうぞ。出発進行じゃっ！」
ぼくは、ウミと視線を交わす。
改めて、この子がぼくの奥さんになった。
その事実が幸せでたまらない。
もはや、胸が苦しい。幸せが溢れすぎて、胸が苦しい。
ぼくの第二の人生は、ここから始まる——。
「行こう！ ここから、始めよう！」
「はいっ！」
とびきりの笑顔でこたえてくれるウミ。
夫婦の会話の後、僕ら三人はお城へ急発進した。
グォーーーッ！
ガァーーーッ！
全身で風を切る。ぼくら確かに、空を飛んでいる。
目にも留まらぬスピードで、高速移動を続ける。
お城はもう、すぐそこだ。
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