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未来ドロップス  作者: 玉乃野 詩
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6 守谷吾郎

梨香子は、1週間分の食料を冷蔵庫にしまいながら、先ほどまで一緒にいた守谷の話を思い出していた。


ーーーーーーーーー


守谷吾郎 32歳。20代にみえるくらいの童顔だが、梨香子が思っていたほどは若くはなかった。

社会人としてそれなりに嫌なことや辛いことも経験して来たようだが、ものすごく素直でさっぱりとした性格から、まるで疲れているところがないように見える。

学生時代は剣道を頑張ってきて、迷うことなく警察官への道を志した。

その真っ直ぐさが、まだ社会人になって間もないような新鮮さを保たせているのかも知れなかった。


剣道と聞いて納得のいく、すらりと引き締まった体格で、古い表現で言えば「細マッチョ」というところだろうか。学園ものの青春ドラマに、脇目も振らずにスポーツに打ち込む役で出てきそうなタイプである。


ただ、どちらかというと饒舌な方で、ペラペラと軽い話をひたすらに続ける男性が苦手な梨香子は、一瞬構えたのだったが、守谷はゆったりとした口調で、落ち着いた声を持ち、明るい話題が豊富で、好感度が高かった。


そして、あまりに気になったので率直に聞いてみたところ、パン屋は副業ではなく、修行のような感じなのだと彼は言った。


「退職したらパン屋をやるのが夢なんです。」

どこまでも爽やかな回答に、なんだか頭痛でも起きそうである。


「私、度々シンシアに行っているので、もしかしたら、今までに守谷さんが焼いたパン、食べてたかも知れないんですね。」


と、梨香子が守谷に合わせようと、なるべく爽やかさを意識して言うと、守谷は、何も違和感など感じない様子で、「そうですね。」と嬉しそうにはにかんだ。



ーーーーーーーー


(老後の夢か)


梨香子にとって、今を真っ直ぐに生きて、老後の夢まで持って行動を起こしている守谷が、なんだかとてつもなく眩しすぎる様に思えた。

今日一日、守谷にとても大切に扱われ、女の子に戻ったようで浮き足立つほど嬉しかったのに、反動のように重たい気持ちが押し寄せてきた。


いつもと同じインスタントコーヒーが、今日は苦いなと思ったとき、玄関で小さな物音がした。


梨香子が確認に行くと、玄関の外にはすでに誰もいなかったが、引っ越し挨拶のタオルが、どこか懐かしい空気で、ドアのポケットポストに挟まっていた。

梨香子は今朝方見かけた引越しトラックを思い出した。


(引っ越してきたのは近くの部屋の人ってことね)


他の住人と会うのはエレベーターの中ぐらいのもので、あまり話したりはしない。


引っ越してきた時も、引っ越す時も、近所に挨拶する人自体が少なかった。


(マナーキッチリ系の年配のおばさんかな?)


梨香子は急に当たり前ではなくなった日曜日を、なんとなく持て余しながら眠りについた。


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